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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6章 ガゼンランの塔再び
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(15)安定の勝利

「く、くそが!」

 イーザクは焦りで思わずそう悪態をついたが、コウヒは開始当初から変わらない表情で目の前に立っている。

 戦いが始まるまでは、いや、戦いが始まってからも、自分の優位を信じて疑っていなかったイーザクだったが、だからこそ今の現実に対応できなかった。

 目の前にいるコリーは、最初から最後まで一貫して防御に徹していた。

 勿論、全く攻撃してこなかったわけではない。

 ただ、その攻撃も防御のために必要なものであって、積極的にイーザクにダメージを与えるようなものではなかったのである。

 最初はそれを嘲笑っていたイーザクだったが、あり得ない程の高い防御力に、その心境は焦りへと変わっていった。

 そして、その結果が今である。

 相手に見つからないように、そっと魔道具についている物を交換した。

 それは、昨日バトル商会の商会長からもらった物と同じ物だ。

 ただし、交換後に手の中にあったものは、昨日もらった物と比べてくすんでいる。

 もっとも、表に見えない所でこっそりと変えているので、誰にもばれていない・・・・・・はずだった。


 今までただの一度も声を発していなかったコリーが、突然口を開いた。

「交換は終わりましたか?」

「・・・・・・何?」

「道具の交換は終わったのですか、と聞いています」

 そう言いながら真っ直ぐに自分を見つめてくるコリーに、イーザクは内心で動揺しまくっていた。

 今までただの一度も交換をしているところがばれたことはない。

 そもそも、交換するほど長期戦になることも少なかったのだが、そんなことを考える余裕は今のイーザクにはなかった。

 そしてコリーは、イーザクにとってさらに耳を疑うようなことを言って来た。

「それで最後のようですが、しっかりと使い切ってください。今後のためにも(・・・・・・・)

 その言葉を聞いて、イーザクの前身に冷や汗が走った。

「ま、まさか、最初からわかって・・・・・・」

 コリーは、イーザクのその呟きには答えず、先ほどまでと同じようにイーザクでも躱しきれる攻撃を繰り出して来た。

 イーザクに、考える間を与えようとしていないのは明らかだった。

 

 イーザクが使っている魔道具は、全部で三種類。

 そのどれもが、高い効果を持っている。

 攻撃は当たれば一撃必殺、防御は宮廷魔術師の攻撃さえ歯牙にもかけない。

 ただ、その分、使われる魔力の量も半端ではなく、長時間の対戦に使えるようなものではない。

 だからこそ、予備の魔力を五つ分用意してあったのだが、コリーの言う通り全ての予備を使うまでになっていた。

 そして、使っているのが道具だからこそ、終わりのときを迎えた。

「く、くそ!」

 発動しようとした攻撃が発動しなかった。

 魔力切れである。

 その魔道具の魔力切れを皮切りに、残りの二つの魔力が底をつくのもそう時間はかからないのであった。

 

 慌てるイーザクを見ながら、コリーはゆっくりと言葉を発した。

「終わりですか」

 その台詞を聞いたイーザクは、慌てて防御の態勢を取る。

 だが、道具のないイーザクの実力は、ハルトヴィンの見た通りとてもではないが上位に食い込むほどではない。

 取った防御の態勢など全く意味もなさず、あっけなくコリーの攻撃を食らったイーザクは、あっさりと地面に身を横たえることになるのであった。

 

 

 

「負けた、か」

 イーザクの負けっぷりは、しっかりと彼の目に焼き付いていた。

 一応今までのイーザクの戦いは全て見て来た。

 その彼にしても、まさかイーザクとコリーの間にこれほどの実力差があるとは思っていなかった。

「失礼します」

 物思いにふける彼の肩をそう言って揺らしてきた。

「ん? ああ」

 肩を揺らした者が顔見知りだと分かった彼の頭は、現実に引き戻された。

「そろそろお出にならないと厳しくなります」

「分かった。すぐに出るよ」

 観客たちは、今はまだコリーの勝利の喜びに沸いていて帰ろうとする者は少ない。

 会場から出ようとする人でごった返す中進んでいくのは、彼としても勘弁願いたかった。

 すぐに立ち上がって、会場を後にする。

「それにしても・・・・・・コリー、か。一体何者なんだろうね、彼女は」

 そう呟いた彼の言葉は人々の騒めきに消えていき、誰かの耳の中に入ることは無かったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 コリーの勝利の話は、その日のうちにセイチュンの町中に広まった。

 闘技場ギルドはセイチュンにあるいくつかのギルドの中でもかなりの発言権を持った組織だ。

 その中で一番の実力者になるランク一位は、ギルドマスターよりも強い権力を持つ。

 その権力者としてイーザクのような者が立つのかどうかと注目していた人々は、その話にホッと胸をなでおろしていた。

 実際、以前からイーザクの評判は良くなかったのだ。

 人の心情としてそうした人物が上に立ってほしくないと思うのは、ある意味当然のことといえる。

 その日の酒場では、コリーの勝利を酒の肴にして盛り上がっているのが、各所で見受けられた。

 

 セイチュンの人々が和やかムードになっている中、高級住宅街にある屋敷では真逆の光景が繰り広げられていた。

「何をやっているんだ、馬鹿が!」

 そう怒鳴り散らしたのは、屋敷の持ち主であるダメスである。

 ダメスは、以前フローリアたちに絡んできた駄目貴族だった。

 そして、怒鳴られているのは、今日コリーに負けたイーザクだ。

「うるさいな。そう怒鳴るなよ。今日一回負けただけだぜ?」

 相手の怒鳴り声に顔をしかめながらも、イーザクはおどけたよう両手を広げた。

 内心では次勝つのは無理だろうと思っていることは、決して表には出さない。

 

 そんなイーザクを見てさらに苛立たし気な表情になったダメスは、盛大に舌打ちをしてから言い放った。

「お前は馬鹿か? どうして次があると考えているんだ?」

「おいおい、旦那。何を言っているんだ? 闘技戦は一回だけで決まるもんじゃないだろう?」

「ふん。あんなに無様に負けておいて、良くもそんなことが言えたもんだ」

 ダメスの言葉に、イーザクは顔を引き攣らせた。

 そして、更に次のダメ押しに、完全に表情を固まらせた。

「大体、なぜいつまでも貸し出し続けられると思っているんだ? お前はあほだろう」

「な、何!?」

 考えてもいなかった言葉に、イーザクの頭は真っ白になった。

 

 イーザクが戦闘中に使っていた魔道具は、そもそも彼自身の持ち物というわけではない。

 冒険者としてくすぶっていたイーザクの元に、ダメスの使いが現れて彼の元に連れて来たのだ。

 これだけの効果が高い魔道具を、イーザク程度の冒険者が複数も所持できるはずもない。

 なぜ自分に話が回って来たのかは分からないが、イーザクは「依頼」としてセイチュンの闘技場で戦闘を続けて来たのだ。

 ダメスがなぜそのような依頼をしてきたのかはイーザクも分かっていない。

 ただ、依頼の内容として、闘技戦で勝ち続けるように言われていただけである。

 それがまさか「一度も負けてはいけない」という意味だとは、考えていなかった。

 もっともこれは、イーザクの手落ちというわけではない。

 そもそもセイチュンの闘技場で、一度も負けることなく勝ち続ける方が異常なのだ。

 

「そうか、それで? 俺はこれでお払い箱か?」

 しょせんは雇われ者という事実を突きつけられて、頭が妙に冷静になったイーザクは、そう問いかけながらダメスを見つめた。

「そんなこと僕が知るもんか! 取りあえず指示があるまで、お前はおとなしくしていろ! だが、これまでのように、騒ぎのもみ消しなど期待するなよ!」

 イーザクもダメスが自身で考えて、こんなことを計画したとは思っていない。

 ある意味で予想通りの言葉に、イーザクは冷めた視線でダメスを見つめるのであった。


コウヒ回です。

あとは、やっと駄目貴族の名前が出せました。

ダメス・・・・・・何となく思い浮かんだのがこれでしたw


昨日の更新分では書けなかったのですが、活動報告に「塔の管理をしてみよう」のちょっとしたおまけ話を書いています。

是非ご覧ください。

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