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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5部 第1章 塔同士の戦い
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(8)朗報

 シルヴィアたちがペドロ国王と対面していた丁度そのころ。

 考助たちは考助たちで珍しい事態に直面していた。

「何を考えているのよ!?」

 突然コレットが怒鳴るように、そう言って来た。

 あまりに唐突だったのと、普段怒鳴ることなどほとんど初めてに等しいコレットの様子を見て、考助は戸惑ってしまったほどだった。

 そんな考助は勿論、怒鳴り声をあげたコレットも、思わずといった感じで口に手を当てていた。

「あっ・・・・・・。あの、ごめんなさい」

「いや、別にいいんだけれど・・・・・・。何かあった? 最近おかしいよ?」

 自分でも訳が分からないといった表情になっているコレットを見て、考助は首を傾げた。

 どうにもここ最近のコレットは、感情の制御が上手くいっていないように見える。

 ちょっとしたことでイラついたり、感情を露わにしている。

 今までのコレットからは考えられない程の変化だった。

 

 そんな二人の様子を見ていた他の者たちも唖然とした顔になっている。

 そんな中、一人フローリアだけが、何か思い当たりがあるような表情になった。

「フム。コレット、済まないがちょっと一緒に来てもらっていいか?」

「え!? ええ、いいわよ」

 周囲の視線に鋭いコレットが、周りの状態に気付かないはずがない。

 フローリアの提案にこれ幸いとばかりに乗って頷く。

「二人だけで大丈夫?」

「ああ、心配いらん。もし私の予想が当たっていればおめでたいことだからな。ただ、違っていたらコウスケも困ることになるから、ちょっと離れるだけだ」

「それならいいけれど・・・・・・」

 首を傾げた考助に、シュレインがポンと肩をたたいだ。

「何。フローリアに何か思い当たりがあるのであれば、任せた方がよかろう」

「まあ、そうだね。それじゃあ頼むよ」

 考助がそう言うと、フローリアは一つ頷いてコレットを連れて別の部屋へと向かった。

 

 心配そうな表情で二人を見送った考助に、シュレインが肩を竦めながら言った。

「何、気にするな。フローリアに任せておけば大丈夫だろう。予想が当たっていれば、彼女が言った通り悪いことではないからの」

「なんだ。皆は予想がついているの?」

「前におかしかったときに皆で話をして、フローリアから聞いておるの」

 いつの間に、と考助は思ったが、特にここ数日のコレットはおかしさが目立っていた。

 そのことに他のメンバーが気づかないはずがない。

 きちんと女性同士で話をしていたことに、考助は少しだけ笑顔を見せた。

「そうなんだ」

 考助のその微妙な表情に気付いたシュレインは、笑い飛ばすような笑顔になった。

「何、気にするな。それぞれの役割というものがあるからの。それに、今回に限っては、そこまで時間はかからないはずだぞ」

 そう言ったシュレインを見て、考助は曖昧に頷いたが、その考助の不安はすぐさま吹き飛ばされることになるのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 フローリアとコレットが別の部屋に行ってから少しだけ時間が経っていた。

 考助はそのとき、くつろぎスペースでのんべんだらりとしていたのだが、その考助に向かってコレットが満面の笑みを浮かべて抱き付いてきた。

「コレット? どうしたんだ?」

 普段のコレットであれば、これほど喜んでいれば駈け込んできていてもおかしくはない。

 だが、この時はゆっくりと歩いてきたので、考助は戸惑ったのだ。

 ついでに言えば、くつろぎスペースには外に出ているシルヴィアたちを除いてほとんど全員が揃っている。

 こうしたあからさまな態度は取らないはずだった。

 さらに言えば、他のメンバーも笑みを浮かべてコレットの行動を見守っている。

 

 周囲の様子を見てさらに戸惑いを深めた考助だったが、次のコレットの言葉に意味が分からず固まってしまった。

「コウスケ、私出来たみたい」

「・・・・・・はい?」

 突然の事に、何のことかわからなかった考助は、コレットに抱き付かれたまま首を傾げる。

「もう! だから、子供よ子供。あなたと私の赤ちゃん!」

「えっ? はい!?」

 フローリアとシルヴィアの時に散々似たようなやり取りをしているにもかかわらず、考助は思わずそう言ってしまった。

 それほどまでに、意外な報告だった。

 コレットはエルフである。

 子供が出来にくいという事は、当人から散々聞かされていたので、ほとんど予想だにしていなかった。

 それがまさか、シュレインやピーチを差し置いて、先に出来るとは考えてもいなかったのである。

 

 コレットの顔を見て、ようやく実感がわいてきた考助は、笑顔を満面の浮かべた。

「ホントに!?」

「うん。ほんとよ。ちゃんと里で確認して来たから」

 フローリアと話をしに向かってから結構時間が経っていたのだが、きちんと診察を受けていたために時間がかかっていたのである。

 未だに抱き付いたままのコレットを一旦離してから、考助はコレットのお腹に触れた。

「そうか。ほんとにほんとなんだ」

 感慨深げにそう言う考助に、コレットは嬉しそうに微笑んだ。

 フローリアとシルヴィアの時に、都合五回も経験しているのだが、それでもやはり嬉しいものは嬉しい。

 考助のその思いを感じ取ってか、コレットはただ黙って見つめていた。

 既にその顔は母親の表情になっていたが、残念ながらジッとコレットのお腹を見ていた考助はそれには気づかないのであった。

 

 ようやく落ち着きを取り戻した考助とコレットを見て、周囲で様子を見ていたメンバーたちが祝福の言葉を掛けに来た。

 流石にこのときばかりは、甘々な状態になっている二人を咎める者はいなかった。

 次々にコレットに言葉を掛けているシュレインやフローリアの輪から抜け出して来た考助に、ミアが近づいてきた。

「コレットお母様に子供が出来ましたか。なんだか不思議な感じですね」

「ミアには三人も下に兄弟がいるだろう?」

 今更何を言っているんだ、と言いたげな考助に、ミアは目を瞬いてから答えた。

「何を言っているんですか。リクもココロもルカも私が小さい時に出来た兄弟です。このように成長してからでは全く感覚が違いますよ」

「そんなものか?」

「そんなものです」

 首を傾げた考助に、ミアが断言するように頷いた。

「そうか。だが、これからもこういうことはあると思うよ?」

 そのあからさまな言い方に、ミアは思わず目を丸くして考助を見た。

 今までこのような直接的な話などしたことが無かったためである。

 

「そうなのですか?」

「ああ。ミアは知らないだろうが、僕の傍にいる嫁たちは子供を作るために色々努力して来たからな。ちゃんと全員に子供が出来てほしいと思っている」

 その考助の言い分に、ミアは笑顔になって頷いた。

「そうですね。その方が良いと思います」

「なんだ。コウスケはそんなことを考えていたのか?」

 親子二人の会話に、シュレインが混ざって来た。

「それはそうだろう? 何、シュレインは子供欲しくないの?」

「そんなわけはないだろう。だが、コウスケがそこまで真剣に考えているとは知らなかったの」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 考助としてはごく普通にそう考えていたのだが、シュレインには伝わっていなかったらしいと気づいて、考助は顔をしかめた。

 どうにもこうした部分に関しては、考助は奥手になってしまうようだった。

「聞いておらんの。だが、吾の場合は、コレット以上に子供が出来にくいからの」

「あれ? そうなの?」

 再び首を傾げた考助に、ミアが呆れたような視線を向けて来た。

「父上・・・・・・」

 そんなミアに、対してシュレインは笑って言った。

「まあ、ミアもそう考助を責めてはならぬ。そもそも吾も敢えて話題にしてなかったというのもあるからの」

「そうなのですか?」

 首を傾げたミアに、シュレインは頷いた。

「ああ。プロスト一族を見て居ればわかるだろうが、そもそもヴァンパイアは血族を残そうという意識が薄い種族だからの。それよりも自らの保全を考える」

 初めて聞くその話に、ミアは目をぱちくりとさせた。

「勿論、全てのヴァンパイアがそうであるとは限らぬぞ? ただ、より古い血脈を持つ者たちはその傾向が強いというわけだ」

「へえ。そうなんですか」

「うむ。まあ、だからと言って全くいないわけではないから心配するでない。・・・・・・そもそも吾もきちんと両親から生まれた子だからの」

 珍しく自分の家族の話をしたシュレインは、遠い記憶を探るような顔になった。

 その何とも言えない表情に、ミアはそれ以上のことを聞くのは控えるのであった。

コレットが情緒不安定になっていた原因が判明しました。

残りの三人のうちだれが先に抜け出すか、という状況でしたが、コレットが一抜けた状態になったわけです。

そして、シュレインの事も少しだけ。

ピーチはピーチでのほほんとしていますから、単純にコレットの事を喜ぶだけで終わりそうですねw

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