(5)第二戦
第一戦が終わった後は、丸一日準備期間が設けられている。
準備期間は、新たに召喚するモンスターを増やしたり出来る期間だが、これもまた自由に設定することが可能になっている。
今回は一日サイクルで戦闘と準備を繰り返していたのだが、それをそのまま受け入れた形になる。
「今日は何もしないの?」
特に何もする様子も見せずに、くつろぎスペースでだらけていた考助に、コレットが確認して来た。
「うん。一応初級モンスターは増やす予定だけれどね。別に今すぐじゃなくてもいいかな?」
眷属以外のモンスターを下手に増やすと、縄張り争いをし始めるので一定数以上を増やしても意味がない。
勿論、制圧戦の為だけに一時的に増やすだけと割り切ってしまっても良いが、それをすると後々生態系に大きな影響を与えてしまう。
勝ちに行っているならともかく、実験の段階でそんな無茶な真似をするつもりは考助には無い。
「明日も負ける予定なの?」
「出来るなら、ね。流石に二回連続で昨日みたいな戦い方をしたら、こっちの思惑がばれるだろうし」
「ふーん」
何となく納得のいかないような表情になったコレットに、考助は笑顔を見せた。
「納得いかない?」
コレットの顔は、色々実験するためとはいえ、負けるのは悔しい、といいたげなものだった。
考助の問いかけに、ばつが悪そうな表情になったコレットは、少しだけ視線を彷徨わせたあとに頷いた。
「正直に言えば。勝とうと思ったら勝てるよね?」
「多分ね。ただ、それだとどうしても分からないことがあるからね。あと何回かは負けるつもりだよ」
「そうなの?」
「うん。色々調べるのには、今がチャンスだからね」
圧倒的な力で勝ってしまえば、相手が無理だと考えて何もしてこなくなる可能性がある。
それでは意味がないのだ。
そのため考助は、序盤の何回かは出来る限りきれいに負けるつもりでいた。
相手に勝てると思わせるのが重要なポイントである。
そんなことを話していると、シュレインが部屋に入って来た。
「コレット。コウスケは後々の為に、色々と調べておるのだろ。あまり我が儘を言うでない」
「それは分かっているんだけれどね」
コレットとしても頭ではわかっていても、心が納得できないといった感じなのだろう。
本気で勝ってほしいと主張するのであれば、先ほどのような中途半端な言い方はしてこない。
「まあ、今の状態は最初のうちだけだと考助もいっておるのだから、しばらくは見ることに徹してはどうだ? もしくは、コウスケが負ける所を見るのがつらいのであれば、見なければよかろう?」
「そうなんだけれどねー」
コレットは少しばかり拗ねた表情になって、唇を尖らせた。
自分の知らない所で考助が負けるのも嫌だと言ったところだろう。
何とも微妙な乙女心(?)に、考助とシュレインは何とも言えない表情になった。
これ以上は長引かせてもいけないと判断した考助は、きっぱりという事にした。
「とにかく、この後何回かは負けるつもりだから。これはもう決定で、変えないよ」
「分かったわよ」
考助が断言すると、コレットは渋々といった感じでくつろぎスペースを出て行った。
その姿を見送った考助は、首を傾げながらシュレインを見た。
「コレット、何かあったのか?」
「ふむ。確かにいつもと様子が違っておるの」
いつものコレットであれば、今のようにグダグダとした態度を取ることはほとんどない。
管理層で一緒に過ごすようになってから十年以上たつが、考助もシュレインもほとんど初めて見るような態度だった。
「ここ最近変わったようなことは起きてなかったと思うけれど・・・・・・?」
「そうだの。確かに言われてみれば気になるの。他の者にも伝えて、しばらく注視することにしようかの」
「ああ、それがいいね。頼むよ」
シュレインの心強い言葉を聞いて、考助は安心したような表情を見せた。
その考助の顔を見たシュレインは、内心でホッとしていた。
今は、塔にとっては大事な時期だ。
出来る限り考助に余計な負担は掛けない方がいい。
どうにか考助の中にあるコレットの不安事が取り除けたようなので、シュレインも安堵したのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
制圧戦の二戦目も相手は同じような攻撃をしてきた。
数で圧倒する作戦だ。
今度は同じような負け方をするつもりがない考助は、ある程度のモンスターを召喚してある。
ただし召喚したといっても、初級モンスターでしかも眷属ではなく普通の召喚陣からの召喚だ。
先日の相手と同じように数で防ぐ作戦だった。
初戦と同じように開始時間ぴったりに相手のモンスターがアマミヤの塔側のフィールドに攻めて来た。
画面で見ている限りでは、初戦と全く同じ攻め方をしてきている。
「あれ? 流石に全く同じという事はないと思ったんだけど?」
初戦の時は、相手はマップ上の右上から攻めてきていた。
そのため、今回はその地点に集中的にモンスターの召喚を行っている。
今のところ、相手は全く同じように攻めてきているように見える。
「・・・・・・ふむ。全く同じように見えるな」
画面を見ていたフローリアが、訝し気な顔で首を傾げた。
流石の彼女も全く同じパターンで来るとは思っていなかったのだ。
ついでに言えば、地上の戦争でも数だけ揃えて全く同じ攻撃パターンで攻めることなどほとんどない。
あるとすれば、自軍の数が圧倒的に多いと確信している時だけだろう。
「え? ほんとにそれだけ?」
何か工夫をしてくるだろうと考えていた考助の予想を裏切って、事態は刻々と進んでいく。
相手が攻めてくるパターンは相変わらず初戦と変わっていない。
そして、このままだと防ぎきってしまうと考助が内心で焦り始めたころに、事態が動き出した。
大まかな位置関係は変わっていないのだが、明らかにアマミヤの塔側のモンスターの数が減りだして来たのである。
「ん? ・・・・・・ああ、そうか。なるほどね」
考助は、画面を拡大してようやくその理由に気付いた。
「中級を混ぜて投入しだしたのか」
フローリアもその様子を見ながら納得したように頷いている。
基本的に数で押しているのは違いが無いのだが、特定の場所に中級モンスターを集中させることによって、そこから突破口を開いていた。
考助が防衛用に用意しているのは、あくまでも初級モンスターだけなので、中級モンスターを集中させている地点では勝つことはできない。
いずれは中級モンスターが集まっている所から食い破るという作戦なのだろう。
「問題は、こちら側のモンスターの構成を見て変えて来たのか、それとも最初からそのつもりだったのか、かな?」
「そうだの。普通に考えれば、こっちの陣を見て構成を変えて来たと考えるべきかの」
画面を見ている限りでは、例え中級モンスターといえども多くの初級モンスターに囲まれれば負けている所もある。
だが、それはあくまでも部分的な出来事であって中級モンスターの集団が初級モンスターを圧倒しているのには変わりが無かった。
今は初級モンスターの方が数が多いが、数を減らされて行くのは時間の問題だった。
今回の戦闘では、わざと負けていることがばれないように、途中からの召喚も多めに行っておいた。
多めといっても現在のアマミヤの塔では、初級モンスターの召喚陣はいくらおいても大した消費にはならない。
あえて初級モンスターだけにしているのは、今のアマミヤの塔が召喚できるのがそれだけだと相手が誤解してくれれば儲けもの、という考えもある。
それはともかく、今回の戦いで相手もただ数だけで攻めてきているわけではないという事が分かった。
そのお陰でまた色々な分析が出来るようになった。
今の所の予定では、この調子であと二戦は負けるつもりでいる考助なのであった。
順調に第二戦も負けました。
最後に書きましたが、考助はあと二回負けるつもりでいます。
そして、コレットの様子が少しおかしいです。
その理由は、また後日になります。




