(10)帰還
第三戦が終わるとほぼ同時位に、シルヴィアたちが戻って来た。
行きはともかく、帰りはミツキの魔法で一瞬で戻ってこれるのだが、若干遅くなったのにはわけがある。
といっても大した理由ではなく、近場では手に入らないような素材やちょっとした道具を買ってきてもらったのだ。
勿論、その道具の一部には、コレットが産むことになるであろう子供のためのものもある。
コレットの妊娠が発覚した時点で、神力念話を飛ばして買ってきてもらうようにお願いしていた。
そうした荷物を抱えて帰って来たシルヴィアたちに、考助はねぎらいの言葉を掛けた。
「ご苦労様」
「ありがとうございます。ですが、行きも帰りもほとんどミツキの魔法頼りだったので、私たちはさほど苦労はしていないですわ」
穏やかな笑顔を浮かべてそう言ったシルヴィアに、考助は首を左右に振った。
「それでも、だよ。それで? 会談はどうだった?」
「はい。何とかこちら側の言いたいことは伝わったと思います。ミツキさんがいてくれて助かりました」
もしあの場にミツキがいなければ、半信半疑といったところで留まっていただろう。
もしかしたら、周囲にいた側近たちの言葉でペドロ国王は、シルヴィアの言葉を信じないように傾いていたかもしれない。
だが、ミツキが正体を晒したお陰で、あの場の雰囲気はがらりと変わっていた。
あれでシルヴィアの言葉が嘘だと主張する者はほとんどいなくなったはずだ。
考助がシルヴィアの後ろにいたピーチに視線を向けると、彼女もコクリと頷いた。
「問題ありません~。これで周囲の勢いに押されて制圧戦を止めるという事はないと思います」
考助としては、神に向かってなんてことを、という意見は必ず出ているだろうと考えて、わざわざシルヴィアたちを使いに出したのだ。
どうやら、その成果はしっかりと実ったようである。
そのあとは、軽く制圧戦の状況を説明して話は終わり、となったところでシルヴィアがコレットについて聞いていた。
「コレットはいまどうしていますか?」
「ああ、コレットなら里で静養しているよ」
「そうですか」
考助の言葉に、シルヴィアは安心した表情を見せて頷く。
出産経験のあるシルヴィアも、ずっと管理層にいるというのは、良くないと考えていたのである。
「こちらにいると、どうしても感情的にならざるを得ませんからね。離れるというのは良いかと思います。エルフの里であれば、いつでも顔を見せられるでしょうし」
「あら。やっぱりシルヴィアもそう思うんだ」
「はい。コウスケさんがどうこう、というわけではなく、ここにいると色々な人と生活しないといけませんから」
勿論、管理層には個人用の部屋はある。
だが、大抵は個人の部屋に籠ることはせずに、共通のスペースをうろついているのがほとんどなのだ。
そうすると、どうしても他のメンバーたちと色々な接触をすることになる。
他のメンバーたちと会話するときは、大抵塔についての話だったりするので、妊娠中の者にとってはあまりよろしい状況とは言えない。
それだったら、最初から管理層から離れていた方がいい、というのがシルヴィアの考えだった。
ついでに言うと、フローリアが同じように主張して、コレットの里行きが決定していた。
経験者の意見が重く見られたというわけである。
「ああ、そうだ。買って来たものを届けるついでに、様子を見てきてくれない?」
何だかんだで管理層にいるメンバーの中で、コレットと一番仲がいいのはシルヴィアである。
さらに子供二人を産んでいるので、シルヴィアが顔を見せれば安心するだろうと考助は期待してた。
「はい。そうさせてもらいますわ」
勿論シルヴィアにも否やはない。
発覚した時に丁度いなかったので、まだおめでとうの言葉も言えていない。
そのためシルヴィアにとっても、考助の提案は有難いものだった。
考助に頷いたシルヴィアは、早速、よく里に顔を見せていたコウヒと一緒に向かうのであった。
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シルヴィアを見送ったピーチは、気になっていたことを考助に聞いた。
「それで、制圧戦はどうなっているのでしょうか~? もっと詳しく教えてもらってもいいですか?」
ピーチは制圧戦が始まる前にサント・エミンゴ王国に向かう事になったので、制圧戦がどう進むことになっているのか全く知らない。
考助としても最初はわざと負けるつもりだったので、敢えてそうした情報を事前に教えていなかったという都合もある。
「まあ、予想外の事はあるけれど、順調に負けてるよ」
あっけらかんとした考助の言葉に、ピーチは目をパシパシと瞬いた。
「負けているんですか~?」
「うん。最初のうちに負けておいて、色々調べておきたいことがあったからね」
「なるほど~」
具体的に何を知りたいのかはあえて言わなかったが、ピーチも深くは聞いてこなかった。
それよりもピーチとしては、勝敗よりも他に気になることがあった。
「それよりも、予想外の事ってなんでしょうか~?」
「ああ。一応予定通りに負けてはいるんだけれどね。相手も意外に強い攻撃をしてきてね」
そう前置きをした考助は、三戦目の相手側のモンスターの動きをピーチに説明した。
その考助の説明をピーチは難しそうな表情で聞いていた。
「なるほど~。相手側の連携が気になったというわけですね」
「そうなんだよね」
頷く考助に、ピーチが首を傾げた。
「それって見ること出来ませんか?」
制御盤の画面として見ることが出来ているのであれば、記録として残していないのかと思っての問いかけだったが、考助は首を左右に振った。
「残念ながら、記録としては残せないみたいなんだよね」
「そうですか~。それは残念です」
そう言いながらも、ピーチの顔は大して残念そうにはなっていなかった。
もし確認できればと考えただけで、絶対に見たかったというわけではないのだ。
そんなことを言いながら首をひねっているピーチを見て、考助は何かあったのかと問いかけた。
「何か思いついていそうだけれど、思い当たることでもある?」
「う~ん。思い当たりというか、単に『考え過ぎ』じゃないかと」
「へ?」
その予想外の答えに、考助は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「いやでも、相手側のモンスターがかなり組織立って動いていたのは確かだよ?」
第三戦の様子は、考助だけではなく他の者たちも見ていて、考助と同じような印象を抱いていた。
考助だけであれば『勘違い』ということもあり得るだろうが、全員そろって同じような状態だったとは考えづらい。
考助はそう考えて発言したのだが、ピーチは首を振った。
「モンスターが組織立って動いているように見えただけという事は考えられませんか?」
そう言って来たピーチに、考助は虚を突かれたような表情になった。
「いや、まさかそんな」
画面を見ていた限りでは、確かに人が動かしている軍隊のように見えたので組織立っている、と考助たちは判断していた。
だが、実際は偶々モンスターがそう動いていただけで、相手側の指示があったわけでもモンスターが意図して動いていたわけではないのでは、というのがピーチが考えだと考助も気付いた。
首をひねりながらしばらく考えていた考助だったが、最後は諦めてため息を吐いた。
「うーん。駄目だね。結論を出そうにも材料が少なすぎてよくわからないや」
「そうですね~」
ピーチにしても何か確証があって言ったわけではないので、すぐに考助の言葉に同意した。
「とにかく、次の第四戦はピーチが言ったことを念頭に入れて、見てみることにしよう」
「それがいいですね~」
「ああ、あと、このことは他のメンバーには言わないように。もしかしたらピーチが言っていることが正しいかもしれないから」
もしピーチの予想が正しいのであれば、先入観で見ている他のメンバーたちと、考助たちでは違って見えるかもしれない。
「分かりました~」
考助の意図を察したピーチは、そう言って頷くのであった。
シルヴィアたちが帰ってきました。
あとは、第三戦についての考察です。
どういう結果になるかは次の第四戦で。
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※本日は書籍版の発売日です。
記念として、別タイトルに分けて同時刻に記念SSを上げております。
今後ともweb版、書籍版をどうかよろしくお願いいたします。




