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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 勾玉
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(4)痕跡?

 結界の揺らぎが起こった場所の着いた考助がまず行ったことは、神具が通ってきた「道」が残っていないかどうかを探ることだった。

 もし本当に神具がこの場所に来たのであれば、いくら上手に痕跡を隠したといっても、結界に何かの情報が残っているはずだ。

 さすがにこの場所の結界を作ることに一役買った考助は、そのあたりのことはよくわかっている。

 ついでにいえば、もともとの結界を張っているユッタの協力もあるので、違和感があれば何かを見つけることができるはずだ。

 そんなことを考えながら周囲を探った考助だったが、意外にあっさりと神具が通って来ただろうと思われる痕跡を見つけた。

 なぜそれが神具の痕跡だと分かったかというと、単純にアスラの神域から通ってきた「道」が残っていたからだ。


 だが、その「道」を見つけた考助は、渋い顔になっていた。

「何ともおかしな顔になっておるぞ? 何か気に入らないことでもあったかの?」

 シュレインがそう言いながら、考助の顔を見て面白いものを見たという顔になっていた。

 複雑そうな顔をしている考助の表情が、シュレインの何かに触れたのだろう。

 考助はそのシュレインは見ずに、ずっと「道」をたどって視線をきょろきょろとさせている。

 そんな考助を見ながら今度はシルヴィアが首を傾げた。

「何か、不満でもあるのでしょうか?」

「うん。まあ、不満というか、これだけ結界をきれいに直しているのに、わざわざ証拠になるような物を残しているのが気になってね」

「わざわざ、なのでしょうか?」

 考助の言い回しが気になったシルヴィアが、あえてそこを突っ込んで聞いた。

「結界を突き抜けたときに修復をしているのに、そのときに合わせて通ってきた道を消さなかったんだから、そう言っていいと思うよ?」

「その道とやらは簡単に消せるのかの?」

「簡単ではないけれど、少なくともここの結界をこれだけきれいに修復できる力があるんだったら、普通にできるだろうね」

 考助の答えに、シュレインとシルヴィアが顔を見合わせて「うーん」とうなった。

 確かに考助の言う通り、今の状況を見る限りでは「わざわざ」と考えるのも無理はないと思えたのだ。

 

 その一方で、シルヴィアには別の考えがある。

「そもそも神具にそんなことをする理由があるのでしょうか?」

「そこなんだよねえ」

 考助もシルヴィアが指摘したところが引っかかっていたため、先ほどと同じような顔になった。

 アスラの屋敷の倉庫に残していた手紙の通り、本当に探してほしくない場合は、通ってきた「道」の痕跡も消してしまったほうがいい。

 それができる能力があるのならなおさらである。

 勿論、考助の見立てが間違っていて、それだけの能力がないということも考えらえるが、ここまできれいに結界の修復をしている以上、それは無いというのが考助の考えだ。

 

 その場でしばらく悩む一同だったが、やがて考助が首を振った。

「・・・・・・ここで延々とそんなことを考えても仕方ないか。とりあえず、神具が間違いなくここに来ていたと知れたのは良しとしよう」

「そうじゃの」

「そうですね」

 前向きな考助の発言に、シュレインとシルヴィアが頷いた。

 全く何の手掛かりもない状態からすれば、間違いなく一歩は前進している。

 それに、今の考助たちには、この場でできることもあるのだ。

 

 考助はその手段をとるため、視線をコウヒへと向けた。

「悪いけど、水鏡出してくれる?」

「はい」

 コウヒは考助に素直に言われて頷いたが、シュレインとシルヴィアは首を傾げた。

「コウスケさん、水鏡をどうされるのです?」

「どうって、勿論シルヴィアに使ってもらうんだけれど?」

「えっ!?」

 まさか自分に振られると思っていなかったシルヴィアが、両目を見開いて驚いた。

 シルヴィアは、巫女として水鏡を扱うことはできるが、神具を使うことになるとは思っていなかったのである。


 ミクセンの神殿でやったことは、あくまでもごく普通の使い方をデモンストレーションしただけで、きちんと神具として使えるかはわからない。

 そうした不安がシルヴィアの顔に出ていることを察した考助が、安心させるように微笑んだ。

「シルヴィアなら大丈夫。それに騒動のときのことを考えたら、よほどの扱いをしない限りは、暴走もしなさそうだしね」

 水鏡の神具は、道具として間違った使い方をしない限りは、変な動作(?)をするということはなかった。

 そこから考えれば、神具ということで変に身構えすぎていたのかと思わなくもないが、全部の神具にその考えが当てはまるわけではない。

 ただ、水鏡の神具に限っていれば、シルヴィアが普通に扱う分には問題ないだろうと考助は考えていた。

 今コウヒがアイテムボックスから出した通り、しまいっぱなしにしていても何か暴走をしたりといったことにもなっていない。

 何より、水鏡の正確な扱い方を知っているのは、この場には巫女であるシルヴィアしかいない。

 

 考助に「大丈夫、大丈夫」といわれながら、シルヴィアは水鏡を使う準備に入った。

 森の中だというのに、コウヒの手によってあっという間に、作業をするためのテーブルが用意されていた。

 本来であれば、水鏡に使う水は清められた聖水を使うのだが、そんなものはここにはないので、何かのためにと保管してあった神水で代用する。

 というよりも、聖水よりも神水のほうが明らかに価値が高いので、後者のほうが水鏡のためにはよかった。

 現に、シルヴィアが神水を手順通りに入れると、水鏡は特に何事もなかったかのように、神水を受け入れていた。

 

 そしてシルヴィアは、すべての準備を整えたうえで、考助に訪ねた。

「それで、水鏡で何をすればいいのでしょう?」

 そもそも巫女や神官が水鏡を使って行うのは、神の力を借りて行う過去視や遠方視である。

 当然ながら、ダナが行っていた占いとは全く性質が異なっている。

 そもそも使っている力が、自分の力を使って行う占いと、神の力を借りて行うものでまったく違っている。

 他にも水鏡でできることはあるのだが、とりあえず考助が今回シルヴィアに頼みたかったのは過去視だった。

「とりあえず、この場に本当に神具が来たのか、過去視をしてもらえないかな?」

「・・・・・・やってみます。ですが、相手が神具なので、正確には出てこない可能性もありますよ?」

「それはそうだろうね。とりあえず、手掛かりらしいものがわかればいいから」

「わかりました」

 考助の言葉に返事を返したシルヴィアは、一度大きく息を吸って水鏡へと手を伸ばした。

 

 水鏡で行う過去視は、神の力を使うことになる。

 そのため、どの神の力を借りるのか、というのが重要になるのだが、今回シルヴィアは特に迷うことなく一柱の神を選んだ。

 その神とは、勿論考助だ。

 過去視を行うのが、考助が探している神具であり、何より考助の力をもとにこの世界にやってきたのだから一番最適なのだ。

 付け加えると、シルヴィア自身が考助の巫女というのも大きい。

 やはり自身が信仰している神の力を借りて行う過去視が、一番成功率が高いのである。

 

 シルヴィアが過去視を行っている間、考助たちは周辺で警戒を行っていた。

 世界樹に守られた森とはいえ、モンスターがまったく出てこないわけではない。

 というよりも、むしろモンスターの出現は他の森よりも多かったりする。

 そのため、無防備になるシルヴィアを守る必要がある。

 考助たちの警戒は、シルヴィアの過去視が終わるまで続けられることとなるのであった。

何やら考助が悩んでいます。

そして、水鏡シルヴィアの出番!

このために前の章で先に持ってきたと言っても過言ではないです!w

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