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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(2)神具の怒り

 剣の神具を拾った男は、名をサムエルと言い、見るからに軽薄そうな印象を与える人物だった。

 これでは、剣の能力がどうこうというよりも本人の印象で価値が落ちても仕方ないだろうなあと、考助は思った。

 今考助がいるのは、セイチュンの闘技場の観客席のひとつだ。

 剣を持つサムエルが、闘技に出場すると聞いて、せっかくの機会なので見に来たのである。

 勿論考助の目当ては、サムエルではなく神具のほうなので、さほど注目していたわけではない。

 それでもたった一目でそう思わせるだけの雰囲気をサムエルは持っていた。

 そして考助の意識は、すぐに神具へと向いた。

 この時点で、考助にとってサムエル本人は意識の外に置かれることになった。

 

 サムエルが持つ神具の剣は、刃渡りが八十センチ近くあり、片手剣としてはかなりの大きさだった。

 もっとも、剣を持っているサムエルは、かなり大き目な体をしているのでさほど大きいとは感じなかった。

 そんなサムエルと相対している相手が小柄な女性のため、大人と子供が向き合っているようにも見える。

 ただ、そんな女性に対して、神具を使っているサムエルは押され気味になっている。

 考助が観客の様子を窺うと、サムエルに対して怒りというよりも「神具じゃないのか~?」というからかいの声援のほうが大きく聞こえた。

 誰が見てもサムエルが劣勢なのは分かるので、そんな声援が出るのも当たり前だが、どうやらいつもこんな感じのようだった。

 一応、今行われているのはTOP百位に入るクラスの試合なので、サムエルが他と比べて格段に弱いというわけではない。

「ああ、これは駄目じゃの。剣に翻弄されておる」

 考助と一緒に試合を見ていたシュレインがそう分析した。

 

 だが、考助はそのシュレインの意見とは別の感想を持っていた。

「・・・・・・まずいね。これは」

「む? どういうことじゃ?」

 ポツリと呟かれた考助の言葉に、シュレインが鋭く反応した。

 考助のセリフには、珍しく焦りのようなものが含まれているように感じたのだ。

 言葉に出して言うつもりがなかった考助だったが、シュレインの反応でつい口に出してしまったことに気付いた。

 自分でも思っていた以上に、焦っていると自覚したのだ。

「うん。まあ、それはあとで話すよ。それよりも、今は結果を見守ろう」

「ふむ。そうじゃな」

 ここで聞くべき話ではないと理解したシュレインは、その場では頷くにとどめて再び試合に注目し始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「さて、どういうことか、話してくれるのじゃろうな?」

 試合を見終えて、さっさと管理層に戻ってきた考助たちだったが、すぐにシュレインがそう聞いてきた。

 自分の言葉がよほど大事に思われていると察した考助は、反省するような顔になった。

「いや、ゴメン。今すぐどうこうっていう話じゃないんだよ。ただ、このままでいくとまずいかなって思ってね」

 試合を見ていたときとは違って、幾分が落ち着きを取り戻している考助を見て、シュレインは安心した。

 それでも内容的にはあまりいい話ではなさそうな感じを受けたため、すぐに表情を引き締めた。

「このままでいくと、ということは、この先には何かがあると考えているわけじゃな?」

「うん。それは間違いないね」

 はっきりとそう言い切った考助に、シュレインは再び表情を変えた。

「それは、まずいんじゃないのか?」

「まあね。ただ、しばらくあの劔を見ていて、今のままではそこまで大事件にはならないと考え直したんだよ」

 先ほどと言っていることが違っているように感じたシュレインが、首を傾げた。

「・・・・・・どういうことかの?」

「うーん。これは僕の感覚的なものなんだけれど、いい?」

「無論じゃ」

 シュレインが頷くのを確認してから、考助が先ほど見た試合で感じた劔の状態を話し始めた。

 

 サムエルが劔を使い始めて考助が神具から感じた第一印象は「怒り」だった。

 だからこそ、思わず考助は観客が周囲にいる中で、不用意にもあのようなセリフをこぼしてしまった。

 ただ、そのあとも神具を見続けた考助は、別の意味で安心することになった。

 その理由は、あの神具が感情をため込むタイプではないと分かったからだ。

「・・・・・・今までの水鏡とか勾玉は、ひたすら感情をため込んで最後に爆発するタイプだけれど、あの劔はその逆に感じたんだよね」

「要するに、怒りを感じた相手には、すぐに感情をまき散らすタイプか」

 シュレインのいいように、考助はプッと噴き出した。

「そうそうそんな感じ。すぐに爆発する分、ため込む力も小さくて済むと思うよ。多分、あの感じだったら、一般的な魔法使いが使う魔法程度の規模に収まるんじゃないかな?」

 勿論、その怒りに巻き込まれるのは、使っているサムエルということになる。

 状況によっては周囲を巻き込むこともあるが、考助たちが想像しているような神具が起こす暴走から比べれば、被害の規模は小さい。

 

 それはよかったと納得して頷いたシュレインだったが、ふたりの会話を聞いていたフローリアが間に入ってきた。

「いや、ちょっと待て。全くよくはないだろう?」

 規模が小さいとはいえ爆発は爆発だ。

 もし神具がプチ暴走を起こしたときに周囲に大勢の人がいれば、被害は甚大になる。

 神具の暴走=町一つが消えるというイメージからすれば規模ははるかに小さいが、それでも無視はできない。

「むっ。そういえばそうじゃの」

 すっかり考助の感覚に引きずられていたシュレインが、フローリアの言葉で我に返った。

 それを見て苦笑した考助は、今度はフローリアに言った。

「まあ、そうなんだけれどね。たぶんだけれど、そんな事態にはならないよ」

「そうなのか?」

「うん。だって、そんな状態で爆発するくらいなら、とっくにプチ暴走しているだろうしね。あの劔に、ある程度理性があるってことだよね」

「ある程度というのが怖いが、まあ、そうなるのか?」

 フローリアが、どうにも釈然としないという顔になった。

 

 そのフローリアをなだめるように、今度はシルヴィアが加わった。

「神具に意思があって、いつ騒ぎが起こるかわからない以上、ここでコウスケさんを責めても仕方ないですわ」

「いや、別に責めているわけではないのだがな・・・・・・」

 シルヴィアは、ばつが悪そうな顔になったフローリアに一度笑みを見せてから、考助を見た。

「それよりも、神具がなぜ怒っているのかのほうが大事だと思うのですが?」

 そもそも神具が怒っていなければ、暴走なんてことにはならない。

 考助が神具から怒りを感じたとすれば、それは何か怒らせるようなことをサムエルがしているということになる。

「確かにそれは私も気になったの。もしかして、コウスケがあの神具をけんでななく、つるぎと呼んでいることと関係しているのか?」

「まあ、そうなんだけれどね。というか、やっぱり皆も気付いていなかったのか」

 ため息をつきながらそう言った考助を見て、その場にいた三人が顔を見合わせた。

「シルヴィア辺りだったら気付いているかと思ったんだけれどね。これは、早々に回収したほうがいいのかな?」

 今の三人の反応と神具の様子を見る限り、早く手元に回収してしまったほうがいいかと考助は判断した。

 といっても、どうやってサムエルから回収するかが問題になる。

 

 ひとり頭を巡らせる考助だったが、他の女性たちは考助が何に気付いていないと言いたいのか、よくわかっていなかった。

 そして、そのことを考助の口からきいたシュレインたちは、考助と同じように神具の早期の回収を主張することになるのであった。

いきなり神具が怒っていますw

その理由に、考助以外は気付いていません。

何故神具が怒っているのか。それは追々明らかになっていきます。

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