(30)販売方針
シルヴィアが作り出したアイテムは、一言でいえば魔除けの効果を持つ香水(?)だった。
しかもただのおまじないとかではなく、実際にモンスターに効果があるからこそ凄まじい。
勿論、レベルの低いモンスターであれば、聖職者たちが作り出す聖水などで僅かなあいだ寄せ付けないようなものはある。
ただし、一般に神殿で売られている聖水は、それこそおまじないのような効果で、ほとんど意味をなさないというのが一般的な見方だった。
シルヴィアの作った狐除香は、その一般的な聖水の効果を遥かに超越した効果を持つ香水(?)となっていた。
考助たちが首を傾げたように、ほとんど香りがしないので香水と呼んでいいのかは疑問なのだが。
マジマジと陶器に入った液体を見ていたフローリアが、ため息を吐くように言った。
「いやはや、何とも。まさか、ここまでのものを作り出すとはな」
「色々試してみたら、なにか出来そうな感じがしたので、つい・・・・・・」
思わずといった感じで恐縮したような顔になったシルヴィアに、フローリアは首を左右に振った。
「いやいや。別に責めているわけではないさ」
「・・・・・・あれ? なんか、僕のときと随分対応が違う気が・・・・・・」
考助はなにかをやらかすたびに、それぞれが色々な反応を示すが、今のフローリアのように優しく(?)された記憶はない。
不満そうな表情を浮かべた考助に、シュレインが反応した。
「何を言っておる。コウスケは常習犯、シルヴィアはこれがほぼ初めてのことじゃろう? 対応が違って当然だ」
スパッと言い放ったシュレインの台詞に、フローリアがウンウンと頷いていた。
流石に今回は、シルヴィアが同意することは無かった。
自分がやらかしたことを棚に投げて、考助を責める(?)ことは出来なかったのだろう。
へこむ考助を横目で見ながら、フローリアが話を香水へと戻した。
「それにしても勿体ないな。沢山作るのは無理なのだろう?」
フローリアは、調合作業についてはほとんど分からないが、それでもシルヴィアが手間暇をかけて作っていたことは理解できる。
さらにいえば、わざわざこの神殿まで来て作っているくらいなのだから、使われている素材に関しては言わずもがなだ。
フローリアの言葉に、シルヴィアは首を左右に振った。
「いえ、実は量を作ることは、そこまで難しくないですわ」
「そうなのか!?」
フローリアは、ギョッとした視線をシルヴィアに向けた。
シルヴィアは、一度頷いて説明を続ける。
「ええ。ただ、ここの神殿周辺にある素材を取り続けることが出来れば、ですけれど」
「あ~、なるほど」
シルヴィアの微妙な言い回しに、考助が納得して頷いた。
他の者たちは意味が分からずに首を傾げている。
「つまり、ね。ここの神殿の水を作り出している素材を使って、さらにその水を使って作らないと駄目というわけ」
例えば、全く同じ名前の薬草でもアマミヤの塔の薬草を使って、狐除香と同じ手順で作っても同じ効果にはならないというわけだ。
この神殿の周りで取った素材で作るからこそ、ここまで効果の高いものが出来たのである。
作業する場所は、違う場所でもできなくはないが、作業効率をかんがえればこの場所で作ったほうが遥かに便利ということになる。
素材を作成場所まで運んでから作る手間暇を考えるのか、わざわざこの場所まで来て作るのか、どっちもどっちの状況といえた。
さらに、狐除香を大量に生産するには、もう一つの問題がある。
「自分で作っておきながらこんなことを言うのもなんですが、余りにも効果が高いので他への影響が大きすぎると思われます」
「むっ。確かにそれはそうだな」
考助の説明に頷いていたフローリアは、シルヴィアの追い打ちに顔をしかめた。
聖水に限らず、似たような効果を持つ道具は数多く作られている。
もし、狐除香を量産すれば、間違いなくそれらの道具は売れなくなってしまうだろう。
それだけではなく、下手をすれば冒険者の仕事が激減してしまう可能性もある。
何しろ冒険者に出される依頼の三分の一近くは護衛の依頼と言われているほどだ。
ちなみに、残りの三分の二は素材の採取の依頼とモンスターの討伐依頼になる。
依頼はそれ以外にもあるが、それらは微々たる数でしかない。
もし狐除香が世間に広まってしまって、完全にモンスターを寄せ付け無くなることがわかると、それらの依頼が無くなってしまう。
どう考えても影響が大きすぎるため、不用意に広めていいものではないということになるのだ。
そのことが理解できたフローリアは、残念そうに首を左右に振った。
「確かに影響が大きすぎるな。予定通り狐のお宿で少しずつ売り出すのが一番か」
現状、一つしかない狐のお宿であれば、毎日どれくらいの量が出たか把握しながら売りに出すのも調整できる。
それくらいであれば、いくら高い効果を持つといっても、経済活動に与えるダメージは抑えられるのだ。
「まあ、仕方ないか」
フローリアは、もう一度首を左右に振って、きっぱりと諦めるのであった。
そんなフローリアを見ながら、今度はシュレインが質問して来た。
「ところで、これは薄めて使うことは出来ないかのう? それが出来れば、与える影響も小さくて済むと思うのじゃが?」
狐除香を薄められれば、効果も落とすことが出来て冒険者たちも護衛の依頼が完全に無くなるということがなくなるのではないか、というシュレインの提案にもシルヴィアは首を左右に振った。
「残念ながらそれも無理ですわ。そもそも狐除香は、薄めることが出来ないですから」
「むう。そうか」
シルヴィアもシュレインと同じようなことを考えて、薄めて使うことが出来ないかと色々試してみた。
だが、単純に水で薄めるだけでは駄目で、他にも色々と試してみたが、どうしても効果を薄めることはできなかったのである。
結局、そうした実験を経て、今考助たちに見せている量の狐除香を作ることにしたのだった。
シルヴィアの確認に何か見落としが無いか、他にも色々と検討したが、結局当初の予定通り作った狐除香を小分けにして、狐のお宿で売りに出すことで決まった。
しかも売りに出すのは、一日三本までで、狐たちが特に気に入ったお客にしか勧めないという徹底ぶりだ。
狐たちが趣味でやっている宿で、もともと限られた者しか泊まることが出来ないからこそ出来る販売方法だろう。
今回シルヴィアがまとめて作った分は、計算上ではひと月以上は持つことになる。
在庫が無くなりそうになった場合は、またこの神殿に来て作らなければならないが、売る場所が限られている上に量も少ないので、在庫の把握はしやすい。
それに、単に狐除香を作るだけならば、今回のように大人数で来る必要もない。
いっそのことリトルアマミヤの管理層に置いたのと同じ転移陣を置こうかとも考えた考助だったが、それは今回は見送ることになった。
塔から転移陣で転移をするには、どうしても考助の作った神域へと行かなかければならないのだ。
そもそも神殿の存在を秘匿しておくことにしているので、あまり余計なことをして変な影響を残したくはない。
そう考えての決断だった。
大方の方針が決まって、そろそろ休もうかといった状態になったころに、フローリアがポツリと言った。
「ところで、この狐除香、シュミットには話すのか?」
「言えると思う?」
考助の返しに一瞬言葉を詰まらせたフローリアは、ゆっくりと首を左右に振るのであった。
シュミットは狐除香に関しては、蚊帳の外ですw
もっとも、狐のお宿で売りに出せば、すぐに噂が流れて犯人に気づくでしょうが。




