(6)サント・エミンゴ王国
考助の指示を受けてアマミヤの塔を離れたシルヴィアたちは、五日ほどをかけてフロレス王国からサント・エミンゴ王国の首都へ入った。
途中で小さな国を二つほど通過したが、問題にならないように検問だけは通るようにして、後はミツキの魔法でショートカットしている。
首都の宿屋の一室を取ったシルヴィアたちは、旅の疲れを癒していた。
「それで? この後はどうするの?」
「少しの間でしょうが、待ちです。私たちが首都に着いたことは、エリサミール神を通して相手にも伝わっているでしょうから」
「そう」
シルヴィアの答えに、問いかけたミツキが頷いた。
裏で神々が動いていることから、考助がこの件に関して本気になっていることがわかる。
勿論、神が関与しているのはあくまでも仲介であって直接ではない。
だが、そこまでしても考助はあることを相手方に伝えたかった。
サント・エミンゴ王国に来たシルヴィアたちは、考助のメッセンジャー役というわけである。
ホッと一息を付くような仕草を見せたシルヴィアに、ピーチが思ってもみなかったことを聞いてきた。
「それで? シルヴィアは、今回の何が不安なのかな~?」
「え? 不安、ですか?」
いきなりピーチがそんなことを言い出したのには、きちんと訳がある。
「あれれ~? コウスケさんから今度の要件を言われたときに、そんな顔してましたよ?」
「私は気づかなかったわね。何か不安事があるなら、今のうちに話して頂戴。本番で何かあったら困るからね」
ピーチが言った不安というのが何か分からずに首を傾げたシルヴィアだったが、ようやく何のことか思い当たって首を左右に振った。
「ああ、いえ。あれは、こちらの要件で何かあるというわけではないのです」
「こちらの、という事は、他に何か気にかかることがあるというわけね?」
ミツキの確認に、シルヴィアは同意するように頷いた。
「ええ。別に隠すつもりではなかったのですが・・・・・・」
そう前置きをしてからシルヴィアが、旅立つ前に気になっていたことを話し出した。
シルヴィアからとある懸念を聞きだしたミツキとピーチは、彼女の話を聞いて頷いていた。
「なるほどね。確かにそれならシルヴィアが不安に思うのも分かるわ」
「ですが、離れた場所にいる私たちにはどうしようもありません~」
「そうね。この場合、コレット本人が気づいていないかもしれないというのが厄介よね。鈍すぎるのも程があるけれど」
呆れたように言ったミツキに、シルヴィアは苦笑を返した。
「ある意味では仕方ないですわ。コレットにしてみれば、まさか自分が、という思いもあるでしょうし」
「まあ、分からなくはないけれどね。彼女の場合、種族が種族だし」
ミツキの言葉に、その場にいた三人全員が同時にため息を吐いた。
「まあ、離れた場所にいる私たちが気にしていても仕方ないわ。今は、管理層にいる人たちに期待しましょう」
割り切るように言ったミツキに、シルヴィアも頷いたがわずかにその表情が陰った。
「それしかないのですが、唯一理由に気づけそうな人がフローリアなのですよね」
ポツリとそう言ったシルヴィアに、ミツキとビーチが「そう言えば」といった表情になった。
「・・・・・・仕方ないわね。一応、コウヒに連絡しておきましょう。いざというときには動いてくれるはず」
あまり期待していない顔でミツキはそう言った。
考助が絡むとミツキ以上の速さで動くコウヒだが、それ以外となると全く関心を持たないこともある。
だが、今回の場合は考助も絡むので、きちんと動いてくれるはずだ。
「そうですね。私の子供の事を考えれば、そうするのが一番いい気がします」
コウヒは積極的に考助の子供たちの子育てに参加していた。
本当であれば、もっと子供と触れ合っていたい考助の代わりに言われてであったが、乳母以上の働きをしていたのも確かである。
少なくともココロの才能があそこまで伸びているのは、自分のおかげではなくコウヒの力が大きいのではないかとさえシルヴィアは考えている。
そのコウヒであれば、まず大きな問題は起こさないだろうと、シルヴィアもわずかに安心したように頷くのであった。
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サント・エミンゴ王国のペドロ国王は、カミロからの報告を受けて頷いていた。
「では、今日は向こうもきちんと防衛して来たというわけだな?」
「はっ! 出して来た召喚獣は全て初級だったようですが、先日とは打って変わって数が大幅に増えていました」
「うむ。どういうつもりかと不思議だったが、単に初日は捨てただけだったか?」
ペドロ国王はあごひげに手を当てて擦りながら、考えていたことを口にした。
こうした態度をペドロ国王が見せるのはいつもの事なので、カミロも一々反応していない。
「それで? 成果はどうだった?」
「はい。先日に引き続いて種族が変化したモンスターは多かったようです」
「ふむ。やはり伝来の知恵は正しかったという事か」
カミロの報告に、ペドロ国王は何度か頷いた。
そもそも今回ペドロ国王がアマミヤの塔に制圧戦を仕掛けたのは、塔そのものを取ってしまおうと考えたからではない。
制圧戦では、互いに合意すればその時点で戦闘を止めることが出来る。
いわゆる「手打ち」という状態だ。
ペドロ国王としては、今回の制圧戦である結果を出せれば、すぐに手打ちを申し出るつもりでいた。
その一つが今カミロが報告したモンスターの進化についてだった。
サント・エミンゴ王国の王家には、制圧戦を行ってモンスター同士で戦わせると生き残ったモンスターの多くが進化するという話が、言い伝えで伝わっていた。
ペドロ国王自体は今まで一度も制圧戦をしたことが無いので、ただの話としてしか聞いていなかったのだが、今回の件でそれが裏付けられたことになる。
この調子で進化したモンスターがある程度の数になれば、ペドロ国王としては十分なのである。
宣戦布告してすぐにラゼクアマミヤを経由して、アマミヤの塔が此方側が不利になりかねない情報を流してきたときは予想外だった。
まさか塔の戦いに情報戦を仕掛けてくるとは考えていなかったのは、完全にペドロ国王のミスだろう。国家という立場で考えれば普通に考えれば、あり得ることだったのだが、今までそんなことをされたことが無かったので、完全に失念していた。ぎりぎり何とか完全に不利な立場に立たされることが避けられたのは、単に運がよかっただけだ。
そして、肝心の塔の戦いに関しては、初戦は相手がほとんど無防備な状態だった事に不安になったが、今日の結果を受けて多少安心したペドロ国王だった。
報告を終えて部屋から去るカミロを見送ったペドロは、すぐに別の者と対面をしていた。
その相手とはアーダという巫女で、神殿所属の巫女である。
ただ、アーダ自身は過去に助けてもらった恩を王国に感じているため、神殿よりは王国自体に忠義を置いている。
そのことがわかっているため、ペドロ国王も他の神官や巫女よりもアーダを重用していた。
だが、今回は嫌そうな表情をアーダへと向けた。
「なんだ。また塔の件でお小言を言いに来たのか? 何度も言うが、結果を出すまでは止める気はないぞ?」
アーダは最後まで今回の制圧戦に反対していた。
それは勿論、相手となるアマミヤの塔の支配者が、現人神であるという事も関係している。
とはいえ、とある理由により、その主張は本人が取り下げていたはずだった。
そんなペドロ国王に対して、アーダは首を左右に振った。
「いいえ。違います。以前も言った通り、通常通りの手続きを踏んだうえでの制圧戦は、特に問題ないと神託を得ているようですので、それについては私はこれ以上何も言いません」
そうアーダが言った通り、今回の制圧戦に関して神々は、相手が現人神であるからといって介入してくるつもりはないと神託を授けていた。
そして、それがあったからこそ、ペドロ国王も今回の制圧戦を行う事を決定したのである。
「ほう? では今日はなんだ?」
「新たな神託を得ました」
「なに!?」
聞き捨てならないことを言い出したアーダに、ペドロ国王は片眉を吊り上げた。
今さら中止しろと神々が言い出したのかと警戒したのである。
だが、アーダが得た神託は、そうした心配とは無縁のものだった。
予想外のことを言い出したアーダの言葉を聞いて、ペドロ国王はすぐに傍にいた者に指示を出すのであった。
さらりとコレットの問題に気付いていたシルヴィアでした。
何となく今回の話で、コレットがどういった状態になっているかわかる方もいるのではないでしょうか?w
一方のサント・エミンゴ王国側の話です。
アマミヤの塔についてかなりの情報を得ている王国ですので、塔を奪い取ろうなんてことはかけらも考えていません。
利になるところでさっさと引き上げるつもりでいます。
現実主義者らしい国王です。
考助も考助なので、お互い様といえるかもしれませんねw




