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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6部 第1章 水鏡
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(14)いよいよ?

 ダナは、朝のときと比べて多少上向いた気分で町を歩いていた。

 街一番の占い師による占いの結果は、「待てば福有」だった。

 それが、水鏡が返ってくることを意味しているのかはわからない。

 ただ、返ってくるにせよ、来ないにせよ、それがダナにとっていい結果になるのであればそれでいいだろうと思えるようにはなった。

 勿論、水鏡のことを諦めたわけではない。

 あれほど相性の合う道具は、この先再び会えるとは限らない。

 占い師として生きていくと決めているダナにとっては、非常に価値があるものだったのだ。

 だからこそ、自分が寝ている隣の部屋からとられたと知ったときには、大きな喪失感を感じていたのだ。

 

 部屋に戻る前に、一度借りている店に戻ったダナは、そこで顔見知りの占い師に呼びとめられた。

「おや。ダナじゃないか。もう大丈夫なのかい?」

 今日一日店を閉めているので、事情はすでに聞いているのだろう。

 心配そうな顔で見てくるその占い師に、ダナは頭を下げた。

「完全に大丈夫、とは言えませんが、明日は何とか店を開けそうです」

「おや、そうかい。そいつはよかった。・・・・・・いや、よくないだろう? 道具はどうするんだい?」

 盗られた水鏡が戻ってきたという話は聞いていないよ、と続けるその女占い師に、ダナは苦笑を返した。

「水鏡がなくても占いはできますから。期待されているお客様には、申し訳ないですが」

「そうかいそうかい。まあ、なんにせよ、店が開けるならよかった」

 笑顔になって軽く言ってきたその相手に、今度はダナも笑顔になった。

「そうですね」

 完全に復活したとは言い難いが、少なくともお客の前で占いができる気持ちにはなれた。

 一応、今日は休みとしているので、翌日からはまた営業再開となる。

 水鏡のことで占いに影響がでないように、ダナは何とか気を紛らわせようとその日を過ごすのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ミクセンのごく一部が盗難事件で騒がしくなっているころ。

 アマミヤの塔の管理層では、女性陣が集まって話をしていた。

 考助は、コウヒと一緒に塔の見回りに行っている。

 別に考助抜きで話し合いが行われることは珍しいことではない。

 というよりも、考助が塔の見回りに行っているか、魔道具の開発をしているときは、大抵女性たちだけで会話は行われている。

 今いるメンバーは、今朝がた考助から事件の話を聞いた三人プラス、コレットである。

 コレットは、たまには気分転換もいいだろうと双子たちを乳母に預けて、管理層に羽を伸ばしに来ていた。

 

 ミツキが用意した飲み物を口にしながら、フローリアがふと思い出したような表情になった。

「何やら今回の件は、妙にコウスケが消極的に感じるが、私の気のせいか?」

 フローリアの言う通り、考助は基本的に何らかの事件(?)に巻き込まれれば、大体ことを大きくしてから解決してきた。

 それが、今回はむしろ積極的には関わらないように、避けるような感じに思えるのだ。

「そうかの? コウスケらしいともいえる気がするが?」

 フローリアの疑問に、シュレインが首を傾げながら反論した。

 シュレインにしてみれば、普段の考助は、基本的に出不精(?)で多くの人とは関わらないようにしているように見える。

 そこから考えれば、今回のことも考助らしいといえなくもない。

 

 そんなふたりを見ながら、今度はシルヴィアが別の角度から意見を出してきた。

「どちらも正しいと思いますが、今回は今までと変わらないことをしていると思いますよ?」

「ふむ。というと?」

「以前から、コウスケ様は神に関わることは、なるべく表に出ないようにしてきましたから」

「そうねー。自分自身が現人神になったときから始まって、神としては積極的に表に出ないようにしていたわよね」

 シルヴィアの言葉に、コレットも同意するように頷いた。

「「・・・・・・あ」」

 そして、シュレインとフローリアは、同時に顔を見合わせていた。

 

 考助は、現人神になる前からそうした傾向があったが、神が関わるような事案に関しては消極的になる傾向がある。

 勿論、すべてにおいてそうではないが、特に魔道具に関することと比べれば違いは顕著だ。

 魔道具はシュミットがつついているということもあるが、現物やアイデアも次々に出している。

 だが、現人神としての行動となると、途端に消極的になるのが、これまでシルヴィアがそばで考助を見てきた印象だ。

「・・・・・・確かに今まで区別して考えたことはなかったが、言われてみればそうじゃの」

「・・・・・・そうだな」

 シュレインとフローリアが、ふたりそろってうなだれている。

 二十年以上の付き合いになるのに、何をいまさらと思っているのだ。

 

 そんなふたりに対して、コレットが笑いながら言ってきた。

「そんなに落ち込むことはないわよ。私も今シルヴィアに言われるまで、気付いてなかったし」

 考助が妙に積極的になるときと、消極的になることがあるのは、ここにいる全員が気付いていた。

 だが、それが神に関わるときに消極的になると気付いていたのは、シルヴィアだけだったというわけだ。

 ただし、そのことに気付いていた者はもう一人いる。

「そうですわね。ただ、多分ですが、ピーチは気付いていると思いますよ」

「あー。確かに、あ奴であれば、そうかもしれんの」

 つかみどころのない性格かと思えば、しっかりと重要なところは押さえている。

 それがピーチに対する他のメンバーの評価だ。

 元から勘が鋭い傾向があったが、神化(?)してからさらにそれが顕著になったように見える。

 もっともそれは、ピーチだけに限らず、大なり小なり他のメンバー全員にいえることなのだが。

 

「話がそれたな。シュレインが言いたいのはそれだけではあるまい?」

「うむ。まあ、そうなんじゃがな」

 シュレインとフローリア、ふたりだけで分かり合って頷いている。

「どういうこと?」

 逆にコレットは、意味がわからずに首を傾げた。

「なに、簡単なことだ。シュレインはこう言いたいんだ。コウスケが動かないのであれば、我々が動いてもいいのではないか、と」

 フローリアのその言葉に、コレットは虚を突かれたような顔になった。

「えっ? それっていいの?」

「それは・・・・・・」

 驚くだけのコレットに対して、シルヴィアははっきりと拒絶の意思を示した。

 考助の巫女という立場のシルヴィアからすれば、その意思を無視するようなことはできない。

 

 勿論、シュレインもフローリアもそんなことは重々承知の上で言っている。

 シュレインが苦笑しながら続けた。

「まあ、フローリアの言い分はずいぶんと直接すぎるかの。こう言い換えてもいいじゃろ。神として動けないコウスケに変わって、我々が動いてもいいんじゃないか」

 考助は、神として動くことを極端に制限、あるいは忌避している向きがある。

 いざとなればその立場を使うこともいとわないだろうが、基本的には自ら現人神としての立場を利用することはしていない。

 もしそれで動けないのであれば、周囲にいる自分たちが動いてもいいのではないか、というのがシュレインとフローリアの考えだった。

 

 ふたりの意図を察したコレットとシルヴィアは、顔を見合わせた。

 そういう考え方もできるだろうと思ったのだ。

「確かに、それであるなら・・・・・・いえ、違いますね。本来はそうすべきなのでしょうね。ただ・・・・・・」

 納得したように頷くシルヴィアが、否定的なことを言おうとしたのをフローリアが止めた。

「まて、その先は私が言おう。きちんとコウスケの意思は確認したほうがいい、だろう?」

 今回は、神域にいる女神からの依頼で動いている。

 下手をすれば、神々からの介入があり得るので、そのまえに考助に確認はとったほうがいいということだ。

「さて、そうなると、考助が頷くだけの大義名分が必要になるの」

 そう言ったシュレインの顔は、楽しそうな表情を浮かべていた。

 そしてそれは、他のメンバーたちも同様である。

 

 こうして、女性陣による考助をだま・・・・・・もとい、説得するための話し合いが始まるのであった。

動けないと動かないは全く違います。

今回は、考助は動かないのではなく動けないのではないか、という嫁さんズの考察でした。

彼女たちがどうやって考助を納得させるための大義名分を用意するのか、それは次回です。

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