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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5部 第1章 塔同士の戦い
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(17)交渉

 考助は、サント・エミンゴ王国が提示した賠償内容を確認しながら、集まった者たちへと視線を向けた。

「わざわざここに来たという事は、国としてもクラウンとしても受けた方が良いと判断したんだよね?」

 考助がそう問いかけると、トワが大きく頷いた。

「ええ。王国としてもクラウンとしてもメリットはありますが、デメリットは些細なものですからね」

 全くデメリットが無いというわけではないが、そもそもサント・エミンゴ王国が提示して来た内容はもともとこちら側が提案していたものだ。

 当然、デメリットについても考えていて、その上で利益の方が大きいと判断している。

「うーん・・・・・・」

 腕を組んで考え続ける考助に、トワが首を傾げながら聞いていた。

「何か問題でもありましたか? 向こうの塔を奪って追いつめるよりも提示して来た案を飲んで穏やかに終わらせた方が良いと思ったのですが?」

「ああ、いや。今の戦いを終わらせることは特に問題ないんだよ。どうせ放っておいてもあと一週間も待たずに終わるから」

 塔の戦いのことなど知らない者たちは、考助のその言葉に騒めきだした。

 塔同士の戦いが、そんなに簡単に終わると思っていなかったのだ。

「自然に終えるのを待つより、折角向こうが提示して来た案を飲んだ方が得だというのは分かるんだけれどね」

「何か他に問題が?」

 首を傾げるトワに対して、考助は視線をフローリアへと向けた。

 一般の常識とはずれているという認識がある自分よりも、フローリアから説明したほうが良いと考えたのだ。

 

 考助の意図を察して頷いたフローリアは、トワを見て話始めた。

「トワ国王。そもそもの起こりを思い出すといい。今回の戦いはどうやって始まった?」

「どうやってと言われても・・・・・・」

 トワはそう言った瞬間、フローリアが言いたいことをすぐに察した。

 だが、他の者たちはまだいまいちわかっていないのか、首を傾げている者もいる。

「例え戦いで負けても賠償さえ払えればいつでも宣戦布告しても良いと思われるのは困る、というわけですか」

 トワがそう言うと、分かっていなかった者たちの表情がハッとしたものになった。

 そもそも今回の戦いは、サント・エミンゴ王国側の一方的な宣戦布告で始まっている。

 宣戦布告ができるのは十年後とはいえ、そうそう何度も戦いを起こされてはアマミヤの塔としてはたまったものではない。

「そうだ。当然そうそう簡単に宣戦布告は出来ないと思ってもらわなくてはこちらが困る。今回はこのままでも勝てるだろうが、次もそうだとは限らないからな」

 圧倒的な強さで勝てることは伏せたうえで、フローリアはそう言った。

 どれほどの戦力をアマミヤの塔が持っているかというのは、公言する必要性はない。

 主な戦力がモンスターの眷属である以上、普通の国が持っている軍隊と違って数や強さで相手を牽制することが出来ない。

 そのため、敢えて隠しておく必要があるのだ。

 

 フローリアの話を聞いて少し考え込む仕草を見せたトワは、少しだけ間をあけてから問いかけて来た。

「では、今回の申し出は拒否いたしますか?」

「いや、その必要はない」

「では?」

「申し出を受けた上で、更に条件を付ければいい」

 そもそも交渉というのは、相手の申し出を一方的に受け入れるだけでは成り立たない。

 こちら側の条件を示したうえで、譲歩できることは譲歩していけばいい。

「条件・・・・・・宣戦布告されないような良いものがあるのでしょうか?」

 自分では思いつかないという顔になっているトワに、フローリアは肩を竦めた。

「それはこれから考えればいい。あまり時間はないが・・・・・・」

「フローリア」

 一時悩むような顔になったフローリアに、考助が声を掛けた。

「例の件をここで使うのはどう?」

「例の件? ああ、あのことか」

 ふむ、と呟いてから一度目をつぶって考え込むような仕草を見せたフローリアだったが、少したってから小さく頷いた。

「・・・・・・細かい詰めは必要だろうが、恐らく大丈夫だろう」

「じゃあ、それで」

「わかった」

 考助とフローリアの二人だけで話が完結してしまって、周りの者たちにはさっぱり分からない状態になっている。

 

 当然のようにそのことに気付いていたフローリアは、以前考助と二人で雑談混じりで話した「計画」をこの場の全員に話した。

 その提案を聞いた王国の面々は、それぞれが考え込むような表情になった。

 フローリアの提案は、外交として対応する側面が強いためクラウンは蚊帳の外だ。

「・・・・・・確かにその提案が通れば、宣戦布告に対する牽制になるでしょうが、問題は誰がその交渉に当たるか、ですね」

「何。事は塔に関わることなのだ。私とミアが出るさ」

 あっさりとそう言ったフローリアに対して、王国の面々は騒めきだした。

 女王として君臨していたフローリアだ。外交交渉などそれこそ山のようにやってきている。

 そのフローリアが直接交渉を担当するのであれば、大きな問題は起こらないだろう。

「母上はともかく、ミアもですか?」

 トワとしてもフローリアが出ることに異論はなかったが、ミアを一緒に出すというのは予想外だった。

 現在のミアは、表向きはまだ謹慎が続いている状態なのだ

「何。心配するな。今回は単に顔見せのつもりで出すだけで、名乗りはさせないさ」

「そういう事でしたら問題ないですね」

 フローリアの言葉に、トワも安心した顔になって頷いた。

 その後は、細部を詰めていき、その日の午後にはフローリアは交渉の場へと向かった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 今回の交渉は時間が勝負だ。

 何しろ放っておくと勝手に制圧戦が始まってしまう。

 そのため、サント・エミンゴ王国との交渉は、フロレス王国を介して行う事になった。

 ラゼクアマミヤはサント・エミンゴ王国との直接の交渉窓口を持っていないためそうなったのだ。

 フローリアとミアは、王家が使える転移門を使って直接フロレス王国へと出向き、その通信具を使うのである。

 勿論場所を借りている以上、フロレス王国も今回の件でちょっとした利益を得ることになっていた。

 そして、ラゼクアマミヤからの交渉の提案は、ペドロ国王も予想していたのか、すぐに交渉の席が設けられた。

 といっても、お互いに側近たちがぞろぞろいるような状況ではなく、代表者数名がその場にいて通信具を介して行われる簡素なものだ。

 

 交渉の場にフローリアが出てきて驚いたペドロ国王だったが、そのフローリアが提案した内容に思わず唸っていた。

 それもそのはずで、フローリアが提案したのは「サント・エミンゴ王国内にある未攻略の塔を一つ攻略することを認める」というものだったのだ。

 攻略されていない塔なので、サント・エミンゴ王国にとってはさほど痛い出費とは言えない。

 だが、国内にあるおひざ元の塔が他者によって管理されているという状態はあまりいい状態とは言えない。

 さらに、冒険者たちが塔を攻略している分の収入もなくなってしまうのだ。

「ペドロ国王、如何する? 我々としては簡単に宣戦布告されては困るのでこういう提案になったが、別に今のまま制圧戦を続けても良い。何しろ時間はあってないような物だからな」

 考助がアマミヤの塔の管理長を続けている限り、十年だろうが二十年だろうが制圧戦を続けることはできるのだ。

 直接的な言い方ではないが、ペドロ国王もすぐにそのことは分かった。

「・・・・・・分かった。その条件を飲もう。ただし、攻略した塔の低階層は出来るだけ解放してほしい」

 冒険者たちが立ち入れる場所からの素材の収入が無くなるのは、サント・エミンゴ王国にとっては痛い。

 ダメもとで提案したペドロ国王だったが、意外なことにフローリアはすぐにその条件で了承した。

 このくらいの内容は、元々交渉の内容として決めていたのだ。

「ああ、こちらはそれで構わない。口約束になるがいいんだな?」

「ああ、それは仕方ないだろう」

 今回の場は、あくまでもトップ同士の話し合いであって、表に出すような内容ではないのだ。

 具体的に表に出す内容は、これから詰めていくことになる。

 

 こうして交渉が行われた翌日にあった第八戦まで続いた制圧戦は、アマミヤの塔側の勝利で終結することとなったのである。

今回の交渉で、鬱陶しい宣戦布告を牽制することが出来ました。

何しろ下手に宣戦布告すると国内にある塔が取られてしまうのですから、他の国で管理している塔も下手に宣戦布告することはなくなる、と目論んでいます。

少なくともペドロ国王が今後アマミヤの塔に仕掛けることはなくなるでしょう。

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