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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 サキュバス
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(19)報告

 本拠地で捕らえられた闇ギルドの頭は、逃げられない状態のまま王都の影たちの拠点へと移送された。

 途中、検問などに引っかからないようにするために、頭を乗せた馬車自体は町には入っていない。

 ただし、町に入っていないのは、馬車の中に転がされていた頭だけで、御者や見張り役は途中途中で交代している。

 そうして王都近くまで運んだあとは、秘密の地下道を通って拠点まで向かったというわけだ。

 頭をわざわざ王都まで運んだのは、突然いなくなったことにより組織が混乱することも狙っている。

 戦闘中に死んだのであれば、遺体は必ずその場所に証拠として残る。

 戦闘が起こった時点で頭が逃げたしたことは部下たちも分かっているので、その遺体が無いとなると逃げるのに成功したのでは、と思わせることができる。

 そうすれば時間を稼ぐことができるし、何より王都に連れ込むことによって頭から情報を得ることもできる。

 影たちにとって重要なのは、その情報であり既に頭のいなくなった組織のことなどほとんどどうでもいい。

 もし、頭以外にも他国と繋がる可能性がある者がいれば、それは同じようにつぶさなければならない。

 もっとも、この時点で頭が率いていた組織に手助けをしていた者は、手を引くように仕向けてあるので、影たちにとってはもはやほとんどの仕事は終わりと言って良いだろう。

 元の組織が残るかどうかは、自然淘汰に任せることになる。

 頭から情報を得ようとするのは、あくまでも念のためといったところだ。

 

 そうした雑事(?)は、スミット王国の影たちに任せたピーチたちはゆっくりと王都へと戻って来た。

 ピーチたちは行きと同じように、戻りも商隊の護衛という名目で王都へと入った。

 頭を引き渡した時点で、アマミヤの塔のサキュバスたちがする仕事はほとんど終わっている。

 後は様子を見るために何日か残らなければいけないが、その仕事に関してはピーチでなくとも他の者たちで十分である。

 なにかあったとしても転移門を使って里に戻り、そこから知らせればいいだけなのだ。

 というわけで、王都へと無事について予定していた宿に入ったピーチは、ここひと月ほど一緒に行動していたアイリスへ別れの挨拶を交わしていた。

 ピーチについていた他の者たちは、既に別行動となっている。

「では、今までありがとうございました~」

「いえ。こちらこそ勉強になりました」

 如何にもといった挨拶だが、周囲で聞いているものたちにとっては、まさか影たちの挨拶だとは誰も思っていない。

 無事に仕事が終わればそれで終わりという世界なので、わざわざ相手の長に挨拶することもないのだ。

 むしろピーチに会いたがっている可能性はあるが、そこはそれ、わざわざ余計な情報を与えるような真似をするつもりはピーチにはない。

 それに、そのつもりがあるのなら、向こうから何か言って来る。

 そんな両者の思惑はともかくとして、ピーチとアイリスは、表面上は和やかに別れることとなった。

 そしてピーチとミツキは、そのまままっすぐ考助が待つクラウン支部へと向かうのであった。

 

 その二人を見送ったアイリスは、道の角を折れて姿が見えなくなってから大きくため息を吐いた。

 これまでずっと二人の近くでその働きを見て来たアイリスにとっては、色々な意味で非常に意義深い期間となった。

 少なくとも見た目の上では自分よりも上には見えない二人が、とてつもない実力を持っていることだけは分かった。

 さらに付け加えるなら、その実力の底さえ見ることができなかったのだ。

 既に子供が出来て、一線から退いている身とはいえ、思う所が出来るのは当然といえるだろう。

 胸にもやもやとしたものを抱えたままその場に立っていたアイリスだったが、突然後ろから肩をたたかれて思わず驚きの声を上げてしまった。

「きゃっ!?」

「おっとすまん。そんなに驚くようなことだったか?」

 非常に驚いた表情で振り返ったアイリスを見て、逆に驚いたように一人の男が立っていた。

「あなた・・・・・・」

 その男は、同じ一族のアイリスの夫だった。

 今日あたりに戻ってくることは伝えてあったので、帰ってくるのを待っていたのだ。

 何とも言えない複雑な表情になっているアイリスを見て、夫は困ったような顔になった。

「まあ何だ。色々あったようだな。その辺の話はうちに戻ってゆっくり聞こうか」

「ええ。そうね」

 勿論、仕事が仕事だけに言えることといえないことはある。

 その辺のことは夫もよくわかっているのか、当り障りのない言い方しかしていない。

 傍から見れば、熱々の美男美女カップルの二人は、一部の者たちに舌打ちをされながら自分たちの住まいへと足を運ぶのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 アイリスと別れたピーチとミツキは、考助たちと合流したあとで、宿へと入った。

 このまま真っ直ぐにアマミヤの塔へと戻っても良かったのだが、折角なので一晩首都に泊まることにしたのである。

「お疲れ様」

 取った部屋に入るなり、考助がピーチとミツキにねぎらいの言葉を掛けた。

「はい~。ただいま戻りました」

「ありがとう」

 声をかけられたピーチとミツキがそれぞれに考助へと返事を返す。

 そのあとは、今回起こったことを当り障りのない範囲でピーチが考助に話した。

 部屋の中に入っているとはいえ、聞こうと思えばドアの前に立って聞くことができる。

 勿論、そんな不埒な輩はコウヒやミツキに即見つかるのだが、わざわざそんなことの為に気を張り続けているのも無駄だった。

 

 一通りの話を聞き終えた考助は、ふと疑問に思って首を傾げた。

「なんか話を聞く限りでは、ずいぶんとあっさり終わった気がするけれど、本当に手助けって必要だったのかな?」

 この考助の言葉には、ピーチもミツキも苦笑を返した。

 簡単にしか話していないせいもあるが、考助はそもそもの前提を間違っていた。

「確かに戦闘だけで考えれば、たくさんの人数は動いていませんが、そのための事前準備を考えると、その何倍ものひとが動いているのですよ~」

 表に見える実戦部隊としては、ピーチたちのような者たちがいるのだが、それ以外にも相手の戦力を調べたりそもそも戦闘の準備を整えたりと、今回の件は多くの人が動いている。

 アマミヤの塔のサキュバスたちは、ピーチたちを含めても十人程度しか出していないが、スミット王国側のサキュバスたちはその何倍も動いていると考えるのが妥当だった。

 そこから考えれば、今回の件でスミット王国の影たちが、余所の応援を必要としたのは妥当といえるだろう。

 もっとも、ピーチも彼らの組織が何人の同胞を抱えているかまでは把握していない。

 更に付け加えれば、別の意味で考助の疑問も間違っていない。

「私たちの能力を調べるという意味合いがあったのも間違いはないでしょうけれどね~」

「それって大丈夫なの?」

「う~ん。大丈夫じゃないですが、それはお互い様ですね~。今回の件でこちら側も相手の組織力を大体判断できていますし」

 今回は互いに連絡要員として付いていたので、それぞれの力は十分に確認することが出来ている。

 そういう状態になることは、事前に分かった上での共闘だったので、今更そのことについてどうこう言うつもりはないのであった。

 

 ある程度今回の件を話し終えたところで、ミツキがピーチへと目配せをした。

 それを受けてピーチはコクンと頷いた。

 その二人の様子を見て首を傾げた考助に、ピーチが若干緊張した面持ちで話し始めた。

「え~と、私からコウスケさんに報告があります」

「報告?」

「はい」

 ピーチは一つ頷いてから右手を自分のお腹の上に添えた。

 その仕草を見て何となく次に来る言葉が分かった考助は、じっとピーチの言葉を待った。

 

「赤ちゃん、できたみたいです」

これで第四章は終わりになります。

ちなみに、今話の終わりはコピペが切れたわけでも、書き忘れたわけでもありません。わざとですw

その後の光景(考助の反応w)は、読者の皆様それぞれのご想像にお任せします。

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