(14)理想的な戦い?
サリタの塔の管理者であるカミロは、五戦目を目前にして気を引き締めていた。
アマミヤの塔を相手に、既に四戦して四勝を挙げている。
今まで順調に勝っているために、あと四戦で終わらせるのはもったいないという気持ちがないわけではない。
だが、あと四戦で終わるというのは、国王の決定だ。
家臣である自分がそれに反する行動をとるわけにはいかないとカミロは考えている。
アマミヤの塔の噂を集めていた段階では、そもそも勝てるとさえ思っていなかった。
それが既に四勝。
実際に戦いを動かしているカミロの精神が高揚するのは当然の事だ。
こういう勝ち戦の時こそ落とし穴があるというのは分かっていても、なかなか自分自身では気付かないものである。
だからこそ、国王の判断はカミロにとってもこれからの戦いを勝ち抜くために必要な物だと理解していた。
第五戦が始まってすぐ、カミロの表情は驚きに包まれた。
「・・・・・・何だと?」
前の四戦と同じように相手側の階層にモンスターを送り込んだのだが、今回はアマミヤの塔側もサリタの塔の階層にモンスターを送り込んできたのだ。
ただ、この時点ではまだカミロも焦ってはいなかった。
制圧戦では両者入り乱れてお互いにフィールドに攻め込むということは、記録にも記されている。
当然、そのことを予想して準備もしていた。
むしろ今までアマミヤの塔側が防戦一方だったのが不思議なくらいだった。
「ふむ。四戦連続で負けて焦ったか? もしくは手打ちをされると考えていなかったか?」
だったら楽でいいんだが、と続けたカミロだったが、すぐに首を左右に振ってその考えを打ち消し、油断は禁物だと再度気を引き締めた。
今まで通り対処すれば大丈夫だと言い聞かせて、これまでの通りにモンスターの配置を行っていく。
考助が予想していた通りに、モンスターに細かい指示を与えているわけではなく、ある程度の強さを持ったモンスターの集団を送り込むことにより場の流れを作るというのが、サント・エミンゴ王国がこれまで蓄積して来た制圧戦の戦い方だった。
勿論、戦いの事なので百パーセント勝てるというわけではない。
ただ、かなり高い勝率で勝てる戦いであり、事実アマミヤの塔を相手にこれまで勝つことが出来ていた戦法だった。
だが、そんなカミロのこれまでの自信は十分も経たずに打ち砕かれることになった。
「ば、ばかな・・・・・・!?」
今まで通りに進化したモンスターを配置していっているにも関わらず、防衛をしているアマミヤの塔側のモンスターはそれらを打ち砕き、攻撃をしているモンスターたちはサリタの塔側の防衛を食い破っていっている。
その速さは、まさに電光石火のごとくである。
それだけではなく、自軍の光点はどんどん減って行くのに対して、敵側の光点は全く減っているようには見えないのだ。
画面越しだからこそその状況が良く見えているが、もし直接現場にいればまさしく混乱の極みだっただろう。
「一体何が起こっているんだ?」
そう呟いたカミロは、慌てて画面を拡大して詳細な局面を確認するのであった。
全体を俯瞰する画面から詳細を確認する画面へと変えたカミロは、思わずその場で立ち上がって絶句した。
そこで行われているのはまさしく蹂躙というのにふさわしい光景だったのだ。
戦いの詳細は、自塔のフィールドでしか確認が出きない。
要するに、カミロにとっては防衛しているフィールドを拡大して見ているのだが、そこではアマミヤの塔が送り込んだと思われる狼たちが縦横無尽に駆け回っていた。
狼たちの前にはサリタの塔の階層に元々いるモンスターや防衛用にカミロが配置したモンスターが立ちふさがっている。
だが、アマミヤの塔の狼たちは、そんなモンスターなどいないかのように通り過ぎ去っているように見えた。
勿論それは誇張した表現だが、カミロにとってはほとんどそんな感じに見えている。
例え狼のまえにモンスターが立ちふさがっても、狼の一撃で倒される。
それで仕留めきれなかったモンスターは、さらに後続の狼たちによって確実に仕留められる、ということが繰り返されているのだ。
個別の能力でも集団としての戦いも全く歯が立たない状態だった。
どこからどう考えても格の違いというのが出ていた。
「は、はははは・・・・・・」
思わず乾いた笑いをあげてしまったカミロだったが、サリタの塔のモンスターたちが蹂躙される様を食い入るようにして見ていた。
今カミロの目の前で行われていることは、まさしく制圧戦における最高峰の戦いと言えるだろう。
これまでカミロが行って来た小手先の技術に頼るような戦いではない。
個の強さに連携を加えた圧倒的な強さでの蹂躙だ。
塔を管理する者にとって、目指すべき目標が今目の前で繰り広げられていた。
カミロがアマミヤの塔のモンスターの戦いぶりを食い入るように見ていたのは、五分程度の時間だった。
だがそれでも状況は悪化の一途をたどっている。
このままでは、制圧戦における敗北の条件を満たすのもすぐの事だろう。
「おっと、いかんな。折角成長させたモンスターを引き上げなければ」
最早勝敗は決していると判断したカミロは、すぐさま本来の目的を達成するための行動に出た。
防衛用に置いていた進化済みのモンスターたちを、別の安全な階層へと移し始めたのだ。
既に勝敗は分かりきっている。
それであれば、あとは出来る限り被害が出ないようにすることが肝心だった。
今回の制圧戦での最低限の目標は、一定以上の進化したモンスターを確保することだ。
そのためモンスターとはいえあまり多くの犠牲を出すわけにはいかない。
本来であれば、ここまで圧倒した戦いを見せられれば、呆然自失となってもおかしくはないが、カミロはすぐに立ち直ることが出来た。
ペドロ国王の勝ちにこだわらない態度が、カミロにも上手く作用していた。
引き上げる作業をしながら、カミロは心の中でペドロ国王に感謝の気持ちを持つのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
カミロから報告を受けたペドロ国王は片眉をピクリと動かした。
「・・・・・・何があったのだ!?」
冷静な態度を見せていたペドロ国王も、流石に第五戦の結果には驚いたようだった。
四戦続けて勝った事により、ようやくアマミヤの塔の一階層分を一度に取れるようになった途端の敗北だ。
しかも、それだけではなく本来のサリタの塔の階層も取られてしまっていたという話だ。
ペドロ国王でなくとも何が起こったのかと思うのは当然だろう。
驚くペドロ国王にカミロは今日起こったことの詳細を説明していった。
「・・・・・・私の言葉だけでは信じられないかもしれません。ですが、まぎれもなく事実です。それに、また二日後には同じ光景がみられるでしょう」
最後にそう付け加えたカミロに、ペドロ国王はどう言って良いのか分からない、といった表情になっていた。
もしカミロがあの光景を画面で直接見ずに、他の者から話を聞けば同じ反応を返しただろう。
むしろ、馬鹿にしているのかと言われないだけましかもしれない。
それが分かっているからこそ、カミロはそれ以上は何も言わなかった。
ペドロ国王が、カミロの言葉を妄言だと言わないのには、アマミヤの塔の噂についての事があるからだ。
「信じられん。・・・・・・信じられんが、実際に見ていない儂が否定しても仕方ない、か。・・・・・・カミロ」
「はっ・・・・・・!!」
「二日後の第六戦は、儂も見に行くぞ」
「承知いたしました」
結局、自分で目で確認することを決断したペドロ国王の言葉を受けて、カミロは恭しく頭を下げるのであった。
はい。予定通りの蹂躙戦でした。
今回、制圧戦に出しているモンスター(眷属)たちは、アマミヤの塔が持つ戦力の精鋭たちです。
今回出番はありませんでしたが、狐たちや鬼人たちは、防衛している階層で大活躍していますw
・・・・・・アマミヤの塔側の視点を書いた方が良いのでしょうかね?




