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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 サキュバス
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(6)急展開?

「うーん。いい天気だなあ。まさしく採取日和」

「クーン?」

 考助がナナの首筋をモフリながらそんなことを言うと、気持ちよさそうにモフられていたナナは首を小さく傾けた。

 考助とナナの傍では、コウヒが辺りを伺っていた。

 今二人と一匹は、スミット王国の王都の西側にある草原にいる。

 王子から依頼のあったこの辺りで取れる薬草を取ったあとに、一休みを挟んでいるところだ。

 薬草などの採取に関しては、ナナがいればほぼ見逃すことはない。

 サンプルがあれば、匂いだけで探し出してくれるので、とても便利なのである。

 何も知らない者たちがナナの正体を知れば、神獣をそんなことに使うなと頭を抱えるだろう。

 もっとも、考助からの指示を受けて喜んで駆け回るナナは、どう見ても従順な犬にしか見ない。

 考助に気持ちよさそうに撫でられているナナが神獣だと見抜ける者は、ほとんどいないだろう。

 街の西側で取るべきものを午前中で採取し終えた考助は、別の方角に行くわけでもなく、のんびりとした時間を過ごしていた。

 王子から依頼のあったものは、全て近場で取れるものだが、街の四つの方向すべてに散らばっている。

 一つの方角につき、一日ずつ採取を行っていけば、四日で終わる計算になる。

 依頼の期日ももう少し先になっているので、全く問題ない。

 普通この辺りで採取を行う冒険者であれば二・三日かけて行なう作業を、考助たちは半日で終わらせてしまっている。

 採取依頼を受けて必死に素材を探し回っている新人冒険者からすれば、目を剥くような事実だった。

 

 そよ風を感じながら横たわっていた考助は、ポツリとその言葉を口に出した。

「ミツキとピーチは大丈夫かな?」

「問題ないでしょう。今回はあくまでも偵察ですし。何かあったとしてもミツキがいます」

 呟きを拾ったコウヒが、考助を安心させるように答えた。

 他の人間がいるときは話に入ることが少ないコウヒだが、無口というわけではない。

「まあ、そうなんだけれどねー」

 空を見上げながら、考助はのんびりと答えた。

 考助もコウヒも、話のネタにしているだけで、本気で心配しているわけではない。

 ピーチも勿論そうだが、ミツキがもし無理だと判断すれば、どんな形でも連絡は来るだろう。

 もっとも、ミツキはサキュバスたちの活動に手を貸しているわけではない。

 あくまでも考助に頼まれてピーチの護衛に付いているだけだ。

 元々護衛など必要ないくらい強いピーチがいて、更にミツキが無理だと判断するような事態が発生するとは考えづらい。

 だからこそ考助もコウヒものんびりとした雰囲気で話をしているのだ。

「ところで、いつまでこちらにいらっしゃいますか?」

「んー。どうしようか。別に街に戻ってもいいんだけれど、することないんだよね」

 採取した素材をクラウンの窓口に提出すれば、あとは街の屋台を冷やかすか宿に戻ってのんびりするくらいしかすることが無い。

 それであれば、このままでいてもあまり変わらない。

 結局二人は、夕暮れ時に間にあう時間まで、その場でのんびりと過ごすのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 男はその報告を聞いて、若干眉を顰めた。

「・・・・・・なんだと?」

 その返答に、報告者が同じことを繰り返す。

「首都にある拠点の一つが潰されました。建物そのものもそうですが、人的被害が多く、立て直しには時間がかかります」

「・・・・・・拠点の一つくらい潰されても問題ないだろう?」

 首都には、拠点をいくつか用意してある。

 人さえ無事であれば、立て直しはすぐに出来るはずだ。

 人的被害が多いといっても、一つの拠点を守っている人間などさほど多くはない。

 別の場所から送り込めば、すぐに立て直しは出来るはずだ。

 そう考えての言葉だったが、報告者は首を左右に振った。

「壊された建物は一つですが、人的被害は首都にいた全てのメンバーの九割を超えています。首都での『計画』を続けるのであれば、周辺から送り込まなければなりません。何より、幹部クラスが全滅しております。そのクラスの人材の派遣も必要です」

 そのあり得ない報告に、男は耳を疑った。

「お前は・・・・・・何を言っている? あり得ないだろう!」

「残念ながら事実です。首都は事実上壊滅状態です」

「ば・・・・・・馬鹿な! 一体、何があったんだ!?」

 今までは、順調過ぎるくらい順調に上手くいっていた。

 はっきりいえば、拍子抜けするくらいに裏組織を纏めることが出来ていたのだ。

 最初の頃は抵抗する闇ギルドもあったが、高い戦闘力と資金力で次々に潰していき、最近ではそれを知った組織が抵抗もなくこちらの組織に下っていた。

 首都さえ落としてしまえば、あとは問題なく計画を進めることができるという所まで来ていたのだ。

 それが、ものの見事に崩れ去ったということになる。

 

 思ってもみなかった報告に取り乱した男だが、わずかに時間を置いてから冷静さを取り戻した。

「一体何に、どこの闇ギルドにやられたんだ?」

「・・・・・・具体的にはまだつかめていません」

 その端的な報告に、男は小さく舌打ちをした。

「ちっ! 使えないな。情報屋の連中も駄目なのか?」

「この件に関しては、どの情報屋も許容額を超えて要求してくるため、必要な情報が得られません」

 情報屋というのは、どんな情報でも金さえ払えば教えてくれるという、一種の便利屋だ。

 ただ、当然情報を得るには、金銭が必要になる。

 闇ギルドを次々と吸収していっている組織だが、情報屋には手を出していない。

 彼らは、独自のネットワークを持っており、もし手を出せば他の情報屋から情報を得ることが一切できなくなる。

 例え数人の情報屋を強引に仲間に入れたとしても、他の情報屋からの情報が得られなくなれば、それは情報屋として意味が無くなってしまう。

 それは、情報屋は単独で活動しているように見えていて、実はそれぞれのネットワークが繋がって、多くの情報を仕入れているためだ。

 だからこそ、『計画』を立てたときにも情報屋に手を出すことは一切禁止していた。

 裏の世界にも一定のルールというのがあるのだ。

 

「・・・・・・金さえ出せば、情報は手に入るんだな?」

「どの程度の精度の情報が手に入るかは分かりませんが、今以上のものが入るのは間違いありません」

 それを聞いた男は、決断した。

 確かに情報を得るのに資金が失われるのは痛いが、今は何より情報が欲しい。

 まずは何があったか把握しないことには、対処のしようがない。

 そもそも計画自体は前倒しで進んでいたので、ここで多少の抵抗があったとしても問題はない。

 ここで正確な情報を得て対処さえできれば、王都の闇ギルドを落とすのも問題はない。


 そんなことを考えていた男だったが、幸か不幸か金は使わずに済んだ。

 さらに予想を超えた情報が舞い込んできたのだ。

 普段ではありえない状態で乱暴に開け放たれたドアから部下の一人が慌てた様子で入ってきた。

 不作法を注意しようとした男だったが、その部下の言葉にそんなことは一瞬にして消え去った。

「か、頭、てーへんだ! ガボント山にある拠点が落とされた!」

「な、何だと!?」

 ガボント山自体は、何の変哲もない山の一つだ。

 ただし、彼らにとっては、峠を通る荷馬車を襲うための拠点として、重要な役目をはたしていた。

 これまでは、騎士団が出てこないよう、甘い汁を吸わせたり、さほど大きな被害が出ないように上手く運営して、資金源の一つとないっていたのだ。

「一体、どこの騎士団だ!?」

「ち、違うぜ、お頭! 拠点を襲ったのは騎士団じゃねえ! 十人くらいの冒険者って話だ!」

 そのあり得ない部下から報告に、男の頭は真っ白になるのであった。

拠点は一体誰にやられたんだー(棒

何故こんなにあっさりと拠点が次々と潰されたのは、次話で話します。

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