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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 エルフの里
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(2)エルフの里

 シュレインとピーチについての話をしたあとは、特に何かするでもなくまったりとした時間を過ごした。

 既に十年以上も一緒にいるのだ。

 取り立てて会話がなくとも、お互いの距離感が離れることはない。

 もっといえば、管理層という狭い空間で一緒にいるので、敢えて話さなければならないという事もないのである。

 コレットの妊娠が分かってからは、エルフの里に移ったが、既にその時の話は何度もしている。

 結果として、二人の会話が少なくなる、というわけだ。

 考助としても急いで管理層に戻らなくてはならない用事もないため、一日コレットに付き合うつもりでいる。

 コレットの足元で寝転がりながら、時にちょっとした会話をしながらのんびりとした時間を過ごしていた。

 

 そんな考助とコレットのところに、助産師の話を聞きに行っていたシルヴィアが戻って来た。

 そのシルヴィアが何やら微妙な表情になっていることに、コレットが気づいた。

「あら。どうしたの? 里で何かあった?」

「ええ、まあ。あったことはあったのだけれど・・・・・・」

「何?」

 言いよどんだシルヴィアに、考助が体を起こした。

 その考助を見て一つため息をはいたシルヴィアが、首を振りながら言った。

「コウスケさんとコレットの神格化が随分と進んでるなあって思っただけですわ」

「えっ!?」

「・・・・・・ああ」

 シルヴィアの言葉に対する二人の反応は、全く違ったものだった。

 考助は驚いて目を見開き、コレットは苦笑交じりに頷いている。

 

 コレットのその反応を見たシルヴィアは、納得したように頷いた。

「やっぱりコレットは知っていたのですね」

「それはまあ、ずっとこの屋敷に籠っているわけにはいかないからね。散歩をしていれば、嫌でも耳に入ってくるわよ」

 幾ら妊娠していて過度な運動は禁止されているとはいえ、全く動かないのはそれはそれで問題がある。

 そのためコレットは、適度に外に出て里を見回ったり、世界樹エセナの麓へ歩いたりしていた。

 そのたびに、通りがかりに声をかけられれば、嫌でも自分と考助の扱いは耳に入ってきていた。

「えーと・・・・・・神格化って何?」

 恐る恐るといった感じで考助が聞くと、シルヴィアが先ほど里で話されていた内容を考助に教える。

「なんでもコレットは子宝に恵まれる神として考えられているみたいね。今回の妊娠でそれが加速したみたい?」

「そうね。それにコウスケは、安産にご利益があるみたいよ?」

 シルヴィアの説明に、コレットが付け加えた。

「なんだそれ? コレットの子宝はともかく、何故、僕が安産?」

 意味不明な話に、考助は首を傾げている。

 シルヴィアの時もフローリアの時も、特に安産に関わるような何かはしていない。

 それどころか、二人共第五層に行っていたので、考助の感覚ではむしろ全く手助けらしいことは全くしていない。

 出来ることならもっと傍にいてやりたかったという思いの方が強いのだ。

 

 意味が分からず首を傾げている考助に、コレットが説明を加えた。

「なんでもシルヴィアにしてもフローリアにしても、全ての子供が無事に生まれてきてしかもきちんと育っていることが評価されているみたいね」

「そうね。どの子も大病を患ったということもなかったですし。さらにいえば、里で生まれて来た子たちも順調に育っているみたいですしね」

 この世界では、魔法があるとはいえ、まだまだ出生率は低い。

 加えて、生き残れる子供の数も考助が元いた世界と比べれば雲泥の差だった。

 勿論、エルフはヒューマンとは違ってそこまで極端なことにはなっていないが、それでも子供たちが常に危険にさらされている状態なのは変わりはない。

 にもかかわらず、考助たちの子供や塔の階層に里を移してからの子供たちの死亡率が極端に低いことに注目されてていた。

 それは、間違いなく考助(現人神)のおかげだろうと。

 

 その説明を二人から聞いた考助は、慌てて首を左右に振った。

「いやいや。それはないから。そんな権能全く持っていないよ!?」

「それを言ったら、私なんて神でもないわよ? 初めてその話を聞いたときは、信仰ってこうやって生まれるんだと実感したわよ」

 考助と同じようにエルフたちに讃えられているコレットが、諦め顔になってそういった。

 コレットの場合は、スピリットエルフという種族もまたその噂が広まるのに拍車をかけている。

 もともとそうした話が広まる土壌はあったが、コレット自身の妊娠で一気にそれが認知されていた。

 コレット自身が気付いたときには既に手遅れだったのだ。

 考助に関しては、もともと現人神ということもあって、さほど抵抗もなく受け入れられていた。

「・・・・・・なんというか、今更といえば今更だけど、どうしようもないことってあるんだね」

 考助がそう言ってカクンと頭を下げるのを見たシルヴィアとコレットの二人は、顔を見合わせて苦笑いをするのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなことを会話していた三人の所に、コレットの補助役として付けられているエルフのポリーナが来た。

 ポリーナは、コレットが出産を無事に終えるまでのコレットの世話や暮らしている家の管理をすることになっている。

「コレット様、コウスケ様、お客様がいらっしゃっています」

 扉をノックしたあと、そう聞こえて来た声に、コレットと考助が顔を見合わせた。

 コレットだけならまだしも、考助も合わせてとなると思い当りがほとんどない。

「入っていいわよ。・・・・・・それで、誰が来たの?」

 コレットが声をかけてから部屋に入って来たポリーナに、コレットが問いかけた。

「リレース様とセウリのロマナ様です」

「セウリのロマナ様が?」

 以前に考助が訪れたことのあるセウリの森のエルフの里とは今でも転移門を使っての交流がある。

 そこの里の代表であるロマナが、塔のエルフの里に来ているのは不思議でもなんでもないが、わざわざコレットと考助を訪ねてくるというのが分からない。

「いいわ。お通しして」

 コレットがそう言うと、ポリーナは一礼をしたあとで部屋を出て行き二人を呼びに行った。

 

 考助たち三人がいる部屋に、リレースとロマナが通された。

 考助の姿を見て、ロマナがすぐさま頭を下げた。

「ご無沙汰しております」

「ああ、久しぶりだね。元気そうでよかった」

「はい。おかげさまで」

 セウリの森と塔のエルフの里は、現在でも転移門を通して交流がある。

 ただし、考助自体が里に来ることが少ない上に、ロマナもほとんど来ることが無いので、両者は久しぶりに会った。

 コレットに関しては、世界樹に関しての話をすることがあって、何度かこの里で話をしている。

 ただ、考助と二人揃って会うのは、考助がセウリの森を去ったとき以来だった。

 

 そんな久しぶりの状況に、コレットが首を傾げながら聞いた。

「それで、私とコウスケさんの二人に用があるみたいですが、なにかありましたか?」

「はい。今度、お二人のお時間のある時で構わないので、私どもの里を訪ねてほしいのです」

 ロマナがそう言うと、考助が首を傾げた。

「里に? ユッタが呼んでいるとか?」

「いえいえ。そんなことではありません。単に里の者たちがお二人にお会いしたいと望んでいるのですよ」

「里の者たちが?」

 ロマナの言う意味が分からずに、考助は首を傾げた。

 以前の事件から、少なくとも考助はセウリの里に対して何かをしたという事もない。

 わざわざ指名されて呼ばれる理由がないのだ。

「ええ。・・・・・・その、我々の里とコレット様の間には色々ありますが、それも含めて一度きちんとお話をしたいのですよ」

「含めて、ね」

「コレット様が身重で、警戒される理由も十分に分かりますが、是非ともご検討願います」

 別に考助がセウリの森を訪ねていないのは、コレットの過去のことがあるからというわけではないのだが、ロマナの言葉に端々にそうしたニュアンスが感じ取れる。

 そんなロマナを前に、考助とコレットはどうするのかと視線を交わすのであった。

エルフの里では、順調に考助の神格化が進んでいます。

主に子供に関してw

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