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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 塔のあれこれ(その13)
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(14)私塾?

 いつものようにシュミットと雑談を交わしていた考助は、ふと数日前にトワ、フローリアと会話した内容を思い出した。

「そういえば、兵陸棋の大会にはクラウンは噛まないんだよね?」

「ええ。あれは国が開く大会ですからね。クラウンは変に手を出さないほうがいいと判断されました」

 ラゼクアマミヤのやること全てにクラウンが関与すると、癒着だのなんだのと騒ぐ輩が必ず出てくる。

 国内ならまだしも、厄介なのは国外だ。

 遅々として広まっていないクラウンの海外進出を考えれば、余りラゼクアマミヤのやることに関与しすぎるのも駄目だろうと結論を出したのだ。

 勿論、それ以外にもクラウンが関与しないと決めた理由はある。

「折角国が楽しめる時間を提供してくれるのです。我々は、『人』を育てようと思います」

「へえ?」

 シュミットの言葉に、考助が興味を持ったような表情になる。

「話に聞く限りでは二回目以降もありそうですからね。それなら強者を育てるのも面白いのではと意見が出ました」

「具体的には?」

「最初に意見として出されたのは、訓練校みたいなものが作れないか、というものでした」

 

 最初にその意見が出たのは、雑談混じりの会話をしていたときだったそうだ。

 クラウンの職員たちが、休憩中に今度開かれる大会について話をしていたときに、いっそのことクラウンで選手育てられたら面白いのにね、という話になったらしい。

 次にその話を偶々耳に挟んだのがクラウンでもかなり上の役職についている者で、具体化できないか検討されたのだ。

 ただ、最初の案は、流石に年に一回程度の大会だけで何人もの選手を抱えて育てるには経費が掛かりすぎると却下された。

 次の案として出されたのが、兵陸棋の基礎を教えるような場所を作れないか、というものだった。

 早い話が、将棋や囲碁の棋士が開いている塾のようなものである。

 塾で教える教師として兵陸棋で強い者を雇うことが出来れば、教える方も他人に教える時間がとられるとはいえ、ある程度兵陸棋だけに時間を割くことができる。

 兼業で何かをやりながら兵陸棋のための時間をやりくりするよりは、遥かにましな時間の使い方ができるという寸法だった。

 そして、この案なら何とか実用できるのではないかと、シュミットのところにまで話が上って来たというわけだ。

 

「へえ」

 シュミットから話を聞いた考助は、嬉しそうな表情になった。

 自分が何も言っていないのに、以前いた世界と同じような考えが出て来たのが嬉しかったのである。

 その考助の表情から何かを察したのか、シュミットがさらに「塾」についての話を続けた。

「今の兵陸棋の熱を見る限りでは、十分に採算がとれるのではないかということで、ゴーサインが出せました」

 そもそも今のラゼクアマミヤでは、最低でも週に一度は休みを取るのが当たり前になってきている。

 それもこれも、考助が最初の頃に奴隷にさえきちんと休みを与えたことが始まりなのだ。

 そうした余暇に何をしているのかが、人々の間の噂話でも結構な割合を占めるようになっていた。

 大会が開けるほどに兵陸棋が流行っているのも、こうした余暇が出来たおかげでもある。

「そもそも兵陸棋が一般の者たちでも楽しめるように、定期的な休日を作ったコウスケ様のおかげですね」

 クラウンを当初から作って来たシュミットだからこそ、考助が休日を作るように提案したことも知っているのだ。

 

 そんなことを言って来たシュミットに、考助は困ったような表情を浮かべた。

 考助からしてみれば、ごく当たり前の提案をしただけだったので、まさかこのような結果が出るとは思っていなかったのだ。

「・・・・・・こんな結果になるとは思ってなかったけれどね」

 正直にそういった考助だったが、二人の話を傍で聞いていたフローリアが真面目な顔でいってきた。

「新しいものの発見や発明は、得てしてそういうものだろう?」

「その通りですね。初めて発明された魔道具が、発明者が意図したものと大きく変化して大々的に広まっていくことなど、良くあることです」

 フローリアの言葉に、シュミットが大きく頷きながら同意した。

「そうだな。コウスケの場合、謙遜は美徳と考えているようだが、場合によっては嫌味ととられるから気を付けた方が良いぞ? ここにはそんな捉え方をする者はいないだろうが」

 フローリアのその忠告に、考助は一瞬驚いたような顔になって小さく頷いた。

「・・・・・・そんなつもりはないんだけれどね」

 考助にしてみれば単に思っただけのことを言ったのだが、確かにこの世界の一般的な見方からすれば、謙遜と捉えられてもおかしくはない。

 勿論、この場にいるフローリアもシュミットも、考助がこういう人間だと分かっているので、今更どうこう言うつもりもない。

 ただ、下手をすればこうした振る舞いが元になって、不利益を被る可能性があるということを考助が分かればいい、という意味での忠告だった。

 考助の周囲にいる者たちは、考助のこうした言動に慣れているので塔の外に出たときはフォローをしたりしているが、いつでも誰かが傍に付いていられるわけでもない。

 もっとも考助の場合、コウヒやミツキが必ず傍にいるので、無用の心配といえるかもしれないが。

 

 しおらしくなった考助を見て微笑していたフローリアは、次いで若干懐疑的な視線をシュミットへと向けた。

「採算は取れると試算しているようだが、本当に大丈夫なのか?」

「さて、どうでしょうね?」

 シュミットの首を傾げての返答に、フローリアは目を瞬いた。

「おい・・・・・・?」

「少なくとも、きちんとした講師を招くことができるまでは、難しいと思いますよ?」

「なるほど。そういうことか」

「ええ。そういうことです」

 シュミットの説明に、フローリアも納得したように頷いている。

 

 そもそも「塾」を開くといっても、人が集まるかどうかは講師次第になる。

 その講師がどの程度の実力があるかは、結局その人が戦っているところを見ないと分かるはずもない。

 その実力を示してくれる絶好の機会が目の前に迫っているのだ。

 クラウンとしては、その機会を利用しない手はない。

 即ち、これからラゼクアマミヤが開こうとしている大会を利用して、講師のスカウトをしようとしているのである。

「大会を利用するのは構わんが、あまり強引な手を使うなよ?」

「それは勿論です」

 どんな分野でもそうだが、最先端を走っている人材がスカウトされるのは、ごく当たり前のことだ。

 だが、その手段が余りに強引だと、その本人はもとより周辺からの評判として組織に跳ね返ってくる。

 何事もほどほどが重要なのだ。

 

「大会の準備は順調なのですよね?」

 シュミットとしても当然のように情報は掴んでいるが、当事者から状況を直接聞けるときにはきちんと聞く。

 これは、シュミットが行商をやっていたときからの癖のようなものだった。

「ああ。といっても既に私の手からは離れているので、正確なことは分からないがな」

 大会に関しては、最初に話を持ち込んだのはフローリアだったが、今は完全にその手を離れている。

 かなりの大掛かりなイベントになってしまったので、全てを個人で把握するのが無理になってしまったという事情もある。

 今起きている騒ぎで動員されている警備兵までの数を入れれば、相当数の人間がこの大会の為に動いている。

 勿論、大会の為だけに動いているわけではない人数も多いのだが。

「それさえ聞ければ十分です。何より順調に行われてこその大会ですから」

「その通りだな」

 頷き合うフローリアとシュミットの二人に、考助も混ざって頷いた。

 

 史上初の兵陸棋の公的な大会が開かれるまで、関係者は忙しい日々を送ることになる。

 そして、大会は大いに盛り上がりを見せて、大成功の内に幕を閉じることになるのであった。

将棋教室とか囲碁教室のような場所を作る話でした。

いっそのこと協会のようなものを作ってもいいかと考えましたが、今はまだ止めておきました。

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