(7)神の言葉
アーダから報告を受けたペドロ国王は、すぐに神託に従い訪問者を迎え入れる態勢を整えた。
面会が翌日になったのは、ペドロの立場を考えれば致し方のないことだった。
むしろ、すぐに面会予約が取れるアーダの方が普通ではない。
勿論それは、ペドロからの信頼と今までの実績で可能なのである。
今回は、まさにその状態が生きた形になった。
お陰で、手遅れにならない段階で、何とか客人たちを迎え入れることが出来た。
ペドロ国王が迎え入れた客人とは、勿論シルヴィアたちのことである。
今回シルヴィアたちは、ラゼクアマミヤの使いではなく、アマミヤの塔の使いとしてサント・エミンゴ王国へと来ていた。
わざわざアーダに神託が伝わるようにしてまでこの国に来ているということは、立場としてはあくまでも神の使いである。
神託を受けて彼女たちを迎え入れる準備をしたサント・エミンゴ側も、何事かという感じで慌てていた。
そもそも今回のアマミヤの塔への制圧戦は、問題ないという神託を得た上でのことだ。
今更、神の使いが来て何を言って来るのかという気持ちが強かった。
そんな周囲の反応を余所に、シルヴィアたち三人を初めて見たペドロは、思わず感嘆の声を漏らしそうになった。
三人はいずれも劣らぬ美女だったのだが、そのうちの一人が特に抜きんでていた。
だが、三人の中で代表として進み出て来たのは、ペドロの予想に反して別の者だった。
金髪のその女性は、一国の王の前にもかかわらず、傅くことはせずに代わりに巫女としての礼を取った。
普通に考えれば、無礼ともとられかねないが、神託を授けた上で神の使いとして来ているため、その女性を咎める者は一人としていなかった。
「お初にお目にかかります。私は、コウスケ神の巫女でシルヴィアと申します」
その名のりに、周囲で様子を窺っていた者たちの何人かがうめき声を上げた。
ラゼクアマミヤの巫女として活躍していたシルヴィアの事を知っていたためだ。
だが、逆にペドロは当然だろうと内心で考えていた。
そもそも神の使いとして来ていることは神託で分かっている。
神の巫女が直接出向いてきてもなんら不思議ではない。
それよりもペドロが気になるのは、わざわざここまで神の巫女が出向いてきた理由だ。
「初めまして。私が、サント・エミンゴ国王ペドロである。して、早速だが、今回のわざわざの訪問はどういった用件かな?」
相手が神そのものであればペドロの態度は不遜と思われただろうが、あくまでも今回の相手は人の巫女だ。
国王が遜る必要はない。
事実、シルヴィアは気にした様子も見せずに、小さく頷いてすぐに要件を切り出した。
「はい。コウスケ神からの言伝を持って参りました」
「ほう。言伝、とな?」
鷹揚に頷いて見せたペドロだったが、内心では何を言い出すのかと目まぐるしく頭を働かせている。
場合によっては、すぐにでも制圧戦を中止することも考えていた。
他の塔との戦いでは、モンスター達の進化が起こりやすいと言う結果と、実際に今回の戦いで進化したモンスターが残ってくれれば、成果としては十分なのだ。
奪った一部の階層も返上を要求されれば、返す用意もある。
そうしたことを素早く考えていたペドロだったが、シルヴィアの言葉は予想とは違ったものだった。
「それでは、神のお言葉をお伝えします」
シルヴィアがそう言ってから一度言葉を区切ると、ペドロのすぐ傍にいたアーダを始めとして、幾人かいた神官や巫女が神託を聞く体勢になった。
今シルヴィアが言った前置きは、神託を受けた者が言葉を述べるときの前置きの決まった口上だった。
そのため、神職にある者は、その前置きを聞くと必ず体勢を整えてから聞くことになっている。
シルヴィアが横目でそれを確認しながら、あくまでも顔はペドロを見ながら考助の言葉を伝えた。
「『折角仕掛けて来た制圧戦。お互いに気のすむまで戦いましょう』以上です」
「はっ?」
シルヴィアの言葉を聞いたペドロは、思わずそう漏らしてしまった。
わざわざ神の使いとしてここまで来たのに、たったそれだけのことを伝えたかったのか、と内心では混乱している。
或は、言葉の裏に何か隠されているのではないかとさえ勘ぐっていた。
話を聞いていた他の者たちも同じような心境なのだろう。
誰もが微妙な表情になっていた。
その雰囲気をシルヴィアもしっかりと感じ取っていた。
ここから先はフローリアの傍にいた巫女としての経験が生きてくる。
ここは他国の王宮なのだ。
自分の言葉が変に曲解されてしまえば、考助の本来の意図から大きく外れてしまう。
緊張が顔に出ないように気を付けながら、シルヴィアは言葉を発した。
「ここから先はあくまでも私個人の言葉になりますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、聞こう」
側近たちが頼りにならないとすぐに悟ったペドロは、まずは情報が欲しいとシルヴィアを頼った。
勿論、塔の戦いでは敵側にいるシルヴィアの言葉を鵜呑みにするつもりはないが、何もない状態よりは遥かにましだ。
「恐らく皆様方、どういった思惑があるのか、とお考えでいらっしゃるかと思いますが、言葉通りに受け取って頂いたほうがよろしいかと存じます」
「ほう。なぜだ?」
言葉の裏を読んで本来の目的を知り、自分たちの有利になるよう交渉するのが政治であり商売でもある。
わざわざ人を使って言葉を伝えるという事は、そういう意味が含まれているのが普通であるのだが、シルヴィアの言葉はその真逆の事を言っていた。
「今回貴方のお相手になっているのは、神の一柱だからです」
「むっ・・・・・・!?」
ペドロは虚を突かれたような顔になった。
シルヴィアが言ったように、相手が神となれば、本人(神?)の思惑とは裏腹に、関わったすべての者がありとあらゆる可能性を探って動いてしまう。
例え神託という形で言葉を伝えたとしてもそれは同じだろう。
だとすれば、自分の言葉を真っ直ぐに伝えるために、人を使って伝えるというのは非常に有効な手段になる。
その納得できる理由に、思わずペドロは本気でその言葉を信じかけてしまった。
ペドロは国王である。先の理由から人が伝えた言葉をそのまま鵜呑みにして信じるのは、自殺行為と言っていいほどの事なのである。
「・・・・・・なるほど。確かに言う通りかもしれんな」
あくまでも一つの意見として聞こうという意思を示したペドロに、シルヴィアはニコリとほほ笑んだ。
いくら自分が神の巫女とはいえ、あくまでも一人の人間であることには違いない。
国王であるペドロが、自分の言葉をそう簡単に信じるとも考えていなかった。
だが、今回のシルヴィアには切り札がある。
今までずっとペドロ国王に向けていた視線を、この時初めてミツキへと移した。
「おおっ!?」
「な、なんと!?」
シルヴィアの視線を受けて突如起こったミツキの変化に、やり取りを見守っていた者たちから驚きの声が上がった。
ペドロにもそれを咎める余裕はなかった。
何しろ今まではただの人外のように美しい者、と思っていた女性が、その背中に三対六枚の翼を見せたのだ。
ミツキが今まで見えないようにしていたその美しい翼を人目にさらしたのである。
「ペドロ国王。シルヴィアの言葉は、私も支持するわ。これでもまだ信じきれないかしら?」
突然正体を現した代弁者に、その場は静まり返った。
それらの反応が全てを物語っている。
その名の通り神の代弁者であるミツキの言葉を疑う者は、その場には誰もいなかった。
「・・・・・・いや。神の言葉を邪推しようとした私の不明をお詫びいたします」
突然の展開に頭が真っ白になったペドロは、ハッと我に返り慌てて玉座から立ち上がり頭を下げるのであった。
というわけで、久しぶりに代弁者登場! でしたw
シルヴィアたちをわざわざ直接相手国に向かわせた考助の意図は、これできちんとペドロ国王に伝わったはずです。
・・・・・・タブン。




