(17)点と線
ドノバンとアデールは、考助からの情報に大きく目を見開いていた。
「・・・・・・それは、本当のことか?」
「本当です。といっても、どう判断するかはお二方にお任せします」
考助が今話したのは、闘技者ランク二位のイーザクが使っていた魔道具のことだ。
流石にドノバンもアデールもクラウンを仕切っているだけあって、その異常さにはすぐに気付いたようだった。
「魔力を補充できるタイプの魔道具ですか。・・・・・・てっきり、クラウンで売り出している物が初めてだと思っていました」
「ああ、俺もだ。現役のときに同じような物が出来ていればと、何度も考えたさ」
苦笑しながらそう言ったドノバンに、アデールも頷いている。
「まあ、そんな戯言はともかく、確かに異常だわな。それで? その話だけで来たわけではないだろう?」
昨日イーザクがコウヒに負けたことは、既にドノバンも聞いている。
冒険者としてもさほど知名度のなかったイーザクが、そんな魔道具をいきなり三つも手に入れて戦っていたとなると、すぐに疑われるのが入手ルートだ。
その辺も見当が付いているのだろうと言わんばかりのドノバンの表情に、考助は苦笑しながら答える。
「ええ、まあ。ちなみに、ダメスとかいう貴族がそれなりの態度でうろついているようですが・・・・・・」
「ん? ああ、まあな・・・・・・って、まさか!?」
考助の言葉に苦笑いで答えようとしたドノバンだったが、考助が言いたいことを察して顔を引き攣らせた。
隣で同じように話を聞いていたアデールも、同じような顔になっている。
「まあ、そういうわけです」
「まじかあ・・・・・・。あの坊ちゃんがねえ」
苦笑いをしている考助に対して、ドノバンはため息混じりにそう吐き出した。
そんなドノバンを見ながらアデールが首を傾げながら聞いてきた。
「しかし、ダメス氏はドミニント帝国の子爵です。イーザクが使っていた魔道具が、おっしゃったとおり国宝級の魔道具だとすれば、そう簡単に貸し出せるとは思えないのですが・・・・・・」
「まあ、そうでしょうねえ」
ダメスが子爵であることは、考助もミツキから聞いていた。
一つくらいなら持っていてもおかしくはないが、三つも同時に他人に貸し出せるほどの財力があるとは思えない。
そう主張するアデールに、考助も意味ありげに頷いた。
その考助の意図に先に気付いたのは、ドノバンだった。
アデールの肩をポンとたたいて、首を振った。
「そこから先はこっちで調べるべきことだろう?」
そう言ったドノバンに、アデールがハッとした表情になる。
「確かに、おっしゃる通りでした」
何でもかんでも他人からの情報だけに頼ってしまえば、いざというとき、今回の場合は考助たちがいなくなったときに困ることになる。
もたらされた情報を精査してその詳細を分析するのは、あくまでもクラウンでやらなければならない。
反省するアデールを見ながら頷いたドノバンは、ふと考助を見た。
「ところで、ものは相談だが、その調査お前さんがやってくれないか?」
まさしく正しいルートで依頼をしてくるドノバンに、考助は苦笑を返した。
適正のある能力を持つものに、依頼をして情報を得るのがクラウンの仕事なのだ。
先ほどまでの話からも、考助たちがそうした能力を持っていることは明らかだ。
ギルドマスターであるドノバンが考助に直接依頼をするのは、当然といえば当然なのである。
「残念ですが・・・・・・」
首を振りながら断って来た考助に、ドノバンはあっさりと首を縦に振った。
「ああ、そうか。それは仕方ないな」
ドノバンとしては、是非とも考助たちに受けてほしかったが、他に頼めるパーティが無いわけではない。
考助たちが何か目的を持ってセイチュンに来ていたのは分かっているので、断られることも当然のように考えていた。
そんなドノバンに対して、考助はふと思いついたように付け加えた。
「もしかしたら、本部に話を通した方が良いかもしれませんね」
「ほう? なぜだ?」
支部内で起こったことは支部で片を付けるというのが、クラウン内での不文律だ。
それを越えて本部を頼るということは、支部の範囲では手に負えないと言っていることになる。
別にそれで支部長としての株が下がるわけではないが、出来ることなら使いたくない手段なのはどの支部長も同じだろう。
もっとも、それぞれの支部長は、いざというときはためらいもなく本部に助けを求めることができる人材がなっている。
ドノバンももし自分の手に負えないと判断すれば、間違いなく本部に連絡を入れるつもりだった。
だからこそ、考助の言葉にも耳を傾けているのだ。
ついでにいえば、自分と同じ考えを考助が持っているのかを確認するために、こうして問いかけている。
そんなドノバンの思惑はあずかり知らず、考助は肩を竦めながら答えた。
「単純な予想ですが、使っていた魔道具が三つとも国宝クラスだと、下手をすれば侯爵以上が動いていてもおかしくはないですからね」
考助もそれ以上は言わなかった。
下手をすれば、国の軍隊を動かせる相手が動いてたとすれば、とても今の支部だけの力では対処できるものではない。
そうなったときのために、本部の後ろ盾はちゃんと用意したほうがいい、と暗に勧めている。
「ふむ」
そして、ドノバンは考助の言葉に、二重の意味で頷いた。
一つは、考助が敢えて言わなかったことを推測して納得したこと。
もう一つは、考助がきちんとこうしたことまで考えられるだけの能力を持っていると理解したことだ。
ドノバンが知るコウという冒険者は、セイチュンの支部の設置に尽力した人物だと聞いている。
その人間がどういった力を持っているのか、今回は自分の目で確かめる絶好の機会だったといえる。
そして、その目的は十分に果たした。
ドノバンから見てもコウはただの冒険者だとは思えなかった。
ついでにいえば、コウという名前からとある存在まで連想したが、それ以上の確認することはしない。
まさしく触らぬ神になんとやらだった。
それに、ここまでの情報が出揃えば、黒幕が誰であれ何をしようとしているのかは予想することができる。
闘技戦で高ランクを狙って話題を浚い、ガゼンランの塔において最重要な素材である<アエリスの水>の権利を押える。
コウが支部を作ったときと同じようなことをしているのだから、ドノバンに分からないはずもない。
だとすれば、クラウンとしてどう対処をするのか、それを考えるのは支部長である自分の役目なのだ。
そんなことを考えていたドノバンを見て、考助はこれで大丈夫かと考えた。
「それでは、そろそろ僕は失礼いたします」
「ああ、わざわざ済まなかったな。塔に戻るんだろう?」
「ええ。まだまだやることは終わっていないですから」
「そうか。何か欲しいものがあればいつでも言ってくれ。出来る限り迅速に用意する」
そのドノバンの言葉は、情報提供してくれた考助に対しての最大限の感謝の気持ちである。
考助は一度頷いて、それを素直に受け取った。
「ええ。わかりました」
それだけを言って、考助は席を立つのであった。
考助がミツキと共に塔に向かうのを窓から見ていたドノバンが、傍に控えているアデールに言った。
「やれやれ。たった数日滞在するだけで、これだけの結果を持ってくるか」
「お陰でこちらの裏付けも楽になりました」
支部としても<アエリスの水>の件に関しては色々と動いてはいたが、中々思惑が見えていなかった。
それが、考助が持ってきてくれた情報のおかげでバラバラの点に見ていたことが線で繋がった。
アデールの言う通り、目標が絞れるようになった分、調査が楽になったのは間違いない。
「取りあえず、目ぼしい人選は任せる」
「分かりました」
アデールはそう言って部屋を出て行った。
すぐにでも作業に取り掛かるためだろう。
それを見送ったドノバンは、本部に向かうためのスケジュールを確認するのであった。
考助からの情報提供により、本部に向かうことが決定しました。
セントラル大陸外では、知名度はあるとはいえ、支部単位ではまだまだ影響力はさほどでもありません。
勿論、その辺の一ギルドでは太刀打ちすることは不可能ですが。




