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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第7章 塔のあれこれ(その14)
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(13)クロ

「あら? お兄様、その子はどうされたのですか?」

 <狐除香>をシルヴィアから受け取るために管理層を訪ねてきたワンリは、一匹の猫(?)と戯れる考助を見てそう問いかけた。

「うーん? ああ、なんか階層を見回っていたら懐いてきたから連れてきた」

「そうでしたか」

 考助に気持ちよさそうに撫でられているその猫をどことなく羨ましそうに見ながら、ワンリは小さく頷いた。

 モンスターが溢れる塔の階層で、こんな小さな猫がうろついていたことに対する言及はない。

 どちらもそれが当然だと思っているからだ。

 そして、その二人の会話を聞いていた他のメンバーも、その不自然さには突っ込まなかった。

 いい意味でも悪い意味でも、管理層にいる者たちは考助のすることに慣れているのである。

 

 そんな管理層のメンバーだったが、考助も含めて、次のワンリの一言に全員が固まった。

「さすがお兄様ですね。ブラックキャットの子も懐きますか。しかも、眷属ではないですよね?」

「・・・・・・・・・・・・えっ!?」

 思わず考助が撫でていた手を止めると、その猫は催促するように「ニャー」と鳴いて頭から離れた手をぺろりと舐めた。

 その仕草を見る限りでは、とても凶暴とされているモンスターの一種には見えない。

 現に、一緒の部屋にいたシルヴィアやシュレインは、驚きで目を見開いていた。

「こ、この子がブラックキャットじゃと?!」

「し、信じられませんわ」

 ふたりが驚いているのは、ブラックキャットが考助に懐いていることではない。

 あの凶暴なブラックキャットが、いかに子供とはいえこんなに可愛いのかという驚愕だった。

 

 ブラックキャットは、成体になると体長が一メートルほどになる中級モンスターである。

 基本的にモンスターは、強くなればなるほど体も大きくなることがある。

 ただし、あくまでも基本的にはであって、中にはさほど体が大きくなくとも強くなる種類もある。

 その代表格といえるのが、ブラックキャットなのだ。

 勿論、ブラックキャットは、普通の(?)獣型のモンスターのように、爪や牙での攻撃もしてくる。

 ただ、それだけだと体の大きさからいっても、中級モンスターに分類されるような威力は出ない。

 ブラックキャットが、中級モンスターに分類される最大の理由が、魔法を使ってくることにある。

 しかも、魔法を使うモンスターで低ランクに位置するものは一種族につき一種類となっているのだが、ブラックキャットの場合は複数種類を使ってくる。

 それぞれの個体で使う魔法が違ってくるために、討伐にかかる手間もかかるというわけだ。

 

 考助の手にじゃれついて遊んでいるその子猫は、どう見てもブラックキャットの子供には見えない。

 勿論、体色は黒色でその名前の通りなのだが、ごく普通の黒毛の猫に見える。

 その猫は、一同の視線が集まる中、考助にかまってほしいのか、宙に浮いたままの考助の手の指をガジガジと甘噛みをしている。

 そんな子猫に、ワンリが手を近づけようとしたが、その気配に気付いて「フーッ」と威嚇してきた。

「やっぱり無理ですか」

「ふむ。やはりワンリでも駄目か」

「私たちにもまったく懐いてくれないのですよね」

 特に落ち込む様子も見せずに、逆に納得した顔になったワンリを見て、シュレインとシルヴィアが同情する視線を向けてきた。

 そのふたりを見たワンリは、首を左右に振って言った。

「そもそもお兄様に懐いているほうがおかしいのです。いくら子供とはいえ、ブラックキャットなのですから、気性は荒いですよ」

 その当たり前すぎる事実に、シュレインとシルヴィアは顔を見合わせて苦笑した。

 そもそも、考助が眷属以外のモンスターを懐かせて、管理層に連れてくることなど初めてなのだ。

 ただし、考助ならそれくらいやれるだろうという意識が、ふたりともどこかにあったのだ。

 

 自分の手にじゃれつくブラックキャットの子を見ながら、考助はワンリに問いかけた。

「それじゃあ、他の人と一緒に飼うのはやめたほうがいいかな?」

 すでに考助の中では、この子をもう一度野生に戻すという選択肢はない。

 勿論、この子自身が考助から離れることを選択した場合は別だが、そうでない場合は、管理層まで連れてきた責任をしっかりとって最後まで面倒を見る気でいる。

 それこそ考助には、自分だけの空間を作るということもできる。

 ブラックキャットの子が大きくなって、他のメンバーにとって危なくなるようであれば、そうした場所で飼ってもかまわないのである。

 

 その考助の問いに、ジッとブラックキャットの子を見ていたワンリだったが、やがて首を左右に振った。

「いいえ。でも、きちんとしつけはしないと駄目ですよ?」

 そもそもこの世界にもテイマーは存在している。

 さすがに中級モンスターを従えているようなテイマーがゴロゴロしているわけではないが、まったくいないわけでもない。

 それを考えれば、きちんとしつけさえすれば、管理層で飼うことは可能だろうとワンリは判断した。

 もっとも、中級の中でも上位に位置するブラックキャットを従えるテイマーは、ほとんど存在していないのだが、それはそれである。

 

 ワンリから管理層で飼ってもいいと許可が出たことで安心したのは、考助だけではない。

 考助と同じように話を聞いていたシュレインやシルヴィアも、安堵の表情を浮かべていた。

「そうか。それはよかったの」

「そうですわね。こんな愛らしい猫ちゃんとお別れするのは、寂しいですから」

「あの、猫ではなく、ブラックキャットなのですが・・・・・・」

「それは言わぬが花だね」

 考助は、訂正しようとしたワンリに向かって首を振った。

 もはやシュレインとシルヴィアのふたりには、ブラックキャットという事実はどうでもいいことになっている。

 わざわざ水を差すことはないだろうというわけだ。

 

 考助の顔からそれを察したワンリは、ため息を飲み込んで別のことを言うことにした。

「もし、ここで飼い続けるのであれば、早いうちにナナと引き合わせたほうがいいですよ」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「はい。できるだけ幼いうちに触れさせたほうが、間違いが起きないですから」

 別にブラックキャットは、狼たちが天敵というわけではない。

 ただ、当然ながら野生からそのまま連れてきているので、他の種族に対して警戒するのが当たり前なのだ。

 それを薄れさせるには、幼い今のうちから触れさせておくのが一番なのである。

 そのときは、当然考助が一緒にいる必要がある。

 目の前の子が、ワンリがいるにも関わらず特に大きな反応を示していないのは、あくまでも考助がそばにいるからだ。

 自分の存在を慣れさせるためにも、しばらくは管理層にまめに通い続けようとワンリは考えていた。

 

 考助の手を相手にじゃれ続けるブラックキャットの子を見ていたシルヴィアが、ふと思いだしたように考助を見た。

「そういえば、この子に名前は付けないのですか?」

「名前? そうか。名前はいるよねえ」

 いつまでも「この子」とか「ブラックキャットの子」などと呼び続けるわけにもいかない。

 ついでにいえば、その名前を呼び続けていれば、それが自分の名前だと認識するだろう。

 それは、当然ながらできるだけ早いうちがいい。


 顎に手を当ててしばらく名前を考えていた幸助は、ひとつ頷いてから言った。

「うん、決めた! この子の名前はクロにしよう!」

 考助がそういった瞬間、三方向からあきれたような視線が突き刺さった。

 唯一反応していなかったのは、われ関せずといった様子で遊んでいたブラックキャットの子、改めクロだけである。

「コウスケ・・・・・・」

「コウスケさん・・・・・・」

「えっ!? あ、あれ? だめ、かな?」

 慌てる考助に、シュレインとシルヴィアはため息を吐き、ワンリは誰からも見えないようにそっと苦笑を浮かべた。

 

 ちなみに、今この場にいる以外のメンバーがクロの名前を聞いて、すべて似たような反応を示したのは、言うまでもないことであった。

癒し要員が増えました。

もっともあと数カ月もせずに成体になるので、癒し要因とは言い難くなるのですが。

そのときに癒し要因として居続けることができるかどうかは、クロ次第ですw

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