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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 勾玉
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(12)精霊の行い

 エルフの里へ戻ったシュレインたちは、一度ユッタのところに行って失敗したことを報告してからアマミヤの塔へと戻った。

 その間ワンリは狐の姿のままで、あのときのことについての詳しい理由は話していない。

 シュレインたちは、何か考助に話すことがあるのだろうと考えていて、ワンリに敢えて詳しくは聞こうとしなかった。

 

 管理層に着いたシュレインは、すぐに考助に神具の回収に失敗したことを告げた。

「うーん。そうか」

 考助もそう言っただけで、特に失敗について何かを言うことはしない。

 それよりも、どういう状況で失敗したのかという方が重要なのだ。

「それで、今回はどうやって逃げられたの?」

「ふむ。それはワンリに詳しく聞いた方がいいかの」

「ワンリに?」

 なぜワンリがここで出てくるのかわからずに、考助は首を傾げてワンリを見る。

 人型に戻っているワンリは、その視線を受けて小さく肩をすくめた。

 完全に萎れてしまっているワンリを見て、シュレインが安心させるように小さく微笑んだ。

「そんなに恐縮する必要はないと、向こうでも言ったじゃろう? ちゃんと起こったことを話せばいいだけから、きちんと話せばよい」

「・・・・・・はい」

 ふたりの会話を聞いた考助は、何かあったのだと察して自分から口を出そうとはしなかった。

 ワンリから話をしてくれるのをじっと待つことにしたのである。

 

 考助の視線を受けて、ワンリがポツリポツリと神具を追い詰めたときのことを話し始めた。

 もとが狐であるワンリは、さほど話が上手というわけではない。

 だが、他の三人がうまくフォローしながら話が進んだため、考助は特に戸惑うことなく神具を追い詰めていく状況を想像することができた。

 そして、いよいよワンリがフローリアを止めたところまで来たときに、ワンリが一度言葉を止めた。

「・・・・・・ワンリ?」

 何とも困ったような表情を浮かべたワンリを見て、考助はどうしたんだろうと首を傾げる。

 考助が、その顔を見る限りでは、話したくないのではなく、どう話していいのかわからないといった方がいいように見えた。

「うまく話そうとしなくていいから、何かを感じたのであれば、それを言ってくれればいいから、言葉にして話してごらん」

 神具と相対していたときのワンリは、狐の姿だった。

 その場合、言葉や理屈で行動するのではなく、感覚で行動していることがほとんどである。

 そのためワンリは、こうやって言葉でそのときの行動の意味を話すことに慣れていないのだ。

 

 考助に促されたワンリは、あのときのことを思い出すような顔になって、話し出した。

「フローリア姉様が、剣で攻撃しようとしたあのとき、何か変な感じがしたの」

「変な感じ?」

「うん。何か、あのまま攻撃したらよくないとか・・・・・・何かが起こるかもしれないとか、そんな感じで・・・・・・?」

 自分でも言っていておかしいとは思っているのか、ワンリはもどかし気な表情になっている。

 あのときに現場にいた三人は、顔を見合わせて特に自分たちは何も感じていなかったことを確認している。


 それぞれの反応を見ていた考助は、一瞬考え込むような表情になってからさらにワンリに聞いた。

「その変な感じというのは、精霊から感じた? それとも、別の何か? 自分の勘とか?」

 考助のその質問は、ワンリにとっては思ってみなかったもので、思わず目を瞬いた。

 その顔を見れば、今まであの感覚が何であったのかを一生懸命考えていて、何が知らせてきたのかは考えていなかったことがわかる。

 真剣な表情になってあのときのことを思い出し始めたワンリだったが、すぐにその答えは出てきた。

「精霊・・・・・・うん。精霊から何かを感じました」

「精霊ね」

 そう言ったワンリの顔を見た考助は、それ以上確認するのを一度やめた。

 間違いなく精霊がワンリに何かを知らせたのだろうと感じたのだ。

 あとは、その状況からいろいろな推測ができるため、今はまだワンリを問い詰める必要はない。

 

 腕を組んで考え事をしていた考助は、シュレインたちに視線を向けた。

「シュレインたちは、何も感じなかったんだよね?」

「うむ。吾は何も感じなかったの」

「私もです」

「同じだな」

「まあ、そうだよね」

 三人揃っての予想通りの回答に、考助は頷いた。

 ワンリが精霊から何かを感じたのであれば、精霊に対する感受性がさほど高くない三人が何も感じなかったのは当然だろう。

 シュレインはある程度精霊にも通じているが、その彼女が何も感じていないとなると、本当に小さな変化だったことがわかる。

 

「となると、今のところ考えられることがふたつあるかな?」

「というと?」

 フローリアが確認するようにそういうと、考助は今頭のなかにある考えを話す。

「ひとつは周囲にいる精霊が何かを感じてワンリに知らせたか、もうひとつは神具が精霊を使ってワンリに何かを知らせたかったか」

 状況を考えれば、確かに言う通りだと思ったフローリアだったが、すぐに考助の言葉におかしさに気付いた。

「知らせたかった? 警告とかではなく、か?」

「うん。警告だけなら戦闘が始まる前に伝えればいいだけだしね」

「ああ、そうか。そうだったな」

 ワンリが感じたのは戦闘の真っ最中のことだった。

 もし神具が警告を発するために精霊を使ってワンリに知らせたかったのであれば、戦闘が始まる前に精霊を使って伝えればいい。

 勿論、突発的に戦闘が始まってしまってそんなことをする余裕がなかったと言われればそれまでだが、少なくともワンリが向かってきた段階で伝えることはできたはずだ。

 そうならば、追い込まれた状況になるまで知らせなかった理由が何かあったと考えられる。

 

 もっともこれは、考助が提示したふたつのうちのひとつの場合である。

 もうひとつの精霊が独自にワンリに何かを知らせたかったということもありえる。

「精霊の場合は、神具が何かをしようとしていたのを察知して、前もって知らせたというのがありそうだけれど・・・・・・」

「何かあるのかの?」

「いや、そもそも精霊が、わざわざそんなことをするのかなって思ってね」

 そもそも精霊は、自ら何かをすることはほとんどなく、自然に流さるままに存在している。

 考助の言う通りだとすると、精霊自ら動いてワンリに知らせたことになる。

 シュレインも難しい顔になってウームとうなった。

「確かに、それは中々考えづらいのう。いや、ワンリを相手にした場合は、あり得るのかもしれん」

 ワンリの持っている称号が、精霊に働きかけたということもあり得る。

 シュレインのその推測に、考助も同意するように頷いた。

「うん。僕もそう思う・・・・・・んだけれど、どうにも確証が持てないんだよね。何しろ精霊のことだし」

 今この場に集まっている者たちは、さほど精霊に詳しいというわけではない。

 

「というわけで、コレットに話を聞いてみようと思うんだけれど、異論はあるかな?」

 やはり精霊のことに関しては、コレットが一番詳しいのだ。

 考助がそう言いだすのは、当然といえば当然だった。

 勿論、その考助の言葉に異論など出るはずもなく、急遽考助がコレットに話を聞きに行くことになったのである。

ワンリの行動の謎でした。

精霊がワンリに働きかけたうえでのことです。

その理由に関しては、またになります。

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