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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 劔
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(1)最後の神具

 勾玉の神具が手に入ってから数日。

 考助は落ち着いた日々を過ごしつつ、さて最後の神具はどうしようか、などと考えていた。

 そんな考助の元に知らせが届いたのは、半分寝ぼけながらくつろぎスペースのソファで寝転がっていたときのことだった。

「コウスケさん、今いいですか~?」

「ん・・・・・・? ピーチ? どうしたの?」

 考助がそう言って体を起こすのを待ってから、ピーチが話し始めた。

「長が、話があると言っています。なんでも、これは神具ではないかという噂をつかんだようです~」

 サキュバスの長であるジゼルは、ずっと神具に関する噂を集めていた。

 勿論、集めている噂は、神具に関するものだけではなく他にも多種多様なものがあるのだが、その中からこれはというのを抽出するのはジゼルの役目だ。

 ジゼルがその噂に触れたのは、ちょうどワンリが神具をセウリの森から持ち帰ったその日のことだったそうである。

 それから数日かけて裏付けを行い、恐らく間違いないだろうということで、ピーチのところに話が来たのである。

 

 ピーチから話を聞いた考助は、何とも言えない表情になっていた。

「ワンリが持ち帰ったその日に、ね。随分とタイミングがいいねえ」

「本当にそうですね~。でも、ただの偶然だと思いますよ?」

 ジゼルの元には、日々サキュバスたちが集めてくる膨大な情報が持ち込まれる。

 当然それには優先順位が設けられているのだが、ジゼルが目にしたその情報は、優先度が低い中に埋もれていた。

 そこから考えれば、ワンリと同じ日に見つかったというのは、本当に偶然と考えて良いだろう。

「うん。まあ、そうなんだけれどね」

 こうもタイミングよく情報が手に入ると、考助としては、どうしても何かの関与を疑いたくなる。

 とはいえ、今回に関しては、本当にただの偶然だということもわかっていた。

 そもそも神具の探索自体、女神アスラからの依頼なのだから、そこにわざわざ他の女神がちょっかいを出してくるとは考えていない。

 

 事の真偽はともかく、今このタイミングで情報が手に入ったことを疑っても仕方ない。

 そう考えた考助は、一度頭を振って意識を切り替えた。

「それで、いつ会いに行けばいいの?」

 いつでも行ける考助はともかく、ジゼルも一族の長という立場だ。

 そうそう簡単に、都合のいい時間に押し付けるわけにもいかない。

 そう考えての問いかけだったが、そんな考助にピーチが笑いかけた。

「いつ来てもいいそうですよ。ご都合のよろしいときにどうぞ、だそうです~」

「あれ? 大丈夫なの?」

 あっさりとしたピーチの返事に、考助は一度だけ首を傾げた。

 だが、考えてみれば、考助がジゼルの元を訪ねるときは、大体が緊急事態のときだ。

 今回も扱っているのが神具ということで、ジゼルが気を使ってくれたのだと察した。

「・・・・・・ああ~。失敗したな。そんなに慌てなくてもいいって、伝えておけばよかった」

 そんなことを言った考助に、今度はピーチが首を傾げた。

「水鏡のときのことがありますから、長もそこまで緊急事態だとは思っていないと思いますよ? 単に、コウスケさんと会うのに待たせるわけにはいかないと考えているのだと思います~」

「それはそれで申し訳ない気がするのだけれど?」

 考助は申し訳なさそうにそう言ったが、ピーチは顔には出さず、内心で苦笑していた。

 そもそも現人神である考助と会うのに、待たせる方があり得ないのだ。

 本来であればジゼル自ら管理層まで出向くのが当然なのだが、そうしたことを考助が嫌っているのを知っているので、ジゼルはあえてそうしていないだけである。

 

 そんな内心を表に出さずに、ピーチは首を左右に振った。

「そんなことはないですよ~。何より、コウスケさんを待たせるようなことをしてしまえば、他の者たちからの批判が来ますから」

「なるほど。確かにそれはそうか」

 サキュバスの間では、考助の存在はまさしく「神」として扱われている。

 それは、単純に恭しく扱うという意味ではなく、一族を救ってくれたという意味での扱いだ。

 そんな考助に対してぞんざいな扱いをすると、長がそれなりの態度を示さないでどうする、という突き上げを食らうことになる。

 長には長としての立場あるのだ。

 そのことを理解して、考助は大いに納得した。

 今更といえば今更なのだが。

 

 そんなピーチとのやり取りのあと、考助はサキュバスの里へと向かった。

 わざわざピーチを使いに出して知らせに来てくれたのだから、早めに行ったほうがいいと考えてのことだ。

 そんな考助をジゼルは笑顔で出迎えた。

「わざわざ申し訳ありません。本来であれば使いなど立てずに、こちらから伺うべきなのですが」

「いや、いいのですよ。それよりも、噂というのは?」

 放っておくとずっと謝られそうだと察した考助は、さっさと本題に入るように促した。

 それに乗るようにジゼルは一度頷いてから、噂について話し始めた。

「噂の元になっている場所は、セイチュンの町です。町についての説明は・・・・・・必要ないですかな?」

「ええ。必要ないですね」

 セイチュンは、今まで何度も訪ねているため、今更ジゼルからの説明は必要ない。

 またセイチュンに関わることになりそうで、驚きのほうがあった。

「それにしても、セイチュンですか。・・・・・・今度はどんな神具ですか?」

「一応、剣らしいですな」

 その微妙ないいように、考助が戸惑ったような顔になった。

「らしい?」

「使っている当人は、神官のお墨付きも得たと堂々と宣言しているのですが、どうにも神具にしては『弱い』らしいのですよ」

「あ~、なるほど」

 一言でいえば、当人だけが一生懸命宣伝していて、周りの者たちは偽物だと思っているということだ。


 それだけならよくある話ですむのだが、ジゼルがただの戯言ではないと判断したのにはわけがある。

「普通であれば、ただの詐欺で済ますのですが、時期が時期ですので何かあるかときちんと調べさせたところ、中々面白い事実が出てきましてな」

「へえ? というと?」

「男が吹聴している神官にきちんと調べてもらったというのは、どうやら本当のことのようです」

 ジゼルがこの噂を見つけてから考助のところに知らせるのに多少時間がかかったのは、そのことを調べるためだった。

 調査したうえでその話が本当だと分かったため、考助に知らせることにしたのだ。

「なるほど。弱い剣、ですか」

「勿論、神具としては弱い、というだけであって、普通の魔道具としてみれば、かなりの強さがあるらしいです」

 神殿や各国の国宝として所持されている武器防具の神具は、それこそその名にふさわしい力がある。

 噂となっている神具は、それらに比べればかなり力が落ちるというだけで、通常の魔道具と比べれば、かなりの性能なのだ。

 

 武器の神具としては微妙すぎる性能のため、神殿にも取られることなく、結果としてその男が使い続けている。

 ちなみに、周囲の反応はほとんどが男の法螺だと思っている。

 勿論、中には神具だとわかっている者もいるが、その性能故に手出しをしていないというのが実情だった。

 付け加えれば、男のうさん臭さが手出しをためらわせているという情けない(?)現実もあったりする。

「神殿も今は静観していますが、何れは手出しをするかもしれません。まあ、使っている男が噂通りなら、金で手放すこともあるだろうと目論んでいる、といったところでしょうか」

「なるほど、そういうことですか」

 武器の神具としては弱いために争奪戦には至っていないというのが何とも言えないところだ。

 ただ、このまま穏やかにずっと行けばいいのだが、そんなことにはならないだろうということは、今までの経験からもわかっている。

 考助としては、神具が暴走さえしなければそれでいいのだが、このまま争奪戦が起こらないわけがない。

 考助は、さてどうしたものかと、ジゼルから話を聞きながら頭を悩ませるのであった。

最後の神具が登場です。

大体皆さま予想されていた通りでしょうか?

ここで外しても意味がないですからねw

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