(12)支部前での騒ぎ
その日の素材集めから王都へと戻った考助は、クラウン支部の前に人だかりが出来ているのを遠くから確認した。
スミット王国にあるクラウン支部の建物は、セントラル大陸内にある他の支部に倣って、門の外に作られている。
そこに人だかりが出来ていれば、否が応にも目立つのだ。
だからこそ、コウヒほどに目が良いというわけでもない考助にもすぐにその状況は気付いた。
「何だろう、あれ?」
考助はそう言いながら首を傾げた。
「騒ぎが起こっているようですね。二つに分かれて対立しているようですが」
「二つに分かれて?」
考助は、意味が分からずに目を丸くした。
クラウンのメンバーであれば、わざわざ建物の外で騒ぎを起こす必要はない。
スペースには限界があるので、百人を超えるような人数になれば問題だが、流石に考助が見た感じでもそこまでの人数が集まっているようには見えない。
中で騒ぎを起こして問題になった場合強制退会もあり得るためわざわざ外に出てことを起こしている可能性もある。
ただ、今朝方考助が依頼を確認しに建物に入った時には、そのような兆候は全くなかった。
勿論、考助が出たあとに何かが起こった可能性もあるので、なんとも言えないのだが。
近づくにつれて状況が分かって来たのか、コウヒが今の状態を実況した。
「転移門の扱いについて文句を言っている集団をクラウンのメンバーが抑えているようですね」
「転移門?」
「なんでも、クラウンメンバーが金銭を払わずに自由に使っているのが不公平だとか」
「なんだそりゃ」
ただの言い掛かりに近い言い分に、考助は呆れたような表情になった。
そもそも転移門の利用料は、ラゼクアマミヤが徴収しているものであって、クラウンは払っている側になる。
その支払い料金は、冒険者であれば、依頼の部分から少しずつ取っている名目になっているので、全く払っていないというわけではない。
冒険者以外には商人も頻繁に転移門を使うが、彼らは彼らで別の徴取方法になっている。
ラゼクアマミヤが出来る以前のクラウンが全てを取り仕切っていた時であれば、そういった意見も全く的外れとはいえない。
だが、ラゼクアマミヤが出来て、転移門の管理を完全に国に一任するようになってからは、完全に的外れといえる。
「無知なのか、単にいちゃもんを付けたいだけなのか。意味が分からないね」
「そうですね」
考助の言葉にコウヒも頷いた。
スミット王国の転移門は、かなり前から設置されているとはいえ、ラゼクアマミヤ側と自由に出入りできるようになったのはここ五年くらいのことだ。
とはいえ、転移門を使うときのルールについては、徹底されているので今更といえば今更のことになる。
なぜ今になってこんな騒ぎが起きているのか分からずに、考助とコウヒは首を傾げながら現場へと近づいて行った。
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建物に近づくにつれて、考助にも詳細が分かって来た。
最初はクラウンに属さない冒険者が文句を付けてきて、それに対して職員が説明をしていた。
だが、それに納得しない冒険者が文句を言っている間に、他の冒険者が加わって相手側が大所帯になって来た。
それでも職員が頑張って説明をしていたのだが、最初から話を聞く気がない冒険者たちが、半分言い掛かりのようなことをいう。
必至に対応する職員を見かねたクラウンに属する冒険者がこの騒ぎに参戦。
当初の職員と冒険者のやり取りはどこへ行ったのか、既に冒険者同士の対立になってしまっている。
スミット王国の王都では、クラウンに属していない冒険者と属している冒険者の間では、明確に差があるわけではない。
ただし、支部にある売買カウンターを使って自由に素材を持ち込める分、多少の稼ぎの差が出ていた。
厳密に言えば、この辺りで取れるモンスターの素材などたかが知れているため、精々が一食の食事が一品増えたとかその程度の差なのだが、隣の芝は青く見えるものだ。
日頃から「クラウンの奴らは・・・・・・」と出ていた不満が、ここにきて爆発したという事だろう。
もっとも、クラウン側からすれば何を言っているんだということになる。
もし現状の待遇に不満があるのであれば、クラウンに入ればいいだけだ。
選別をして特定の人物だけを入れているわけではないのだから、それこそ言い掛かりでしかないのである。
「なるほどね」
建物の中に入って職員から事情を聴いた考助は、そう言ってため息をついた。
中には他の冒険者がいて、全てのクラウンのメンバーが参加しているわけではない。
とはいえ、もし反(?)クラウン側のメンバーが増えれば、彼らも参加するのは雰囲気から理解できた。
外の状況に困っているのは職員も同じようで、何とか収めようとしているのはわかった。
ただ、平の職員では、どうしても思い切った対応が取れないのは、どの世界でも同じようだった。
「幹部の人たちはいないの?」
こういう時にこそ出来る対応があるのだが、それは幹部の人間でないと出来ない。
この支部では支部長になるのだが、考助と話をしていた職員は首を左右に振った。
「いまは、どなたもこちらにはいらっしゃいません」
具体的にどこに行ったとは言わないのは、さすがの対応だった。
やたらと個人情報が隠される社会と違って、この世界では教育がきちんとしていないと、上の人間の居場所を漏らすなんてことはごく普通に行われている。
職員の答えを聞いた考助は、とあることを思い出した。
「ああ、そうか。今日は定例会議の日か」
周りに聞こえないようにポツリと呟いたその言葉は、隣にいたコウヒと目の前にいた職員にはしっかりと聞こえていた。
呟きを拾った職員は、少しだけ驚いたような顔になっている。
定例会議というのは、支部長以上のクラスの幹部が本部に集まって行っている会議の事だ。
転移門という一瞬で移動できる移動手段があるからこそできるクラウンならではの会議だった。
通常の移動手段が馬車か船になるこの世界では、大きな組織になればなるほど、幹部クラスの人間が集まって話し合いをすることはほとんどない。
通常の冒険者であれば、支部長クラスの幹部が毎月のように会議を行っていることなど思いつきもしない。
だからこそ、職員が驚いた表情を見せたのだ。
その職員は、目の前にいる人物が、定例会議の存在を知りうる立場にある冒険者であると察したのだ。
とはいっても、職員であればだれでも知っているような情報だ。
職員が考助に何かを頼むとか、頼りにするといったことはなく、話はそこで終わりであった。
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職員と別れた考助たちは、人目のつかない場所へと移動した。
「塔に戻るのですか?」
その行動を見て考助がしようとしていることを察したコウヒがそう聞いてきた。
考助は百合之神社の能力を使って塔へと戻ろうとしているのだ。
「うん。あの騒ぎ、ちょっとなにかが引っかかってね。すぐに対応しないとまずい気がする」
「そうですか」
考助のたった一言で、コウヒは納得したように頷いた。
実際にはただの考助の勘でしかないのだが、コウヒにとっては現人神云々を抜かしてもその言葉だけで十分に塔に戻る理由になる。
具体的な根拠など、コウヒにとってはどうでもいいことなのである。
「ナナもおいで」
コウヒが頷くのを見て考助がそう言うと、傍を離れないように一緒に付いてきていたナナが寄って来た。
きちんと話が分かっていたので、これからすることを理解しているのだ。
ナナが来たことを確認した考助は、そのすぐ後に能力を使ってアマミヤの塔にある百合之神社へと転移した。
しっかりと周囲を確認してから行われたその行為は、誰にも見られることは無かったのであった。
何度も書いていますが、クラウンメンバーじゃないほうの言い分は、どうみても言い掛かりでしかありませんw
それでも我を通そうとするのは、少しでもいい条件で通ろうとしているのか、それとも別の目的があるのか・・・・・・。
それについては次回! ですw(間に合うかな)




