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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6部 第1章 水鏡
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(21)交換

 ダナがフローリアから聞いた場所は、少し裕福な家庭の二階建ての建物だった。

 だからこそダナは、内心で首を傾げていた。

 イメージではもっと大きな屋敷に住んでいてもおかしくはないと思っていたためである。

 ただ、指示された家が、別荘の代わりということも普通にあり得る。

 それならば、この大きさの家に住んでいてもおかしくはない。

 そう考えたダナは、思い切って呼び鈴を鳴らした。

 

 家の中から出てきたのは、ごく普通の衣装をまとった男性だった。

「はい? おや、あなたは・・・・・・。フローリア様から話は聞いています。上がってください」

「は、はい」

 そう返事をしたダナは、案内されるまま一つの部屋に入った。

 といっても、屋敷のようにいくつもの部屋があるわけではなく、二つあったドアのうちの片方に案内されただけだ。

 そこは、もともと客人を迎えるようになっているのか、テーブルと椅子が備え付けられていて、そこに腰かけるように勧められる。

 一般の家にこうした部屋があること自体がおかしな気もするが、もし富豪などの別荘と考えれば、こうした部屋が設けられていてもおかしくはない。

 迎えに出た男性は、家を管理している者なのだろうとダナは勝手に解釈していた。

 

 そのダナの予想が当たったかのように、男性はダナに飲み物を用意してから言った。

「今、フローリア様を呼びに行っておりますからしばらくお待ちください。何でしたら、ここで待たずに町を見て回っていてもかまいません」

「あ、いえ。ここで待ちます」

「そうですか。では、何かありましたら、そちらのベルでお呼びください」

「はい。わかりました」

 ダナがそう言うと、男性は深々と頭を下げてから部屋を出て行った。

 着ている服とその対応にちぐはぐな印象を受けつつ、ダナは内心で首を傾げていたが、特に何も言わないようにしている。

 それぞれの家の事情というのがあるのだろうと、勝手に解釈していた。

 

 飲み物を飲みながら、いろいろなことを考えていたダナだったが、大体一時間ほど待たされてフローリアがやってきた。

 下手をすればその倍以上待たされてもおかしくはないと考えていたダナにしてみれば、思ったよりも早かったというのが感想だった。

「やあ、すまないな。待たせた」

「いいえ。お約束もないのに押しかけたのは、こちらですから」

「確かにそうだが、いつでも来るように言ったのはこちらだからな」

 そう言いながらフローリアは、ダナの向かいに腰かけた。

 そしてその右隣には、ダナが初めて見る女性が座った。

 

 ダナの視線を感じたのか、その女性、シルヴィアがニコリと微笑んで自己紹介をした。

「始めまして。シルヴィアといいます」

「あっ、はい。初めまして。私は・・・・・・」

 同じように自己紹介をしようとしたダナを、フローリアが止めた。

「そなたのことは、ここに来る途中で話してあるから問題ない」

 実際には、もっと前にダナのことを知っていたのだが、そうして置いた方がいいだろうと、フローリアがそう言った。

 勿論、シルヴィアもそれに合わせるように頷いた。

「ええ、必要ありませんわ」

「そ、そうですか」

 果たして自分のことをどう紹介されたのかと考えたダナだったが、その考えを振り払うように顔に出ないように内心で首を振った。

 

 そんなダナを見ながら、フローリアが話を振ってきた。

「それで? ここに来たということは、決心できたというわけか?」

「は、はい。私の持つ水鏡をお譲りしますので、以前使わせてもらった水鏡と交換してください」

 そうきっぱりと言い切ったダナを、フローリアはじっと見つめた。

「理由を聞いても? ・・・・・・と、聞くのは間違っているのだろうな。なにしろ前のときに私自らさんざん脅しているのだから」

 神具の水鏡が、どういう状態に巻き込まれる可能性があるのか、フローリアは以前店に行ったときに、いやというほど話をしていた。

 そんなフローリアの言葉に、ダナは首を左右に振った。

「い、いいえ。勿論、神具がどうこうというのはあるのですが、それ以外にも理由が・・・・・・」

「ほう? その理由とやらは、聞いてもいいのか? 嫌なら無理には聞かないが・・・・・・」

 自分の問いかけにぐっと詰まった表情になったダナを見て、フローリアがそう付け足したが、ダナは首を左右に振った。

「いいえ、そういうわけではないのですが、これを聞くと普通の人は引いてしまうのではないかと・・・・・・」

「ふむ?」

「・・・・・・うまく言葉で説明はしづらいのですが、以前貸していただいた水鏡のほうが私と合っていたのです」

「ほう?」

 おかしなものを見るような視線ではなく、面白そうな顔になったフローリアを見て、ダナは内心でほっとしていた。

 

 大体こういった話を占い師以外にしても、大抵は引かれるのがほとんどなのだ。

 付け加えると、そのあとは占いに来てくれなくなったりする。

 なので、ダナは極力道具に関しての話は、しないようにしていた。

 とはいえ、今回はその道具にかかわることなので、話すことにした。

 そして、話してみてフローリアと隣に座っているシルヴィアの反応がごく普通(?)の対応だったので、ダナも安心したというわけだ。

 

 それでも、今までに経験してきた癖(?)のようなものが出て、ダナは両手を前でパタパタと振った。

「いえ、その、あくまでも感覚的なものなので、具体的に何と聞かれると困るのですが」

 ダナを見ながらフローリアは、苦笑を返した。

「そんなに慌てる必要はあるまい? 占い師にとっては大事な感覚だと私も聞いているぞ?」

「え? そうなのですか?」

「ああ。私にだってそなた以外の占い師の知り合いくらいいるからな。というか、この前一緒にいたピーチが占いをする人間だぞ?」

「あ、そう言えば」

 言われて初めてそのことを思い出したダナは、思わずといった感じでそう言った。

 あれだけバシバシと指摘を受けていたのに、すっかり忘れていた。

 それほどまでに、ダナにとっては、あの日のことは衝撃だったのだ。

 

 あれほどの美人のことを忘れているなんて、すっかり動転していたのだろうなと恥ずかしくなったダナだったが、幸いなことに(?)フローリアはそれについては何も言わなかった。

「とにかく、おぬしがそう言うのであれば、作った者も喜ぶだろう」

 フローリアがそう言うと、ダナがおずおずと聞いてきた。

「あ、あの・・・・・・あの水鏡の製作者に会うことはできませんか?」

「さて、どうだろう。あれは、出不精なところがあるからな」

 フローリアは、そう言ってフフフと笑う。

 その隣では、シルヴィアも同じように微笑んでいた。

「そう、ですか」

 ダナは、できるなら一度は会ってみたいと思っていたのだが、無理に会うつもりは全くない。

 そうした技術を持つ者には、偏屈な者が多いということを、経験から知っているためだ。

 

 そんなダナに対して、今度はフローリアが尋ねた。

「ところで、その神具とは、きちんと話をしたのか?」

 まるで道具が意思を持っているのが当たり前だと思っているかのように聞いてきたフローリアに、ダナは一瞬目を丸くしたが、すぐに寂しそうに笑って頷いた。

「はい。わかってくれている・・・・・・とは思うのですが、答えが返ってくるわけではないですから」

 自分一人の独りよがりの可能性もある、と言いたげなダナに、フローリアは笑った。

「そういうことなら案ずるな。それは、神具だ。もし、不満があるなら、何らかの反応があるさ」

「そう、ですかね?」

「そうだとも」

 フローリアの答えが唯一の正解だとは限らないのだが、それでもダナはその返事を聞いて安心したような顔になった。

 その言葉で、たった一人で悩んでいたときよりも、気持ちが楽になったのは間違いないのであった。

本文では、相性云々と書いていますが、極端な例を出すと、バイオリンを習い始めた小学生が、最高級品のバイオリンを持って演奏したらどうなるか、という話になります。(あくまでもたとえです)

表現がわかりづらかったでしょうか><

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