(11)王族の闇組織
出していないはずの『命令』によって勝手に計画が進み、二か所の手駒が集まったところでの襲撃。それに合わせた、各拠点の破壊。
王都で起こったことを端的にまとめるとこういうことになる。
情報屋からの報告書を読んだ闇ギルドの頭は、その紙を静かに机の上に置いたあと、ギロリと視線を配下の者へと向けた。
「これは、どういうことだ?」
この闇ギルドの場合、王都に限らず、ことを起こす時には必ず頭からの命令が必須となる。
そのために細かい取り決めを定めた上で命令を下している。
王都の拠点があっさりと落ちたのは、その『命令』が利用されたからに他ならない。
無防備に近い状態で戦力が集まって叩かれれば、潰されるのも道理だった。
だが、頭が解せないのは、その『命令』を下す方法が、敵に知られていたことだ。
頭に睨まれた配下の一人が、仕方なしに口を開いた。
「王の影が動き出しているという話もあります」
「そんなことは分かっている!」
スミット王国内のその筋で働いている者たちにとっては、王家が裏の仕事を任せる部隊を使っていることは有名な話だった。
その部隊が、一流の闇ギルドに引けを取らないという事も、だ。
そんな組織であれば、自分たちが使っている『命令』の方法を探ることも出来るかもしれない。
だが、頭にとって分からないことが一つある。
「・・・・・・何故今になって出て来た?」
頭のその問いにすぐに答えられるものは、誰もいなかった。
そもそも頭が動かしている闇ギルドは、かなり前から活動して来た。
王都に拠点を置いたのも昨日今日の話ではない。
王家の持つ部隊は、これまでそれに対して何も動きを見せていなかったのだ。
油断といえばそれまでなのだが、それでもなぜこのタイミングで動き始めたのかがさっぱりわからない。
「もしかすると・・・・・・」
配下の一人がポツリとそう言ったの耳にした頭が、眉をひそめてそちらを見た。
「何だ?」
「いや、根も葉もない噂でして・・・・・・」
「構わないから言ってみろ」
「はあ。何でも俺らの組織が、国外の意思で動いているという噂が出てるんでさ。それで、奴らが動いたということもあり得るかと思いましてね」
「・・・・・・何だと?」
不快そうにさらに眉を顰めた頭に、その話をした部下は慌ててさらに言葉を繰り出した。
「いや、あくまでも噂ですって! ただ、奴らが他の闇ギルドを潰す理由の一つに、他国の手が入ると駄目、というのがあったはずです」
配下の者も確証があって言っているわけではない。
王家の持つ裏の部隊が、闇ギルドを潰す理由としてその理由があるため、昔からスミット王国の闇ギルドは、決して他国と手を結ぶようなことはしてこなかったのだ。
噂の真偽はともかくとして、歴史の中で数多く存在した闇ギルドが、他国と手を結ぶことをしてこなかったのは、そのためだった。
そんな部下の話を聞きながら、頭は内心では激しく動揺していた。
この場にいる部下たちは知らないが、頭が他国の援助を受けて動いていることは本当の事だった。
それについては、厳しく情報を管理しているので、頭を含めて三人しか知らない。
残りの二人は、今はここにはいないが、事の重要性を知っているので、外に漏らすはずはないと確信している。
頭にしてみれば、まさかそんなはずは、というのが今の心境だった。
もっともこれは、頭の認識の甘さが根底にある。
そもそも底辺の闇ギルドであっても、人が集まれば金も動くようになる。
人から直接情報を得ることが出来なくても、そうした金や物の動きを見れば、ある程度の事は分かるのだ。
問題は、それらの情報を得られる能力があるかどうかなのだ。
王族の持つ組織は、戦闘よりもむしろそういった情報を得ることに長けているのである。
残念ながら頭は、影たちがそうした能力を持っていることは知らなかった。
頭の持つ認識不足と相手の能力を知らなかったことが、今回の結果を引き起こしたといえる。
部下たちが、「そんなことはないない」などと言っているのを聞きながら、頭はそれを止めた。
これ以上、この話題を続けると組織自体が危うくなると感じたのだ。
だからこそ、慌てて話題を変えることにした。
「根も葉もない噂のことなどどうでもいい。それよりもその組織が動いているのは確かなのか?」
「さて、どうでしょうねえ。奴らに関しては、昔から存在しているとだけ言われていて、実態はさっぱりですからねえ」
まるで当てにならない言葉に、頭はため息を吐いた。
「・・・・・・そうか。もう、それはいい。それで? ガボントはどうなっている?」
話題を変えた頭に、特に疑問に思わなかったのか、ひとりが進み出てきて苦い顔をした。
「どうもこうもないでさあ。あそこはしばらく使い物になりません。完全に焼き払われているようです」
「そうか・・・・・・」
そう呟いた頭は、小さく頭を左右に振った。
王都の事もそうだが、ガボント山の状況も頭の痛い問題だった。
あくまでも組織の資金源の一つでしかないが、それでもかなり美味しい場所だったことは確かなのだ。
人は送り込めばどうにかなるとしても、焼き払われた建物自体は立て直さなければならない。
ただし、立て直すにしても金がかかるのだ。
もう一つ厄介なのが、新しい人材を送り込んだとしても、今までの伝手が使えるかどうか分からないことだ。
ガボント山の拠点が、曲がりなりにも軍に討伐されずに残っていたのは、組織の人脈があったからだ。
だが、拠点が襲撃されたことによって、そうした人脈さえも断たれてしまった。
そうした人脈をまた一から構築するとなると、時間がかかるのだ。
それらの事から、これまで進めて来た計画が遅れることは必至になっている。
そこまで考えた頭は、ふと最悪のことを考えてしまった。
「お、おい! イチイとニルニはどうなっている!?」
いきなり顔を青褪めさせて、そんなことを言い出した頭に、部下たちは戸惑ったように顔を見合わせた。
「いや、いつも通りの報告しか来ていないぞ?」
「すぐに使いを・・・・・・いや、お前たちの誰かが直接確認しにいけ! 今すぐにだ!」
「か、頭? 突然どうしたんだ?」
未だに状況が分かっていないのか、顔を見合わせている部下たちに、頭は大声で怒鳴り散らした。
「馬鹿者! 『命令』の方法が筒抜けになるような相手だぞ!? あの二つの事も当然知られていると思った方が良いだろうが!」
イチイもニルニも頭の闇ギルドで通称している場所の名前だ。
どちらも組織を維持するためには、重要な拠点なのだ。
その言葉に、ようやく頭が言いたいことがわかったのか、慌てたような顔になった。
「まさか、もう潰されているとか!?」
「それが分からんから、確認して来いと言っているんだ! グダグダ言っていないでさっさと行ってこい! もし無事なら警戒を厳重にするように伝えて来い! あと、今後の伝令は直接お前たちの誰かが行くことも伝えろ」
「か、頭! それでは、時間が・・・・・・」
「分かってるが、それが一番確実だろうが! 少しは頭を使え!」
連絡手段を新しい方法に変えたとしても、いつ相手に見破られるか分かった者ではない。
王都の拠点の連絡方法をあっさりと見破った組織なら、それくらいの事は出来てもおかしくはないのだ。
それならば、直接顔見知りの人材を送ったほうが確実だった。
手紙のやり取りをするよりも時間がかかるという欠点があるが、こればかりはどうしようもない。
自分の指示によって急に慌ただしく動き始めた部下を見ながら、頭はイチイとニルニが無事であることを願うのであった。
相手側から見たスミット王国王族のサキュバスたちに付いてでした。
そして、次の目標を察した頭が慌ただしく指示を出しました。
果たして、二つの拠点はどうなっているのでしょうか?
(なんとなく煽ってみましたw)




