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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 サキュバス
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(9)違和感

 ピーチたちが、無事に王都にある闇ギルドの拠点を壊滅させた報は、すぐにガボント山の傍にあるスミット王国の影たちのキャンプに知らされた。

 敵対している闇ギルドの仲間に見つからないように作られているそのキャンプには、影の中でも実力者たちが揃っている。

 これからガボント山にある相手の拠点の一つを潰すために集められた精鋭たちだった。

 本来であれば、そこまでの精鋭を集めなくとも制圧は出来るだろうと思われているが、絶対に負けられない戦いになるために万全の状態で臨むということの表れだった。

 王都からの知らせを受けた影たちは、早速行動を開始した。

 山にある相手の拠点を襲撃するのは、夜になってからと決めてある。

 時間はまだ十分にあるため、ゆっくりとキャンプを片づけて、その間に拠点の状況も確認しておく。

 こうして、着々と制圧に向けての準備は進んでいった。

 

 スミット王国の影たちが、王都の闇ギルドを潰すのと並行してガボント山の拠点を狙ったのは、相手の資金源を断つためだけではない。

 ガボント山にある街道を狙われると、その先にある他国への交通が妨げられてしまうのだ。

 しかも、その国は一つだけではなく、複数にまたがっている。

 隣国だけではなく、更にその先にある国まで含めると、スミット王国の経済にとってはかなり大きな影響を与えるのである。

 だからこそ、相手側も賄賂なりこれまであった人脈を使ってこのポイントを押えていた。

 勿論健全な経済活動という意味では、そうした闇ギルドの活動は見逃せないのだが、例え賄賂という形でも国内で金が回っている分には放っておいても良かった。

 少なくとも影たちがわざわざ出張る必要はないのだ。

 だが、その組織が、他国の息がかかっているとなると、話が変わってくる。

 そこまでいくと、国家としても見過ごせないのだ。

 ただ、その組織を潰すために軍が動くと、必ず相手側に察知されてしまう。

 確実につぶすため、影たちが動くということになったのである。

 

 夜の闇に沈んだ頃になって、計画が動き始めた。

 まず行なわれるのは、拠点の建物に火を放つことだった。

 王都の中であれば、火を使うなんてことは危なくて出来ないのだが、ここは人里離れた山の中だ。

 人的被害という意味では、ほとんど影響がないため火攻ひぜめが計画されたのだ。

 まさかこのタイミングでの襲撃があるとは考えていなかったのか、あるいはもともとそうだったのかは不明だが、火攻めによって相手はかなりの混乱をきたしていた。

 リーダーらしき男が、大声で落ち着くように指示をしていたが、全くと言って良い程効果を成していない。

 そんな中で、影たちは次々と闇ギルドの組織員を沈めていった。

 容赦することなどは、初めから考えていない。

 この拠点にいるのは、五十人程度の男たちだ。

 火攻めの段階で、三十人以上はあっさりと片付けることが出来たが、そこまで行けばリーダーの奮闘が役に立ったのか、組織員は落ち着きを取り戻して各々武器を手に取って影たちに向かっていた。

 

 今回の影たちのリーダーは、火攻めの効果を確認したあとに、相手側のリーダーの元へと向かった。

 流石にリーダーを張っているだけあって、こちらの不意打ちはかろうじて防いでいた。

 ただ、組織のメンバーとはいえ、しょせんは山賊もどきのリーダーだ。

 影たちのリーダーになれる実力者には敵わなかった。

「ちっ! く、くそ・・・・・・お、おい! おまえら・・・・・・!?」

 周囲の仲間に手助けを頼もうとしたが、残念ながらそれは果たせなかった。

 その時には、既に多くの仲間が倒されて、他の者たちも自分たちのことで手一杯だったのだ。

「ち、畜生!」

 状況を理解したリーダーは、盛大に悪態をついたが、いくらわめこうと意味は無かった。

 リーダーに襲いかった影は、数合ほど剣を合わせた後に、あっさりとそのリーダーを沈めた。

 そして、そのあとは、他の仲間を助けるために動いたのであった。

 

 結局、ガボント山の拠点を片づけるのもそう時間はかからなかった。

 余りにあっさりしすぎて、影たちのリーダーも拍子抜けしたほどだった。

「・・・・・・少し過大評価しすぎていたか」

 既に火の勢いが収まりつつある光景を見ながら言ったリーダーの言葉は、他の誰の耳にも入らなかったのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ガボント山の拠点の破壊は、すぐにピーチの下へと届けられた。

 アイリスからその報告を受け取ったピーチは、笑顔を見せた。

「そうですか~。良かったです。これで次の計画も私が・・・・・・」

「駄目よ」

 笑顔のまま続けようとしたピーチを、斜め後ろの場所に立っていたミツキが遮った。

「せめて最後まで言わせて・・・・・・」

「駄目よ」

 同じことを繰り返すミツキに、ピーチはガクリと首を落とした。

 二人の周囲にいた他のサキュバスたちは、表には出さなかったが内心で首を傾げている。

 

 そんな彼らの様子を見ていたアイリスも内心で首を傾げていた。

 アイリスも裏の組織に所属している一員だ。

 彼らが表情に出していなくとも、戸惑っている様子なのは見てわかる。

 そうした能力が高いからこそ、ピーチへの連絡兼監視員としてあてがわれているのである。

 その上で、先日のピーチの相手のリーダーに対する攻撃は、アイリスから見ても素晴らしかった。

 なぜ途中でミツキと交代したのか、今になっても分からない。

 勿論、ミツキの動きも凄まじいの一言だったのだが、敢えて交代する必要は感じられなかった。

 もともとミツキが参加する予定でなかったことからも、二人の交代は予定外だったことは分かる。

 今のやり取りでも何かがあったのは間違いない。

 ピーチの仲間たちも不思議に思っているので、二人にしか分からない何かがあったのだろうとアイリスは推測していた。

 

 そんな周囲の様子を感じたのか、ピーチが苦笑しながら言った。

「そんなに不思議がらないでください。隠すようなことではないですよ~」

「そうね。こんな状況でなければ、むしろ嬉しい話だものね」

 ピーチの言葉に、ミツキも真顔で頷いた。

「と、いいますと?」

 隠すことではないと言ったことから、むしろ話すつもりがあるのだと感じたアイリスが、問いかけた。

 場合によっては、計画の変更も視野に入れないといけないため、それも当然の役目だった。

「あなただったら分かるんじゃないかしら? 裏の戦闘技術を磨いた者にとっては、体の違和感はすぐに分かるもの」

「体の違和感・・・・・・という事は!?」

 ミツキの言葉に、アイリスはハッとした表情をミツキへと向けた。

「恐らく想像している通りだと思いますよ~。でも、ほんとかどうかはまだわからないのですよね」

「それは仕方ないわ。戦うまでは、全く自覚症状は無かったのでしょう?」

「そうですね~」

 ピーチはコクリと頷きながら、お腹に手を当てた。

 

 ピーチのその仕草を見て、ようやく周囲にいた他の男たちも、三人が何のことを言っているのか理解した。

 一瞬ザワリとして、一部の者たちが「長へ報告!」などと慌てだした。

 それを見たピーチが困ったような顔になり、ミツキもストップをかけた。

「待ちなさい。まだ報告するには早いわ。そもそも体の動きに違和感があるというだけで、本当に子供が出来たかどうかはまだわからないわ」

「そうですね。しっかりとした症状が出ないと、まだ断定はできないと思います」

 はっきりとそう言ったアイリスに、ピーチは首を傾げた。

「随分とお詳しいですが、経験者ですか~?」

「はい。今のところ一人娘がいます。今回は状況が状況ですので私も駆り出されていますが、本来は引退した身です」

「なるほど~」

 ピーチとアイリスの会話で、浮ついていた雰囲気が少しだけましになった。

 ピーチが今感じている違和感が、本当に妊娠の為なのか、きちんとした結果が出るまではもう少し時間がかかる。

 それは、ピーチ本人を含めたミツキ、アイリスの三人の意見だった。

「だからといって、油断して激しく動き回るのは無しよ!」

 ミツキのその言葉に、ピーチを除く、その場にいた全員が大きく頷くのであった。

というわけで、ピーチも妊娠発覚(?)です。

本人たちはまだまだ疑問形ですが、ここまで書いた以上、実は違ったという落ちはありませんw

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