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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(7)神具の価値

 意気揚々と酒場を出て行くサムエルを見送ったカルメンは、先ほどまで交渉をしていたテーブルへと視線を向けた。

 その視線の先では、せっかく来たので食事をしていくと言ったフローリアとシルヴィアが、軽食を取っていた。

「・・・・・・よかったのかい?」

 カルメンは、ちょうどいいタイミングを見計らってフローリアへと話しかけた。

「ん? 何がだ?」

「あんな奴に、あんな物を持たせて、だな。途中でひったくりにあったとしても、お前たちに責任を擦り付けてきそうだぞ?」

 ぱくりと食事を口に含んだフローリアに代わって、今度はシルヴィアが答えた。

「全く問題ないでしょう。そのときは、官憲に突き出すだけです」

「まあ、そうだろうけれどね。不意打ちとか闇討ちとかいろいろやりようはあると思うんだが?」

「ではお伺いしますが、あなたはあの者に不意打ちを食らいますか?」

 そのシルヴィアの問いかけに、カルメンを一瞬だけ目を丸くして、プッと吹き出した。

「確かに、あれだけ感情をまき散らかされれば、すぐに気付くだろうね」

「そういうことだ」

 口に含んだものをしっかりと飲み込んだフローリアが、端的に答えた。

 シルヴィアも同じだが、この辺りのところで育ちの良さを察することができる。

 荒くれ者が多い冒険者は、こういったお行儀のよさを持ち合わせていない者も多いのだ。

 もっとも、貴族の三男四男あたりが冒険者をやることもあるため、すべての冒険者がそうであるとは限らないのだが。

 

 カルメンもAランクの実力を持つフローリアたちが、サムエルに襲撃されてどうにかなるとは考えていない。

 ただ、そういう可能性があるということを言っておきたかっただけだ。

 わざわざ自分が言わなくても、フローリアたちはすでにその可能性があることを理解しているのであれば、それはそれで構わない。

「あんたたちが理解できているんだったらそれでいいさ」

「わざわざ忠告すまないな。それに、私たちが気をつけないといけないのは、むしろこれからだ」

「ん? どういうことだい?」

 フローリアが言った意味がわからずに首を傾げたカルメンに、今度はシルヴィアが答える。

「この神具を狙っているのは、別に私たちだけではないということですわ」

「それは、まあ・・・・・・」

 そうだろうなと続けようとしたカルメンは、考え込むように上を見た。

「・・・・・・そんな奇特な奴がいるのかい? 手に入れようとしていた私が言うのもなんだが、神具としてはあまりその・・・・・・」

 言葉を濁したカルメンに、シルヴィアも同意するように頷いた。

「言いたいことはわかります。この神具は、話に聞くような強さは持っているようには見えないですからね」

「わかっているなら・・・・・・んん? 見えない?」

 頷きかけたカルメンは、シルヴィアの微妙な言い回しに気付いた。

 見えないということは、実際には神具としての相応しい力を持っているように聞こえる。

 そして、シルヴィアは実際にそのつもりでその言い回しをしていた。

 

 フローリアもシルヴィアの言葉を否定しなかったことから、カルメンはふたりが譲ってもらった神具に、本当にあれだけの価値があると考えていることを理解した。

 自分ではそこまでの価値が見出すことはできなかったため、首を傾げた。

「正直、私にはそんな価値があるとは思えないんだがねえ」

「そうだろうな。これ以上は詳しく言えんが」

「ああ、いいさ。私も聞かないよ」

 変に首を突っ込むと、余計なことに巻き込まれる可能性がある。

 神具を手に入れようとしていたカルメンが考えるようなことではないかもしれないが、既に自分の物にはならないと確定している以上、自分から巻き込まれに行くつもりはない。

 そんなカルメンの考えを見抜いたフローリアは、首を縦に振るのであった。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そのあとフローリアたちはごく一般的な話をしていたのだが、その状況に変化が訪れたのは、丁度ふたりが食事を終えたころだった。

 酒場の入り口に、神官服を着た一団が現れたのである。

 酒場で騒いていた者たちは、途端に声を潜めて五人ほどで現れた集団の話をし始めた。

 そもそも冒険者として活動しているならともかく、聖職者たちが酒場に現れることなどほとんどない。

 その集団は、明らかに冒険者とは異質で神殿に所属している者たちだということがわかった。

 

 突然現れた聖職者の集団に戸惑っていたのは、カルメンも同じである。

「・・・・・・なんだってこんなところに坊主たちが?」

 眉をひそめてそう言ったカルメンに、シルヴィアが落ち着いた表情で答えた。

「来るはずのない場所に彼らが現れた理由など、ひとつしかないでしょう?」

「なんだって?」

 シルヴィアの言葉に意味がわからず首を傾げたカルメンだったが、すぐにとある方向に視線を向けて納得したような顔になった。

 カルメンの視線の先には、先ほどサムエルから入手した神具の剣が立てかけてある。

「・・・・・・なるほどね。それにしても随分と早くないかい?」

「早くはないでしょう。恐らく私たちが入手をしたことを知ってきたのではなく、あなたが交渉を始めたときから注目をしていたのでしょうから」

 シルヴィアがのんびりとテーブルの上にあった飲み物を口にしながらそう言った。

 カルメンは、フローリアもシルヴィアも彼らが現れたことを当然のように受け止めているのを見て、最初からこうなることを予想していたことを理解した。

 

 シルヴィアがカルメンとそんな会話をしている間に、予想に違わず聖職者の一団は、彼女たちがいるテーブルへと近付いてきた。

 まっすぐ向かって来ることからも、彼らが最初から神具に関しての情報を手に入れていることがわかる。

 向かってくる五人のうち中心にいる人物が一番豪奢な神官服を着ていた。

 そしてシルヴィアは、中心にいる人物がこのセイチュンの神殿でどういう立場にあるのか、その服を見て見抜いていた。

「・・・・・・神殿長ですか」

「それはまた。随分と余裕がないことだな」

 シルヴィアのつぶやきを聞きとがめて、フローリアがにやりと口をゆがめた。

 神殿長自らが出張ってくるということは、それだけ神具の入手を重要視しているともとれる。

 だが、フローリアの言う通り、わざわざトップが出てこなければならないほど焦っているともとることができる。

 そういった細かい情報が、交渉していくうえで重要となってくる。

 

 シルヴィアたちのいるテーブルに近付いてきた神官たちは、まっすぐにシルヴィアの元へと来た。

「エリサミール神のお導きに感謝します」

「コウスケ神のお導きに」

 お互いに信仰する神の名をつけて挨拶をするのは、聖職者特有のものだ。

 考助の名前を出したときに、セイチュンの神殿長が一瞬眉をひそめたのをシルヴィアは見逃さなかった。

 そうした対応をされることは嫌と言うほど経験しているので、フローリアはそれについては特に何も言わない。

 シルヴィアとしては、最初の挨拶で相手が現人神に対してどういう感情を抱いているのか理解できるので、大抵は考助の名前を出している。

 ちなみに、エリサミール神の加護を持っているシルヴィアは、エリサミール神の名前を出すのも間違いではない。

 

 そんな両者のやり取りを、フローリアが横から面白そうな表情で見ていた。

 女王だった時代から、聖職者の対応はシルヴィアに任せるのが常だったため、自分を無視するような展開にも特に思うところはない。

 むしろ、シルヴィアにすべてを任せてしまう気になっているフローリアなのであった。

サムエル退場! 神殿長登場!

あっさりと退場していったサムエルですが、実はカルメンとの会話で魔鉱石を売って得たお金を博打ですべてすっても知ったことではない、とかいうようなものを入れようかと思っていましたw

実際にはやめましたが。

一度に大金を手に入れることになる(剣にするとかは考えない)サムエルが、どう使うかは皆様のご想像にお任せいたしますw

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