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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(3)劔の役目

 現在、神具が怒っており、早々にサムエルからの回収を目指すことにした考助たちだったが、シルヴィアが首をかしげながら聞いてきた。

「ところで、神具はなぜ怒っているのでしょうか?」

 考助には、自分だったら気付いているかもと言われたが、シルヴィアにはまったく思い当たりがない。

 あの試合を見ただけで、神具が怒るような要素は全く気付かなかった。

 シルヴィアは周りを見たが、シュレインもフローリアも、まったくわかっていないようである。

 ちなみに、コウヒとミツキも同じ部屋にいたが、ふたりはわれ関せずの態度をとっている。

「なぜというか・・・・・・そもそも使い方が間違っているから」

 考助からすれば一目瞭然だったのだが、他の人からすればその使い方にはまったく気づかない。

 それは、サムエルだけではなく他の誰に渡しても今と同じような状態になる可能性が高い。

 だからこそ考助は、自分たちで回収することを早々と決めたのである。

 

 根本的なところで間違っていると考助から指摘を受けたシルヴィアは、しばらく考え込むようにうつむいた。

「使い方が? ・・・・・・使い方・・・・・・え、あっ!? まさか?」

 考え込んでいたシルヴィアがそう声を上げたことで、フローリアとシュレインの視線が集まる。

「何か分かったのか?」

 そう問いかけてきたフローリアに一度頷いたシルヴィアは、悩ましい表情になった。

「確かに分かったのですが・・・・・・神具ですよ?」

「いや、むしろ神具だからだと思うけれど?」

 確認するような顔で自分を見てきたシルヴィアに、考助はコクリと頷く。

 シルヴィアの予想は間違っていないということは、その顔を見れば分かる。

「確かに、それはそうですが・・・・・・」

 言われてみれば、シルヴィアにも考助の言いたいことはわかる。

 ただそれは、逆にいえば、言われなければわからないということを意味している。

 現に、未だにシュレインとフローリアは、よくわかっていないという顔のままだ。

 

 シルヴィアの様子を見て、このまま待っていてもらちが明かないと判断したシュレインが、考助とシルヴィアを交互に見ながら言った。

「・・・・・・できればふたりだけで分かり合っていないで、こちらにも説明してほしいのじゃが?」

「そんなに難しく考える必要はないよ。劔の使い方はひとつだけとは限らないよね?」

「何を言っておる? 剣の使い道は、武器以外に・・・・・・」

 ない、と言おうとしたシュレインを遮るように、フローリアが声を上げた。

「あっ!? そ、そうか!」

「なんじゃ? フローリアも気付いたのか?」

 自分だけ取り残されて面白くなく感じたのか、シュレインが渋い顔になった。

 そんなシュレインに、考助が苦笑しながら助言をした。

「フローリアは、それこそ女王時代に何度かそういう(・・・・)使い方をしているからね。ただ、シュレインだって同じような使い方をしていると思うけれど?」

「何じゃと? 剣の別の使い方・・・・・・・別の・・・・・・って、なるほど。そういうことか」

 ようやくシュレインにも考助が何を言いたいのかわかったという顔になった。

「儀式用か・・・・・・」

「ま、そういうことだね」

 ため息のように答えを言ったシュレインに、考助が大真面目な表情で頷いた。

 

 剣の使い道は、普通に考えれば武器として使われるのだが、国家や神殿では式典などの祭具として使われることがまれにある。

 特に国家においては、劔は強さの象徴でもあるので、そういった場合に使われることが多い。

 ただ、問題なのが、剣を使った儀式が行われることが非常に少ないということだ。

 基本的には、杯や杖などが儀式として使われる場面が多く、どうしても劔が儀式用というのは意識の外におかれてしまう。

 さらにいえば、劔と剣は見た目が同じでも用途が違うため本来であれば別々の物なのだが、わざわざ儀式用に一本の劔を打つことがほとんどないため、剣で代用されてしまう。

 ましてや、これまでに確認されている神具には、そういった儀式用の劔があったという話は聞いたことがない。

 シルヴィアを含めて、今回の神具が劔であって剣ではなかったということを気付けなかったのは、致し方のないことといっていい。

 ましてや、一冒険者のサムエルが、そのことにまったく気づいていないというのは、どうしようもないほどの不幸だったとしか言いようがない。

 

 今回の神具が、剣ではなく劔だったと理解したシルヴィアは、大きくため息をついた。

「確かに劔と気付けなったのは迂闊でしたが、最初に鑑定をした神官が指摘していなかったのは大きいでしょうね」

 サムエルがどういう経緯で神官のところに劔を持ち込むことになったのかは不明だが、そのときに指摘されていないからこそ、今でも通常の武器として扱っているのだ。

 そのおかげで、神具のプチ暴走が起こりそうになっているのだから救えない。

 剣と劔の区別を一般の人間にしろというのは酷なところがある。

 本来であれば、専門家である神官が気付くべきであったのだ。

「確かにそうじゃが・・・・・・自分のところに持ち込まれて気付けたかといえば、かなり不安があるの」

 実際にはシュレインのところにそんな持ち込みがあるとは思えないが、今言ったことはあくまでも例である。

 シュレインは、一目見て気付けたかどうかわからないということが言いたいのだ。

「・・・・・・そうですね。ここで神官を責めるのは酷でしょうね」

「私もそう思うぞ。というよりも、コウスケが一目で気付けた方が不思議だと思うのだが?」

 フローリアの言葉に、視線が考助へと集まった。

 

 自分に向かって集まった視線に、考助は一瞬だけたじろいだ。

「不思議といわれても・・・・・・見たらわからない?」

「わからないな」

「わかりませんわ」

「わからんの」

 三人揃っての否定に、考助がたじろいだ。

 その考助を見て、シルヴィアが右手を口元に持ってきて、クスリと笑った。

「そんな顔はしなくてもいいですわ。別に責めているわけではありません」

「そうじゃの。むしろよく気付いたの?」

 どうして気付けたんだと言いたげなシュレインの視線に、考助は少しだけ首を傾げた。

「そう言われてもね。神具が怒っている理由を考えたら、それくらいしか思いつかなかったから。そのあとできちんと確認したら、間違いないと確信できたし」

 あるいは考助も神具の感情に気付いていなければ、あの神具が劔であることには気づけなかったかもしれない。

 勿論、間近で見ればすぐに分かっただろうが、考助が見たのは闘技場の観客席からだ。

 流石にその状態で、一目で見抜けたわけではない。

 

 考助としては一目で分かったわけでないので、大したことではないと言いたかったのだが、何故かシルヴィアがジッと考助を見てきた。

「な、なに?」

「いえ。気付かれていないのか、それともあえて無視されているのかはわかりませんが、随分と現人神としての権能の力が強くなったと思っただけです」

 シルヴィアにしてみれば、あれだけ離れた場所にいて、しっかりと神具の感情に触れられたということの方が驚きだった。

 それだけを考えても、少なくとも一連の神具探しの騒動が起こる前からは、かなり成長していることがわかる。

 あるいは、以前からその権能があったのかもしれないが、実際に神具に触れることによって表に出てきたのかもしれない。

 シルヴィアにそのことを指摘された考助は、虚を突かれたような顔になった。

 言われるまで全く自覚していなかったのだ。

「あ~。うん・・・・・・。そうかもしれないね」

 今更のことながらそのことに気付かされた考助は、曖昧に笑ってごまかすのであった。

劔と剣の違いでした。

今話では、敢えて区別して書いていますが、本来はどちらも違いはありません。

敢えて言うなら、儀式用の剣も含めたくくりを劔と言っている感じになります。

対して剣は、武器としての役目だけになります。

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