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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 勾玉
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(11)二度目の失敗

 神具が何を考えてその場にとどまっているのかは、今考えても仕方ないという結論に達した一同は、行動を開始した。

 話し合った結果の作戦は、ワンリが今シュレインたちのいる場所とは正反対のところから追い立てて挟み撃ちにするという単純なものだ。

 周辺全てを固めて追い詰められればそれに越したことはないが、勘付かれる可能性が高くなるうえに、何より人数が少なすぎる。

 たとえ挟み撃ちから神具が抜けられたとしても、元々の狼の戦闘力はワンリに遠く及ばないので、すぐに追いつけるだろうと判断した。

 多少楽観的な見積もりになっているが、狼はともかく、神具がどういった対応をしてくるかわからない以上、こればかりはどうしようもない。

 毎度のことながら行き当たりばったり感が否めないが、これ以上は話し合っていても仕方ないということで、決行することになったのである。

 

 ワンリが予定通りの位置に着いたときの連絡は、神力念話を使うことになっている。

 女性たちもワンリも、神力念話はすでに使いこなせるようになっているので問題ない。

 ワンリからの連絡を待っていたシュレインだったが、二杯目のお茶を口にしたところでそれに気が付いた。

『シュレインお姉様、予定位置に着きました』

『ふむ、そうか。それじゃあ、予定通り行くかの』

『はい』

 短い会話で神力念話を終わらせたシュレインは、シルヴィアとフローリアへと視線を向けた。

「ワンリが予定位置に着いたようじゃ」

「そうか。それじゃあ、こちらも予定通りいくか」

「そうですね」

 お互いにうなずき合った三人は、手早く片づけを行って、その場から神具のあるはずの場所へと向かった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 九尾狐であるワンリは、普通であればある程度の領域の覇者になっていてもおかしくはない存在である。

 普通であれば、神具が移動手段として利用している狼は、ワンリには太刀打ちはできない。

 それは、直接の戦闘だけではなく、ワンリから逃げることができるかどうかも同じだ。

 ワンリに補足された時点で逃げることなどできないはずなのだが、これに神具が絡んでくると話が変わってくる。

 まず、神具がどういった方法を取ってくるのかがまったくわかっていないので、ワンリとしても慎重にいかざるを得ない。

 ただし、今回に関しては、ある程度まで近づいてからワンリの存在を示すということにしていた。

 それは、神具が逃げ出す基準を確認するためであり、シュレインたちの存在を気付かれないようにするためでもある。

 

 神具の基準はともかくとして、シュレインの存在を隠すことには成功したのか、ワンリがある程度の距離に近付いたところで、対象の狼がワンリのことを気にしだした。

 もっとも、気にしだしたといっても、その様子を見る限りでは、あくまでも普通の狐が近づいてきているときと変わらない感じだ。

 今のワンリは、実力を隠すようにしているので、狼は本来のワンリの実力にも気付いていないようだった。

 もし気付いているのであれば、さっさと逃げ出しているだろう。

 もしくは、神具があえて逃げ出さないように指示をしているのか、どちらかである。

 

 どちらであるのかはわからないが、結局ワンリが駆け出して一気に距離を縮められるところまでは近づくことができた。

 その地点に着いたワンリは、一気に狼に向かって駆け出した。

 その段になってようやく自分が目的だと気が付いた狼は、最初はワンリに立ち向かうべく唸り声を上げた。

 だが、次の瞬間には、神具の指示があったのか、あるいは自分で判断したのか、すぐにクルリと反転して逃げ出した。

 そして、逃げ出した方角は、目論見通りというべきか、シュレインたちが近づいてきている方角だった。

 

「シュレイン!」

「了解じゃ!」

 フローリアの鋭い声が飛ぶと、シュレインがあらかじめ準備してあった術を狼に向けてはなった。

 それは、狼の行動を制限するためのヴァンパイア独自の術である。

 術が決まれば、狼は動けなくなり、あとは普通に近付いていくだけ・・・・・・となるはずだったが、そうは問屋が卸さなかった。

「・・・・・・なんじゃと!?」

 シュレインが術を放つと同時に、狼はさっと軽やかに右にステップを取って、術の範囲外へと逃げ出した。

 こうなるといくら術を放っても意味がない。

「シルヴィア!」

 シュレインは小さく舌打ちをして、シルヴィアの名前を呼んだ。

 

 シュレインに名前を呼ばれたシルヴィアは、次善の策として用意していた聖術を狼に向かって放つ。

 その聖術は、シュレインの物とは違って、対象を捕獲するための物ではなく、動き自体を止めてしまうものになる。

 シルヴィアが放った聖術は、シュレインのときとは違って範囲外に逃げられるようなことはなかった。

 しっかりと狼に向かって術が飛んで行ったかのように見えた。

 だが、完全に術が決まったと思ったその次の瞬間、キンという甲高い音とともに、シルヴィアが放った聖術はキャンセルされてしまった。

 そんなことは通常の狼ができるわけもなく、完全に神具の能力だった。

 

 立て続けに術を躱されたわけだが、シュレインたちは慌てることなく次々と狼を捕獲するための攻撃を繰り出していった。

 もはや神具の暴走云々は気にしてもいない。

 というのも、最初のシュレインとシルヴィアの攻撃で、大きな動きがなければ大丈夫だろうと読んでいたのだ。

 その読み通り、神具は暴走することなく、それどころかどうにかして逃げ出そうという意志さえ感じられた。

 神具がどういう目的を持ってこの場所にいるのかは分からないが、少なくともこのやり取りで、簡単に暴走するつもりはないということは分かった。

 

 最悪の事態を迎えないように、できるだけ生かしてとらえるということを目的にしているため、普通であれば簡単に倒すことができる狼を相手に時間がかかっている。

 ようやくその均衡が破れて、フローリアが最後の攻撃をするべく剣を振りかぶったそのとき。

 突然、近付いてきていたワンリが、人型になって叫んだ。

「フローリア姉様、駄目!」

 フローリアがその声に従って止まったのが、完全に隙になってしまった。

 その隙を待っていたかのように、狼の首に引っ付いていた勾玉の神具が、突如光を発した。

 当然ながら戦闘中のため、全員の視線は狼に集まっている。

 結果として、全員の目がその光にやられることになってしまった。

 目がようやく回復して辺りを見回したときには、すでに狼はその姿を消していたのである。

 

 

「ごめんなさい」

 狼の姿が消えているのを確認するとすぐに、ワンリが三人に向かって頭を下げた。

 そんなワンリに向かってシルヴィアが首を左右に振った。

「いいのですよ。何か理由があったのでしょう?」

「はい。・・・・・・でも」

「気にするな。理由はあとできちんと聞くさ。逃げられたのは、あくまでも結果論だろう」

 きちんとした理由があって、フローリアの行動を止めたのは、この場にいる全員がわかっている。

 ワンリがあのように大声を出すことなど、滅多にないことなのだ。

 今のワンリの態度を見れば、狼を逃がすためにしたことではないことはわかる。

「あの逃げ足は、見事としか言いようがなかったからの。ワンリのことがなかったとしても、いずれはどこかのタイミングで同じことをされていたじゃろ」

 シュレインも呆れたような表情で、狼が逃げていったと思われる方角を見た。

 実際、あの光を使った攻撃(?)は、見事なタイミングだったとしか言いようがないものだった。

 コウヒかミツキがこの場にいたとしても、あまり結果は変わらなかっただろう。

 もっとも、どちらかがこの場にいれば、一瞬で捕まえてしまっていた可能性のほうが高いのだが。

 残念ながら今回はそのどちらもいなかったので、それをいっても仕方ないのである。

 

 結局、二度目の捕獲作戦も失敗ということになったのだが、その分収穫もあったと分かるのは、管理層に戻ってワンリがある報告をしてからのことであった。

二回目も失敗です。

ですが、ワンリが何かに気付きました。

それはまた次回。

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