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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6部 第1章 水鏡
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(19)ダナのための水鏡

 ダナの店に警邏の人間がやってきたのは、ちょうどお客の流れがひと段落して、休みをとっている最中のことだった。

「あなたが、ダナさん?」

「は、はい、そうですが、今は休憩中で・・・・・・」

 思わず反射的にそう言ったダナに、警邏の人は苦笑を返してきた。

「いや、占いをしてもらいたいわけではなく、私と一緒に少し詰所に来てもらいたいんですわ」

「はい?」

「いえね。数日前に盗難届を出されていたでしょう? その件で確認していただきたいことがありましてね」

「えっ!?」

 思ってもみなかった言葉に、ダナが驚きの声を上げた。

 それを見た警邏の人間は、ひとつ頷いてから続けた。

「そういうわけですから、来てもらえませんかね?」

 それに対するダナの返事は、当然というべきか「是」であった。

 

 そして、詰所からの帰り道。

 ちょっとした手続きを詰所で終えたダナの胸には、水鏡が大事そうに抱えられていたのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 水鏡が返ってきて最高の気分でその日の残りの仕事に勤しみ始めたダナだったが、店が終わったときにはテーブルの上に突っ伏していた。

「・・・・・・お前、どうしちゃったの?」

 ツンツンと水鏡をつつきながら、ダナはぽつりとそう言った。

 返ってきた水鏡は、間違いなく盗まれたものだ。

 それにもかかわらず、以前のような打って響く反応が返ってこなかったのである。

「盗まれたから・・・・・・ううん。違うわね。お前のせいにしたらだめだよね。ゴメン」

 物言わぬ道具を相手にそんなことを言いながら、ダナは先ほどまでの占いのことを思い出した。

 

 ダナが占った結果はきちんと今まで通りに返してくれている。

 そこから考えれば、水鏡は以前と変わらない調子で結果を出してくれていた。

 ただ、ダナが水鏡を使って作業をしているときに、以前には感じなかった微妙な違和感を感じるようになっていた。

 そして、その違和感の理由についてもダナはきちんと気が付いていた。

 

 ダナは、水鏡をもう一度指でつついてからため息を吐いた。

「あの水鏡のせいなんだよね・・・・・・」

 そう言ったダナが脳裏に思い浮かべているのは、先日三人の女性が持ってきた水鏡だった。

 三人の前では、今手元にある水鏡のほうがいいと言い張ったダナだったが、こうして使い比べることができた今になって思えば、それも虚勢だったことがわかった。

 あのときは、この水鏡を失っていたからこそ、よりよく感じていたのだと。

 それこそ、思い出が美化されるように。

 

 水鏡が戻ってきてから半日も使っていないが、それでも両者の違いをダナは微妙に感じ取っていた。

 占いの結果を出すということに関しては、今ある水鏡のほうが上だ。

 だが、ダナとの相性という点から見れば、あの女性たちが出してきた水鏡のほうが上なのだ。

 お互いを使って、あの水鏡は自分が使うためだけ(・・)に作られた物だというのがよくわかってしまった。

 ただの道具でしかないのに、なぜそんなことがわかるのか、ダナにもわからない。

 それでも、その考えは恐らく間違っていないという確信が、ダナにはあった。

 

「今になってこんなことがわかるなんてね・・・・・・」

 そう言ったダナは、首を左右に振った。

「ううん。違うわね。今だからこそ、か」

 ふたつの水鏡を使ってきちんと占いをしたからこそ、その違いもはっきりと比べることが出来た。

 だからこそ、こうして悩みも出てくる。

「私が、お前を・・・・・・ううん。これはお前に言っても卑怯よね」

 自分自身で結論を出すべきこと。

 そう考えたダナは、再びため息を吐きながら身を起こして片づけを始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 くつろぎスペースのソファで考助が寝そべっていると、ピーチが近づいてきた。

「・・・・・・うん? どうしたの?」

 何か話がありそうだと察した考助が、身を起こして先に問いかけた。

「神具がダナの手元に戻ったようです~」

「へえ」

「ほう。意外に早かったな」

 ピーチの報告に、考助が若干驚き、そばにいたフローリアが感心したような声を上げた。

 

 交渉人が動いているということは、それなりの地位にある者が関係していることはわかっている。

 それならば、警邏もまじめに動くのではないかと予測していたのだ。

 ただ、そのフローリアの予測以上の動きだったのも間違いない。

「ふむ。それなりの人物が関与していたか?」

「ベニート商会の商会長が動いているようですよ~」

「ベニートが? なるほどな」

 ピーチからの情報に、フローリアが頷いた。

「知っているの?」

「ああ。中々見どころのある商会として耳に入っていたな」

 女王だったフローリアが、一商会のことなど知っていたのかと首を傾げた考助に、フローリアが頷いた。

 

 フローリアがベニートのことを知っていたのは、偶然ともいえるし、そうでないともいえる。

 ベニート商会は、ラゼクアマミヤができるとともに急拡大してきた商会である。

 一都市の中にある一商会とはいえ、女王だったフローリアの耳にもその名前は入ってきていた。

 逆に言えば、ベニート商会はそれくらいに勢いのある商会なのだ。

 付け加えれば、それほど急拡大しているにもかかわらず、黒いうわさがないこともフローリアの耳に入っていた。

 そのためか、勢いという意味では、ミクセンの三大商会にも劣らないものがあるとフローリアは記憶していた。

 

 フローリアは頷きながらそれらのことを思い出していた。

「確かにベニート商会なら警邏も動くだろうな。それにしても当たりが早かったのは、もともと目をつけていたか、単に偶然なのかわからんが」

「両方みたいですよ~」

 警邏が一つ目の闇ギルドの摘発で水鏡を見つけたのは、単に偶然に過ぎない。

 ただ、勿論目をつけていたからこそ、最初に踏み込むことにしたのもある。

「なるほどな。まあ、それはともかく、水鏡が手元に戻ったということは、あとはあのダナがどうするか、だな」

「私は間違いなく、コウスケさんのほうを選ぶと思いますけれどね~」

「ほう? なぜだ?」

 首を傾げたフローリアに、ピーチが首を右側に傾けて右側こめかみに人差し指を当てながら答えた。

「う~ん。なぜといわれても~。腕の立つ占い師ならきっとそうするからです」

「そうか」

 ピーチの答えになっているようでなっていない回答に、フローリアはそれでも納得したのか小さく頷いた。

 

 そして、今度は考助を見ながらフローリアは問いかけた。

「というわけで、ピーチの見立てだとコウスケが作った物を選びそうだが、どうする?」

 そんなフローリアに、考助は肩をすくめながら答える。

「どうするもこうするもないよ。あの娘が選ぶならそのまま渡してしまっていいよ。というか、もともとそのために作ったんだし」

 水鏡を思いつきと勢いで作ったのはいいが、どうすればダナに納得した形で渡せるかを全く考えていなかった。

 それをフローリアたちが仲立ちする形で、ダナ自身が選ぶようにできたのだからわざわざ止める必要はない。

 そのうえでダナ自身が、考助の作った水鏡を選ぶというのなら、そのまま上げてしまうのは考助としては全くかまわなかった。

「そうか。それなら、計画通りに進めそうだな」

 考助の答えに、フローリアは満足げに頷くのであった。

タイトルの通りです。

能力は確実に神具が上ですが、考助が作った水鏡はダナのためだけの物です。

当然相性は違っています。

ダナが感じた違和感を神具がどう感じ取ったのか、それはまだわかりませんw


そろそろ水鏡にまつわる話も終盤、かな?

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