(4)闘技戦、再び
支部で話を聞いた考助たちは、一旦二手に分かれることにした。
一つは考助、コウヒ、シュレインの三人組で、闘技場ギルドに向かう。
もう一つは、残りのメンバーで宿を探すことになった。
全員で動いていても構わないのだが、時間が勿体ないだろうとフローリアが主張したのだ。
その中には、別の町に来たので見て回りたいという本音も見え隠れしていた。
もっとも、別に考助としても反対する理由は無かったので、二手に分かれることに同意した。
シュレインが闘技場ギルド組に含まれているのもフローリアと似たようなもので、折角なので闘技場を見ておきたいという理由からだ。
セイチュンの町の闘技場ギルドは、相も変わらず騒がしいところだった。
そもそも普段から出入りしている人間が、戦闘を好みとしている者が多いので、ある意味当然といえる。
そういう意味では冒険者ギルドも変わらないのだが、どちらかといえば、闘技場ギルドの方が殺伐として見えるのは、考助の気のせいではないだろう。
そんな闘技場ギルドに近づくにしたがって、ざわめきが大きくなっていった。
勿論、コウヒの姿を見つけて騒ぐ者の数が増えてきているのだ。
ランク一位を取って以来、一度も姿を見せていなかったコウヒが突然姿を現せば、騒がれるのも当然である。
「流石コリー、人気だね」
人目を意識して偽名で名前を呼んだ考助は、何となく悪戯っぽい表情を浮かべている。
「確かにすごいの。コウ・・・・・・コリーにとっては煩わしいだけじゃろうが」
思わず本名を呼びそうになったシュレインだったが、慌てて偽名に呼び変えている。
そのコウヒ本人は、それらの視線を全く気にしていないのか、普段と表情はほとんど変わっていなかった。
人々の話でコウヒが来たという情報が既に手に入っていたのか、ギルドの建物に入るなりコウヒの元にすぐに職員がやって来た。
「コリー様、ようこそおいでくださいました。早速で申し訳ありませんが、一緒に来ていただいてよろしいでしょうか?」
クラウンを通して話が伝わっていると理解しているのか、職員は用件も何も言わずにそう告げた。
コウヒもそれを気にすることは無かった。
「この二人が一緒でいいのなら」
「勿論です。では、こちらへ」
コウヒの言葉にすぐさま頷いた職員は、周囲の人目を避けるように奥へと向かった。
職員が向かったのは、闘技場ギルドのギルド長がいる部屋だった。
ここでも既に話が通っていたのか、職員が一言声をかけるだけですぐに部屋の中に入ることが出来た。
闘技場ギルドのギルド長であるドナートは、コウヒの姿を見るなり歓迎の意を示してか両手を広げて出迎えていた。
「よく来たな。適当に座ってくれ」
ドナートは、目の前にあるソファをコウヒへ示しながら自身もドカッと腰を下ろした。
「それで、なにか用事があるようですが?」
ソファに座るなり、コウヒはすぐに要件を切り出した。
コウヒとしても雑談をするつもりはない。
そもそも闘技場ギルドに所属する者は、余計な会話をする者が少ないため、ドナートも特に気にした様子を見せずに話し出した。
「いやなに。しばらく姿を見せなかったあんたが気になっている者がいるようでな。出来ればそいつと試合を組んでもらいたいんだ」
「まだ期限は来ていないはずですが?」
ランク一位のコウヒは、長期間対戦をしなくともそのランクを維持することができる。
もっとも、コウヒとしては対戦をしないまま資格を失っても問題はないのだが、そんなことをおくびも顔に出さずにそう言った。
そんなコウヒの思惑は露知らず、ドナートは表情を変えずに頷いた。
「そうなんだがな。あのときの戦いはただのフロックだろうと馬鹿な主張をする奴もいてな。特に、実際に戦いを見てなかったやつに限って、だが」
ため息混じりにドナートがそう言ったが、それでもコウヒは表情を変えなかった。
「私には何の関係もない話ですね」
身もふたもない言い方をしたコウヒに、ドナートは苦笑を返した。
ここで、だったら資格を取り消してもいいんだぞという馬鹿な脅しをかけたりはしない。
コウヒが闘技場ランク一位の地位にこだわっていないのは、見れば明らかだからだ。
ついでに、以前のときは、クラウンの為にやったことだということも分かっている。
既にクラウンとして活動が始まり、セイチュン内で大きな影響力を持っている以上、コウヒがランクにこだわり続ける理由はないのである。
「まあ、そうなんだがな。ギルドを助けると思って、一試合だけ頼めないか?」
最初の態度では高圧的だと思っていたドナートだったが、意外にそうでもないと感じた考助は、疑問に思ったことを口にした。
「なにかギルドでそこまで困るようなことでも起こっているのでしょうか?」
「何。今ランク二位にいるやつが、コリーがここを去ったあとに来たやつなんだ。見るものが見れば、実力の差は明らかなんだがな。本人は納得いかないらしい」
ため息混じりにいったドナートに、考助はなるほどと納得した。
ドナートが言った通り、現在闘技場ランク二位にいるイーザクは、コウヒがセイチュンの町を去ってから闘技場ギルドに登録した闘技者だ。
期間的には、コウヒと同じように短期間でそこまで上り詰めたのだが、周囲の反応はいまいちで未だにコウヒの人気が高いのが不満らしい。
はっきりいえば、コウヒの人気が高いのは見た目だけで、実力は自分が上だと主張しているのである。
ちなみに、元一位のハルトヴィンとも対戦したが、イーザクが勝っていた。
「ハルトヴィンが負けたのですか?」
ドナートの話にコウヒが初めて興味を示したのが、ハルトヴィンの敗戦だった。
「ああ。奴は今、色々と試しているらしいな。アイテムの事がばれて以前ほど通用しなくなったというのもあるんだろう」
「そうですか」
コウヒと戦った時点でハルトヴィンのアイテムのことは、他の者たちに周知されている。
それに対して対戦相手が対策を取ってくるのは、当たり前のことだ。
そんなことに文句を付けるようであれば、そもそもアイテムを使ってはいけなくなってしまう。
ハルトヴィンも当然のように、今まで使っていたアイテムに頼らない方法で戦闘をするようになっていた。
結果として、以前ほど強くはない状態になっているのだ。
「奴は奴で長期間いた実力者なのは間違いない。いずれまた調子を戻すだろうさ。それよりも、今はイーザクの問題だ」
「話を聞いている限りでは、問題が無いように思えますね? 実力もあるのでしょう?」
話を戻したドナートに、考助が首を傾げながら聞いた。
そもそも闘技場ギルドは、実力主義をとっている。
「そうなんだがな。まだ上にコリーがいることが問題になっているんだよ。まあ、早い話が、イーザクは実力はあるが人格的には問題が大きい人物でな」
一言でいえば乱暴者、自分の思い通りにならなければ暴力を振るう、とまあありがちな性格をしている。
それだけ反発も大きくなり、未だにコウヒが一位にいることから、イーザクの言うことを聞かない者がほとんどだった。
そのため、イーザクはコウヒ(コリー)のことを目の敵にしているのだ。
「何とも迷惑な話ですね」
コウヒの身もふたもない言い方に、ドナートは苦笑を返した。
「まあ、今までお前さんがいなかったから、奴も言いたい放題だったということもあるがな」
コウヒがまともに戦う所を見ていれば、イーザクの言動ももう少し落ち着いたものになるだろうとドナートは確信している。
ドナートの期待のこもった視線を受けて、コウヒはため息を吐きながら考助を見た。
その視線を受けて考助は、苦笑しながら頷いた。
基本的に考助のことにしか興味を示さないコウヒだが、何だかんだで自分が関わったことに関しては、面倒見は良いのだ。
それは、トワたちの子育て具合を見ていてもよくわかる。
結局、考助たちがセイチュンにいる間は、という限定付きでコウヒは再び闘技戦に出場することになるのであった。
今回は、コウヒの闘技戦に関する話題でした。
といっても以前の時ほど戦いの様子を書くことはしません。
・・・・・・タブン。




