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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(4)監視

 セイチュンの町には、当然のように神殿が存在している。

 エリサミール神を主神として祭っているその神殿では、すでにサムエルの起こしている騒ぎを把握していた。

 当然、サムエルが喧伝している神官が調査したという神具についても存在を確認済みだ。

 それにもかかわらず、サムエルが持つ神具に手を出そうとしていないのには、それなりの理由が存在している。

 サムエルの持つ神具には手出し無用と、神殿長の名義で通達が出されているのである。

 その通達は、正確には神殿長を含む神殿の上層部が決定したことだった。

 

 神殿にあるとある一室に、神殿長を始めとした神殿のトップ3が揃っている。

「そろそろあの道化も音を上げればいいのですがね」

 これまでは、神殿についての様々な案件について話していたのだが、神殿長のその言葉を皮切りに話題がサムエルへと変わった。

「そうですな。まあ、時間の問題でしょう」

「そろそろ目標の金額まで下がるのではないのですか?」

 神殿長たちが通達を出してまで聖職者に手出しをさせないようにしていたのは、サムエルが言っている剣の値段を下げさせるためだった。

 そのおかげか、最初に神殿の人間が打診したときに言われた値段からすでに半分以下の値段になっている。

 神殿の者がサムエルに接触をしているわけではないが、集めている噂からある程度サムエルが言っていることは把握しているのである。

 収集している情報によれば、すでにサムエルは神殿側が想定している値段の少し上まで値段を下げていた。

 このまま待てば、想定している金額に到達することになる。

 その状態になってからゆっくりと交渉に入ればいいというのが、今の神殿上層部の方針なのだ。

 

 外部の情報に一番触れている祭司長が、神官長の言葉にゆっくりと首を左右に振る。

「残念ながらまだもう少し届きませんね。まあ、時間の問題でしょうが」

 サムエルが神具の情報をばらまきだしてからまだ四カ月しかたっていない。

 たったそれだけの期間で、一気に値段を下げているのだからもう少しだけ待てばいいというのが祭司長の意見だった。

「それもそうですね」

 祭司長にしても一応の確認をしただけで、急かすつもりはなかった。

 神具のような物を持ち主と交渉しながら手に入れるのには、一年以上かかる場合もある。

 それを考えれば、半年やそこらを待つことなどごく当たり前のことだ。

 特に神具は、焦って手に入れようとすれば碌な目に合わない。

 そのことをここに集まっている三人は、よくわかっているのである。

 それでも神殿に所属している期間が浅い場合は、無理やりに手に入れようとする者が必ず出てくる。

 だからこそ、わざわざ通達まで出しているのだ。

 

 それに、彼らには他にも考えないといけないことがある。

 神殿長が視線を祭司長へ向けて確認をしてきた。

「他の神殿の動きはどうですか?」

「問題ありません。セイチュンのことはこちらに任せるようにと抑えてあります。今のところおかしな動きもありません」

「そうですか。それは朗報ですね」

 神具がほしいのは、どの神殿でも同じだ。

 一応、所持者のいる町に存在している神殿が優先権を持っているので、他の地域の神殿が手を出してくることは滅多にない。

 ただ、それも「滅多にない」のであって、全くないわけではないのだ。

 だからこそ、そうした他の神殿の動きも見張っているのだが、今のところはそうした動きも出ていなかった。

 つまりは、今後もセイチュンの神殿が安心して動けるということになる。

 

 現在の状況を確認して安堵の表情を浮かべる三人だったが、彼らは知らなかった。

 サムエルの使っている神具が、爆発寸前にまで至っていることを。

 そして何より、サムエルの使っている剣が、武器としての剣ではなく、祭具としての劔だということは想像の外にあるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「くそっ! 何が神具だ!」

 サムエルはそう言いながら、借りている宿に備え付けられているベッドの上に剣を放り投げた。

 かろうじて床の上ではないところが気を使っているように見えるが、そんなことは気休めにもならないだろう。

 もし、他の者がサムエルの今の行為を見ていれば、眉をひそめただろう。

 普通の武器でも今のような扱いをする者は少ないのに、サムエルが使っている剣は神具なのだ。

 あるいは、聖職者が今の行為を目の当たりにすれば、卒倒して倒れるかもしれない。


 それほどのひどい扱いをしているサムエルだったが、当人は全くそのことには気づかずにひたすらに悪態をついていた。

「攻撃が高いかと思いきや、普通の武器と変わらねえ。魔道具として使っても大した攻撃ができるわけでもねえ! これのいったいどこが神具なんだよ!」

 サムエルとしては、神具を使えば劇的な変化が起こると思っていた。

 昔話のように聞かされてきた神具にまつわる話は、そうしたものが多い。

 だからこそ、神具の剣を手に入れるという幸運に恵まれた自分もまた、そうした話の主人公のように活躍ができると期待していた。

 ところが、ふたを開けてみれば、まったく使い勝手が悪い武器でしかなかった。

 神具ということで、高値で売り飛ばそうとしても、すでに悪評のほうが広がっている始末で、全く買い手が付く気配がない。

 サムエルにしてみれば、自分の思い通りにいかない厄介者を拾ったような気分になっているのだ。

 

 神具を拾って意気揚々とセイチュンに来たのはいいが、闘技場ではすでにほとんど勝てなくなっていた。

 サムエルは、神具や魔道具を使わずにごく普通の剣を使って戦った場合、ランク百位以内にかろうじて引っかかる程度の実力しかない。

 ただし、サムエル本人はもっと上にさえいけると勘違いしている始末だった。

 それならば、神具ではなく普通の武器を使って闘技場に行けばいいのだが、そんなことすら思いつかないほどに、なぜか神具の剣にこだわっていた。

 ここまで思い込みが激しいサムエルが、なぜ未だに神具を手放していないのかといえば、単純に高く売りたいためだ。

 もっとも、高く売るどころかついた悪評のおかげで、買い手さえ現れないというのが現状だった。

「いっそのこともっと値段を下げて・・・・・・いや、それも駄目だ。足元を見られてたまるか!」

 幸運によって手に入れたことすら忘れて、より多くの利益を得ようとする姿勢は、ある意味では称賛に値する。

 ただし、それを周囲がいい方に評価するかどうかは、全く別の話である。

 

 サムエルが、悪評が立ち続ける中でセイチュンから離れない理由はもう一つある。

 それは、ごく簡単なことで、神具を神具として判定した神官が、セイチュンに所属しているためだ。

 他の町に移動した場合は、もう一度鑑定をやり直してもらわなければならず、余計な手間がかかるのである。

「いっそのこと、別の町で競売にでも・・・・・・いや、それも駄目か。くそっ!」

 八方ふさがりの状況に悪態をつくサムエルだったが、ここ数日はずっと同じようなことを繰り返している。

 自分ではどうにもできない悪循環に陥っているにも関わらず、有効な手が打てずに悪態だけを繰り返すサムエルなのであった。

 

 そんなサムエルは、当然のように気付いていなかった。

 ベッドの上に放り出された剣が、自分の行動を逐一見守っていたことに。

神殿の状況とおバカさん登場でした。

あくまで自分に都合のいいようにしか考えていないので、神具の暴走が自分に起こる可能性があるなんてことは、微塵も考えていません。

神具が怒っているのは、使い方の間違いもありますが、主に持ち主のせいです。

たまには考助の推測も外れますw

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