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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 塔のあれこれ(その13)
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(10)上級者(リクの冒険の時間4)

 シュレインとココロに見守られながら、リクのパーティは順当に目標のモンスターを倒した。

 普段を知っているリクからすれば、いつもよりも動きがわずかに固かった気がするが、それはシュレインに見られているという意識があったからだろう。

 実は固くなっていたのは、個人個人の動きではなく連携が遅くなっていたのだが、そこまではリクも気が付いていない。

 むしろ、シュレインの視線を意識することによって、きちんと考えた上で連携を取ろうとしたためだった。

 何も考えずに気の向くままに動けるのはそれはそれで素晴らしいのだが、それだけだと必ずどこかでほころびが出てくる。

 そうした意味では今回のシュレインの同行は、彼らにとって最適だったのだ。

 最初はそのことに気付かなかったリクだったが、二度三度と繰り返すことによって、ようやくそのことに気が付いた。

 動きが硬くなっているのはむしろ良いことなのだと理解したリクは、当面はこのまま行こうと決めるのであった。

 

 パーティのよる戦闘を五度ほど繰り返したころになって、シュレインが唐突に言い出した。

「ふむ。そろそろ吾が出てもいいかの?」

「え? いや、それは勿論いいけれど、突然どうかした?」

 何かあったのかと首を傾げるリクに、シュレインは首を左右に振った。

「いや、単に体を動かしたくなっただけじゃ。折角ここまで来ておるんだしの」

「ああ、そういうことなら、わかった。一応聞くけれど、手助けは要らないよね?」

「無論じゃ」

 リクの確認にあっさりと頷いたシュレインは、ココロをリクに任せて、無造作にモンスターの集団に近づいて行った。

 それを見ていたゲレオンが無言でリクを見たが、リクは首を左右に振った。

「取りあえず見ていればわかる。俺たちは、ココロの護衛だけをしていればいい」

 そのあとに、下手に手を出せば邪魔になる、という言葉も続けたかったリクだが、流石にこれ以上仲間たちのプライドを刺激してもしかないだろうと判断してそれを言うのはやめておいた。

「一応先に言っておくが、シュレイン母さんは例外だからな?」

「例外って・・・・・・、ガゼラン部門長みたいな?」

 カーリが以前に見たガゼランのパーティの戦いを思い出しながら聞いてきた。

 だが、リクはそれには首を左右に振った。

「いや、あのあとに見た狼の戦いを覚えているか?」

「勿論・・・・・・って、まさか?」

 あのときに受けた衝撃は、カーリにとっても忘れられない出来事だった。

 リクがわざわざそれを引き合いに出したということは、これから同じようなことが行われると考えてもいいということになる。

 即ち一方的な蹂躙戦である。

 

 シュレインはリクたちからの視線を感じながらも、若干の高揚感に笑みを浮かべていた。

 別にシュレインは戦闘狂というわけではないが、好きなように体を動かして発散できるのは久しぶりのことだった。

 ココロのことはリクに任せておけば安心ということもある。

 折角の機会なので、シュレインは思う存分暴れることにした。

 

 そのあとのシュレインのモンスター討伐は、まさしく蹂躙と呼ぶにふさわしい光景だった。

 五体ほどの狼系モンスターに囲まれたのだが、最初に向かって来た二匹をあっさりと切り捨て、残りの三匹はそれをみて怯んだ隙をついて終わらせた。

 狼が襲って来たと認識してから全部が片付くまでに、一分もかかっていないだろう。

「な、なによ、あれ!?」

 倒した狼から使える素材を取っているシュレインを見ながら、カーリが驚愕の声を出した。

 リクが周囲を見れば、他のメンバーも同じような表情をしている。

「まあ、待て。驚くのは分かるが、ちゃんと周囲に意識を向けていろよ? ・・・・・・また怒られるぞ?」

 リクがそう言うと、驚きでシュレインに意識を向けていたメンバーたちが、再び周囲の警戒を始めたことがわかった。

 それでも、意識のいくらかはシュレインの方にも向けている。

 それが本来のあり方なのだろうと、リクも同じようにシュレインを注目しつつ、周囲にも警戒の目を向けた。

 

 倒したモンスターの素材を集めたシュレインは、すぐにパーティの下へと戻って来た。

「・・・・・・なんじゃ、お主ら」

 自分を見る目が変化しているのを感じたシュレインは、訝し気な表情でメンバーを見渡した。

「あ~。シュレイン母さんが強すぎて、驚いているんだろ」

「強すぎじゃと? 吾がか?」

 そう言って首を傾げたシュレインに、リクはため息を吐いた。

「あの中にいればそう感じないかもしれないが、シュレイン母さんも一般的に見れば間違いなく強者だからな?」

「あ~、そういえば、そうだったかの」

 そういってから困った表情で右の頬をポリポリと掻く仕草を見せたシュレインだったが、すぐに首を左右に振って気持ちを切り替えた。

「まあ、吾の強さはどうでもいいじゃろ。それよりも、今度はちゃんと出来ていたじゃないか。フィールドにいるときは、そうやって常に意識を外に張り巡らせるのを忘れるな」

「「「「「「はい!」」」」」」

「うむ」

 パーティメンバーの返事に、シュレインは満足気に頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シュレインが強さを見せつけたあとは、依頼の素材を集めながらココロの訓練に励んだ。

 今回はココロが戦闘になれるという目的も含んでいる。

 そのため、リクのパーティが戦っている最中に、彼らの邪魔にならないようにココロが聖法を使えるようシュレインが指導したのだ。

 その甲斐あってか、最後にはちゃんとしたタイミングでモンスターに攻撃出来たり、怪我をしたメンバーを回復したりできるようになった。

「取りあえずは、こんなもんじゃろ」

「は、はい! ありがとうございます」

「よいよい。シルヴィアにも頼まれておったしの。あとは機会があれば混ざって慣れていくしかないかの。まあ、お主の場合は、中々その機会が無さそうじゃが」

 基本的にココロは、シルヴィアの後を継いでトワの神事を引き受けることになっている。

 そのため、自由に出来る時間などほとんどないのである。

 今回は「修行」という名目で、しかもシルヴィアのお墨付きをもらっての行動だった。

「そうですね」

「これ。あからさまに安堵した顔になるな」

 ココロにとって今回の遠征(?)は、最初の頃はともかくとして後半の戦闘続きはココロにとっては結構な負担になっていた。

 そのためついシュレインの言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべてしまっていた。

「はい。ごめんなさい」

 素直に頭を下げたココロに、シュレインは右手をポンと頭の上に置いて小さく笑った。

「まあ、その辺はシルヴィアと要相談じゃの」

「えっ!?」

「何を驚いておる。そもそも今回の話は、シルヴィアに頼まれたのが元になっておるんじゃぞ?」

「そ、そうでした」

 シュレインに言われてようやくそのことに思い至ったココロは、これから先のことを考えて表情を暗くした。

 正直、戦闘に直接付いて行くのは自分には合っていない、とココロが考えていることがまるわかりだった。

 

 今回のリクの冒険は、シュレインが付いてきたことによって色々なことが起こったが、予想以上の結果を得ることができた。

 特にメンバーが大事に至る前に、パーティの弱点を知ることが出来たのは非常に大きい。

 たとえ大きな事故が無く勝てている場合でも、上級者による確認は絶対に必須だと確信したリクであった。

これでシュレインの冒険は終わりです。

なんというか、今更? という話が多かったですが、今でないと書けないと思って書くことにしました。

これで、リクのパーティメンバーたちも色々と変わっていくはずです。

そしてココロも。

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