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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(6)交渉(後)

 カルメンとの軽い会話を終えたフローリアは、サムエルのいるテーブルへと向かった。

 そこではサムエルが、にやけた笑顔で彼女たちを待っていた。

 フローリアからすれば何を考えているのかまるわかりだったが、気にせず近付いて行く。

 過去に、似たようなことを考えて近付いてくる輩はいくらでもいたのだ。

 むしろ、サムエルの場合は、分かり易い分対処がしやすい。

 立場上、そうした者からも逃げることが許されないこともあったため身に付いた処世術である。

 この辺りは、できるだけ近付かないようにしていたシルヴィアとの違いだった。

 

 テーブルに近付いたカルメンは、最初にフローリアたちのことを紹介した。

「すまんが、神具の話については彼女たちとしてくれ。私との話はなかったことにしていい」

「俺としては別に同時に話をしてもかまわないが?」

 できれば複数と交渉して値を吊り上げたいと考えていたサムエルだったが、その目論見はあっさりと崩れた。

 首を左右に振ったカルメンが、

「いや、彼女たちが出てきた以上、私の出番はないだろうからな。さっさと手を引くよ」

「・・・・・・やけにあっさりとしているな。あんたらしくもない」

 サムエルの簡単な挑発だったが、カルメンはそれには乗らなかった。

 それどころか、少しばかり驚いたような顔になる。

「なんだい、あんたは知らない・・・・・・ああ、そうか。こっちに来たばかりだったね」

 楽し気な表情を浮かべたカルメンは、周囲にも聞こえるように大きめな声で言った。

「彼女たちは、コリーの仲間だ。下手に手を出せば、火傷だけじゃ済まないよ?」

 カルメンがそう言った瞬間、フローリアとシルヴィアを見ていた周囲の視線の質が一変した。

 美人なふたりとお近づきになろうとしていた種類の視線が、一気に激減したのである。

 コリーの名前は、未だにセイチュンにおいては、絶大な効果を発揮しているのだ。

 そのコリーの仲間に下手に手を出そうとする者は、よほどのことがない限りいない。

 

 コリーの名前を聞いて、一瞬だけひるんだ様子を見せたサムエルだったが、すぐに立ち直って先ほどまでと同じような顔になった。

 フローリアたちが、神具を目当てに来ていることは一目瞭然だ。

 それであるならば、現物を握っている自分が有利であることには違いがないとすぐに考え直したのだ。

 もっともそれは、サムエルの思い違いだとすぐに思い知らされることになる。

「それで、この神具がほしいらしいが・・・・・・」

 剣を見せながら話をしようとしたサムエルだったが、向かいに座ったフローリアにすぐに止められた。

「悪いが、私たちはそなたと交渉をしようとは考えていない。これと交換をしてもらえるか、もらえないかのどちらかだ」

 フローリアはそう言って、シルヴィアを見た。

 そしてシルヴィアは、女性が良く持っているようなバッグから拳大の石のような物を取り出した。

 

 フローリアたちがどんな交渉をするのかと見守っていたカルメンだったが、シルヴィアが取り出した物を見て、思わず声を上げてしまった。

「そ、それは!」

 その声が思いのほか大きかったため、周囲のテーブルで聞き耳を立てていた他の冒険者たちの耳目も集めてしまった。

 そして、テーブルの上に乗る石を見て、カルメンと同じように驚きの声を上げる者が多く出た。

 ただ、肝心のサムエルは、周囲の反応に首をかしげている。

 それを確認したフローリアは、少し間をおいてからカルメンに言った。

「ふむ。どうやらサムエルはわかっていないようだから、説明してもらってもいいか? 私が言うよりも納得できるだろう?」

「説明って、その前にこんなものを無造作にこんなところに・・・・・・まあ、いいか」

 どうやらコリーだけではなく、目の前にいるふたりも当たり前の感覚を持ち合わせてはいないと理解したカルメンは、諦めたようにため息をついた。

 

 カルメンは、ため息をついたあと呆れたような視線をサムエルに向けた。

「・・・・・・あんたもね。冒険者をやっているんだったら、これが何かくらい知っておきなさいよ。・・・・・・これはね、魔鉱石の原石だよ」

「なっ!?」

 カルメンの言葉に、サムエルは両目を見開いて驚きをあらわにした。

 現物を見ても何かわからなかったサムエルだが、当然のように魔鉱石が何かは知っている。

 何しろ、魔鉱石は魔道具の武器を作るのには最高の素材とされている鉱石のひとつとされている。

 希少性も高いことからその価値は天井知らずで上がっており、親指ほどの小さな欠片でさえ高値が付けられるという代物だ。

 今目の前にある魔鉱石は、拳大ほどの大きさだ。

 どれくらいの値が付けられるのか、想像するに難くない。

 

 シルヴィアが取り出した魔鉱石を見て、サムエルは思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。

「こ、これを?」

「ああ、そうだよ。この魔鉱石とその神具を交換してほしい。交換するかしないか、選択肢はふたつにひとつだ」

 フローリアがそういうと、サムエルはもう一度魔鉱石をまじまじ見た。

 既にサムエルの頭の中は、先ほどまであったよこしまな考えなど吹き飛んでいる。

 これだけの魔鉱石であれば、正規の手続きを取って売るだけで、一生遊んで暮らしていくのには十分すぎるほどの金が手に入るのだ。


 その顔を見れば、サムエルがどう返事をするかなどまるわかりだが、フローリアは何も言わずに黙って返事を待っていた。

 やがてごくりと喉を鳴らしたサムエルが、首を縦に振った。

「い、いいだろう。この鉱石と神具を交換しようじゃないか」

「そうか。いい返事を聞けて良かったよ」

 フローリアはそう言って頷いたあと、自分の側にあった鉱石をスッと近づけた。

 それを見たサムエルは、一瞬だけそのまま鉱石だけを奪って逃げようかと考えたが、すぐにそれを改めた。

 神具の剣は、すでにサムエルの中では邪魔者扱いになっているのだから、わざわざ変なことをしてこの話が駄目にならない方がいい。

 フローリアとシルヴィアの実力は知らないが、すぐ傍にはカルメンもいる。

 余計なことをしでかすより、確実に魔鉱石を手に入れたほうがいいという考えが働いたのである。

 

 サムエルが差し出してきた神具を受け取ったフローリアを見て、カルメンが少しだけ心配そうな顔になった。

「無事に成立してよかったとは思うが、大丈夫かい? こんなに堂々とやり取りして」

 いくらコリーに近しい人間とはいえ、今は傍に彼女はいない。

 酒場を出た直後に襲われることなど、いくらでも考えられる。

 カルメンにそう心配されたフローリアとシルヴィアは、一度お互いに顔を見合わせた。

 そして、フローリアがスッと胸ポケットの中に手を入れて、一枚のカードを取り出してカルメンへと渡した。

「心配してくれるのはありがたいが、まあ、大丈夫だろう」

「・・・・・・ん? これはクラウンカード・・・・・・って、あんたAランクだったのかい!?」

 カルメンの驚きの声に、周囲が騒めいた。

 クラウンの冒険者ランクが、他の冒険者ギルドとは違って厳しめに設定されていることは、すでにセイチュンでも知られていた。

 セントラル大陸を本拠地にしているクラウンならではといえるが、それだけにクラウンのAランク冒険者は際立った存在となっている。

「ああ、そうだ。さすがにコリーには敵わないが、私もそれなりの実力はある。絶対に、とはいわないが、拠点に戻るまでは大丈夫だろうさ」

「それはまあ、そうだろうねえ」

 カルメンは呆れたような表情でフローリアを見た。

 見た目と実力のギャップがこれほどまでに違う人物を見たのは、コリー以来だ。

 やはりとんでもない実力の持ち主の周囲には、同レベルの者たちが集まるのだろうかと、そんなことを考えるカルメンなのであった。

無事に神具を手に入れました。

ちなみに、交渉に使った魔鉱石ですが、アマミヤの塔の上層に大鉱脈が存在しています。

一気に出してしまうと値崩れしてしまっていいことがないので、少しずつ出しているのが現状です。

要するに、考助たちにとっては、いくら出してもいたくない資源だったりしますw

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