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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6部 第1章 水鏡
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(1)置き手紙

 考助が自らの力で作った神域は、今のところふたつだ。

 そのうちのひとつには、ミアが管理しているリトルアマミヤの塔とつながっている転移門を置いてある。

 そして、もうひとつには、考助のプライベートな空間と呼べる場所となっていた。

 後者の神域は、アマミヤの塔の管理層には様々な人が出入りするようになるため、ひとりでくつろげる場所があったほうがいいと嫁さんたちから勧められたため作ったものだ。

 ただ、考助の頭の中には、お嫁さんはできるだけ一緒の場所に出入りできるようにしたほうがいいということがあったため、嫁さんたちもその神域には出入りできるようにしている。

 もっとも彼女たちは、遠慮しているのか、単に考助が神域にいることが少ないためか、わざわざそこに入ることは少ない。

 結果としてその神域は、考助が作った魔道具を置いておく倉庫代わりになり果てていた。

 考助としては、ひそかに作ったものを飾っておいておくようなコレクター気分を味わっていたりする。

 ただ、嫁さんたちには、そんな考助の気分は、見透かされている気もしている。

 もっとも、だからといって何かがあるというわけでもないのだが。

 

 そんな神域でアイテムの整理をしていた考助だったが、突然の連絡に驚いた。

 基本的に神域に入るといっても短時間で出てくるため、塔のメンバーたちが考助に連絡をしてくるようなことはない。

 何より、神力念話を飛ばさずとも、神域には入ってくることができるので、そんな手間をとる必要がない。

 では、いったい誰が連絡してきたのかといえば、アースガルドの世界を統べる女神のアスラだった。

 

「どうしたの? 珍しいね」

 初めての事態に、考助は困惑しながら答えた。

 このとき考助のそばにいたのはミツキだったが、すぐに念話を行っていると察して黙って様子を見ていた。

『突然ごめんなさいね。ちょっと考助に頼みたいことがあったから』

「頼みたいこと?」

 これまた珍しい事態に、何が起こったのかと、目の前に相手がいないのも関わらず考助はいぶかし気な表情になる。

 アスラの神域で頼まれごとをされたことはあっても、こうして通信でというのは、初めてのことだ。

『ええ。でも、通信ではちょっとあれだから、こっちに来てくれるかしら?』

「わかった。すぐ行くよ」

 いよいよもってただ事ではなさそうな事態に、考助はすぐにそう返事を返すのであった。

 

 通信を終えた考助に、ミツキが話しかけてきた。

「あちらの神域へ行かれるのですか?」

 ミツキは、通信の相手が誰であったのかはすぐにわかったのだろう。

 あえて誰の神域とは具体的に言わずに聞いてきたミツキに、考助もまじめな表情で頷いた。

「ああ。何かあったみたいだね。直接僕に連絡してくる意味がわからないけれど・・・・・・。いや、それはここで考えても仕方ないか」

 いったん言葉を区切って考え込むように上を見た考助だったが、すぐに首を左右に振った。

 そんな考助を見て、ミツキが確認するように話しかけてきた。

「このまま直接行く?」

 考助は、塔からでさえアスラの神域に行くことができる。

 自分が作った神域からそちらに移動することもできると考えての問いかけだった。

 そして案の定、考助はそれがいいとばかりに頷いた。

「そうか。そうしたほうがいいかな? 急いでいるみたいだったし」

「わかったわ。他の人たちには私から伝えておくから」

「うん、お願い」

 当然のように、ミツキも今いる神域を出入りすることができる。

 考助がひとりでアスラの神域に行ったからといって、管理層に戻れなくなるといったことはないのだ。

 

 簡単に会話を済ませて、あわただしい様子で転移陣を使って神域へ行く考助を見送ったミツキは、その場でぽつりと呟いた。

「あの方からの直接の要請ですか。何事もなければいいのですが」

 そう言ったミツキの言葉は、他に誰もいないその空間の中に溶け込むようにして消えていった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 アスラの神域へと到着した考助は、最初にその姿を認めて驚いた表情になったエリスと対面することになった。

「考助様? どうしたのですか? 今日はいつもの日ではないですよね?」

 エリスの表情と言葉を聞いて、考助はアスラが自分を呼んだのを彼女が知らないことがわかった。

 この時点でアスラに呼ばれたことをエリスの言っていいのかがわからなかったので、その問いかけには適当に返事をしておくことにする。

「ん? いや、特に何ってわけじゃないけれどね。・・・・・・なんとなく?」

 考助が気まぐれでこの神域に来ることは、初めてではない。

 そのたびにエリスは驚いているのだが、それはいつでも来ていいといわれている考助が遠慮していることを知っているからだ。

 このときも考助の言葉を疑うことなく、歓迎するように笑顔を浮かべて言った。

「そうでしたか。では、寛いでいってください」

「うん。ありがとう」

 僅かに胸中に罪悪感を覚えながらも考助は小さくそう返事を返した。

 

 エリスは、考助が神域に来たからといって常に相手をしているわけではない。

 特に今回のように不意打ちで来たときは、大抵仕事で忙しかったりするので、今回もそれだけの会話をして別れた。

 幸いにして(?)、アスラの部屋に到着するまでにすれ違ったのは、エリスだけだった。

 そもそも考助が転移陣で移動する場所は、アスラの屋敷の奥のほうになるので、めったなことでは他の女神とすれ違うことはない。

 せいぜい三姉妹くらいだろう。

 そのふたりは、今はいないようだった。

 

 考助がドアをノックすると、中からアスラの声が聞こえてきた。

「入っていいわよ」

 ドアを開けて中に入ると、アスラがすまなそうな表情になって、通信してきたときと同じ言葉を繰り返した。

「突然ごめんなさいね」

「いや、それはいいんだけれど、何があったの?」

 今までにない呼び出し方から、何かあったのは聞かなくてもわかる。

 しかもエリスも考助が呼び出されたことには気づいていなかった。

 考助でなくとも、何かあったと考えるのは当たり前のことだ。

 

 そんな考助に対して、アスラは一つだけため息をはいてから、おもむろに一枚の紙を差し出してきた。

「とりあえず、見たほうが早いわ」

「??」

 考助は、とりあえずアスラからその紙を受け取り、その紙に一文だけ書かれているのを見て首を傾げた。

「何、これ?」

 そこにはこう書かれていたのである。

 

『探さないでください×3』


 文面からして誰かが家出をしたような感じだが、そもそもこの屋敷にはアスラしか住んでいない。

 ちなみに、女神三姉妹は常にこの屋敷に泊まっているわけではなく、必要なとき以外は自分の家に帰っていたりする。

 もっとも、その必要なときが多いので、ほとんど一緒に住んでいるのと変わらない状態になっている。

 とにかく、この屋敷から誰かが行方不明になったとは考えづらく、考助は首を傾げることになったのである。

 

 その考助の様子を見て、アスラが多少苦笑したような顔になって事情を話し始めた。

「その文面だけじゃわかりにくいと思うけれど、考助に頼みたいのは、その文面を残していなくなったモノたちを探してきてほしいのよ」

「・・・・・・はい?」

 ますます意味がわからなくなってさらに首を傾げた考助だったが、続けてアスラが説明した内容に、ようやく納得の表情を浮かべることになるのであった。

今話から新しい章(部)のスタートです。

果たしてどうなることやら。

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