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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第7章 塔のあれこれ(その14)
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(2)親子丼

「おー、大きくなったなあ」

 そう言いながら自分のお腹に手を当ててくる考助に、ピーチはクスリと小さく笑った。

「もう。毎日言ってますよ~、それ」

「別にいいじゃない」

 少しだけ頬を膨らませた考助に、ピーチはもう一度笑みを見せた。

 

 ガゼンランの塔から戻ってきた考助は、ここ数日ほぼ毎日のようにピーチのもとを訪ねている。

 勿論、ピーチだけではなく、コレットのときも同じだった。

 すでに五人の成人した子供がいる考助が今更甘やかしすぎるという未来は見えないが、それでも子煩悩になること間違いなしの光景である。

 そんな考助をピーチは慣れた様子で見ていたが、すぐそばにいたジゼルは苦笑ぎみになっていた。

 一応ピーチから話を聞いてはいたものの、実際に目の当たりにすると普段持っているイメージとの差に戸惑うようだった。

 サキュバスたちにとっては、考助は一族を救われた恩人であり、まさしく神としてふさわしい相手なのだ。

 その相手が、威厳のかけらもなくデレデレとした表情を目の前で見せられると、そうしたものが吹き飛ぶのだった。

 もっとも、考助は普段から威厳のある態度をとっているわけではない。

 あくまでもジゼルやサキュバスたちの持つイメージなので、考助に責任があるとも言い難い。

 

 そんなジゼルに対して、考助は首をかしげながら見た。

「それで? 今日はどうしたの?」

 ここ最近考助は、毎日のように里に通っている。

 その考助に合わせてジゼルも顔を見せているのであればこんな質問はしないが、そうではない。

 何かがあったからわざわざ訪ねてきたと考助が考えるのは、当然のことだった。

 そんな考助に対してジゼルは、首を左右に振った。

「いえ。特に何か大きな情報が手に入ったというわけではないのです」

「ん? あれ?」

 予想と違った答えを返すジゼルに、考助は首をかしげた。

 そんな考助に対して、ジゼルはさらに続けた。

「ただ、この階層に生息しているフードチキンがそろそろ産卵の時期を迎える、ということをお伝えしようと思ってきたんですよ」

「あ、なるほど」

 

 フードチキンは、その名の通り食用として最適な鶏の一種である。

 その肉もさることながら、彼ら(?)が生み落とす卵は最高の一品として、宮廷の晩さん会などに出されてもおかしくないものだった。

 ただ、フードチキンはモンスターの一種として数えられている。

 強靭な脚力による攻撃と、二メートルを超える巨体にも関わらず素早く動くため、狩ろうとする冒険者を翻弄するので知られていた。

 単独でも十分に危険な魔物なのだが、その真価は集団戦で発揮する。

 見かけによらず頭がいいフードチキンは、たいてい集団で生活をしている。

 そのため冒険者が彼らを狩るのには、集団戦を覚悟しなくてはならない。

 特に産卵期のペアになったフードチキンは、普段よりも凶暴さが増している。

 そうなってしまえば、Bランクのパーティでようやく狩れる、といった力を発揮するのである。

 そんなフードチキンであるが、当然のように(?)考助たちにとっては大きな問題にはならない。

 特にナナあたりであれば、喜んで同行してくれるだろう。

 フードチキンの肉がおいしいと感じるのは、何も人だけではない。


 ジゼルがなぜこのタイミングで考助にそんな話をしたのかというのには、もう一つの理由があった。

「そうか。なるほどね」

 考助はフムフムとうなずきながら、チラリと視線をピーチへと向けた。

 フードチキンが生む卵は、栄養価が高いことで知られており、なにより妊婦のとっては最適な食材と言われているのである。

 考助から視線を向けられたピーチは、にこりと微笑んだ。

 当然ながら彼女もフードチキンの卵のことは知っている。

 この話を聞いた考助が、次にどういう行動をとるのかもよくわかっていた。

「行くのですか~?」

「うん。せっかくだしね」

 ピーチの問いかけに、考助はそう即答するのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦ 

 

 その光景は、まさしく蹂躙と呼ぶべきものだった。

 見た目だけでいえば、オオカミが二羽の鶏を追い掛け回しているだけである。

 それだけであれば、肉食獣が草食獣を狩っているだけだが、そこに魔法が飛び交っているとなると普通ではなくなる。

 ついでにいえば、オオカミの体長が三メートル以上あり、鶏も二メートルを超えているのだ。

 まさしく超獣決戦と呼ぶべき光景に見えなくもないが、それを見ていた考助は、オオカミに向かってこう言った。

「ナナ! 楽しいのはわかるけれど、そろそろ終わらせてくれないかな?」

 考助の誘いに喜び勇んでついてきたナナは、少しでも狩りを長引かせようとして楽しんでいたのだ。

 だが、考助にこういわれてしまっては、これ以上長引かせてもしかたないと勝負(?)に決着をつけることにした。

 

 一度距離をとったナナだったが、そのあとはアッというまの出来事だった。

 いったいどうやっているのだと突っ込みたくなるほどに、ナナはあっさりと二羽のフードチキンの首を刈り取っていた。

 先ほどまでの戦いは、ナナにとっては遊びの一環だったのだ。

 もっとも考助もそれをわかっていたからこそ、黙ってナナのやることを見ていたのだが。

 ナナがフードチキンを相手に遊んでいたのは、彼らをバカにしているとか見下しているからとか、そういったことではない。

 久しぶりの考助と一緒の狩りが楽しかったために、できるだけ長引かせたかったのである。

 

「おー。見事に首を切断したなあ」

 ナナのやらかしたことは突っ込まず、考助はそれだけを言った。

 そして、その視線をつがいのフードチキンが守ろうとしたものへと向けた。

 そこには枝や草で作られた巣があり、中には七つほどの卵が置かれている。

「残酷といえば残酷だけれど・・・・・・まあ、そもそも普段口にしている卵も似たようなものだしね」

 そんなことを呟きつつ、考助は卵へと手を伸ばして七つ分しっかりと回収を済ませた。

 一つ二十センチほどもある卵のため、抱えて持ち帰るには大きすぎる。

 当然のように、一緒についてきていたミツキのアイテムボックス行きとなった。

 

 その他の素材もしっかりと回収を済ませておく。

 各種内臓もきちんと処理さえすれば食べられるものだけである。

 二羽分のフードチキンは、とてもではないが考助たちだけで処理できる量ではない。

 ある程度の大きさに解体を済ませたあとは、あちこちにおすそ分けとなる。

 七つあった卵は、ふたつだけを自分たちの分として使って、あとは情報をくれたジゼルやシュミットなどに配った。

 高級食材のフードチキンの肉や卵は、持っていった場所すべてで喜ばれることとなったのである。

 

 そして、その日の夜。

「いただきまーす!」

 考助の挨拶を最初に、メンバーそれぞれが思い思いの挨拶をして食事が始まった。

「うーん。やっぱりおいしいなあ」

 ぱくりと出来上がった料理を口に入れてから、考助がそういった。

 今考助が手にしているのは、親子丼である。

「本当においしいですね~。いつも口にできないのが残念です」

 今日は管理層にお招きされたピーチもそんな感想を漏らした。

 他の者たちも同じようなことを口にしながら、親子丼を食べている。

「ここで何が一番うれしいかというと、やはりこの食事だろうな」

 しみじみとした口調でフローリアが、そんなことを言ってきた。

 もと女王であるフローリアは、この世界のレベルでいえば、一級品の料理を口にしていたはずだ。

 そのフローリアがそんなことを言うのだから、間違いなく管理層で出てくる料理は最高のものなのである。

 そして、その役目を果たしているのが、ミツキであることは言うまでもない。

 

 最高の食材を使って、最高の料理人が料理した食事を口にする。

 なんでもない日常でありながら、普通ではありえない贅沢をしている管理層の日々なのであった。

ピーチの様子とナナの久しぶりの登場でした。

そしてやっぱり勝負にはなりません。

本気を出せば一瞬でした。

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