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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5部 第1章 塔同士の戦い
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(2)塔外戦

 考助を中心に「制圧戦」の準備が進められている中、サント・エミンゴ王国についてもっと詳しく情報を得るため、管理層にアレクが呼ばれた。

 フロレス王国の王子だったアレクの方が、自分よりも詳しく知っているだろうというフローリアの助言があったためだ。

 宣戦布告を受けて二日の準備期間があるが、用意することはいくらでもある。

 そんな状況で管理層に呼ばれたアレクは、様子がいつものまったりとした雰囲気ではないことに気が付いた。

 その珍しい状況に、単に自分と会うために呼んだわけではないと察したアレクは、気を引き締めて考助の顔を見た。

 アレクの視線を受けた考助は、少しだけ苦笑をした後、話を切り出した。

「そんなに固くならないでください。少し聞きたいことがあったので来てもらったんです」

「聞きたいこと、ですか」

 そう言った小首を傾げたアレクに、今度はフローリアが話し出した。

「聞きたい事というのは、サント・エミンゴ王国についてだ。父上」

「サント・エミンゴ王国・・・・・・ということは・・・・・・!?」

 フローリアの言葉だけで、アレクはアマミヤの塔が現在置かれた状況に気付いたようだった。

 ハッとした様子を見せたアレクに、考助は一つ頷いた。

「ええ。今回は、<サリタの塔>がアマミヤの塔に戦いを仕掛けてきました」

「なるほど。あの国も本当に懲りないな」

 アレクはそう言って半分呆れた様子を見せた。

 

 サント・エミンゴ王国については、さすがというべきか、フローリアよりもアレクの方が詳しく事情を知っていた。

 塔の支配権を巡って争いを行い、そのたびに国を大きくしてきた、というフローリアの認識に間違いはないのだが、少しだけ間違っている所もあった。

 確かに過去の争いでサント・エミンゴ王国が多くの塔を支配していたのは間違いではない。

 サント・エミンゴ王国の歴史の中では、もっとも多い時で五つの塔を支配をしていたこともある。

 ただし、現在ではその内の二つの塔の支配権は失われてしまっている。

 支配権を失った理由は、全くと言っていい程外には情報が流れていないので、他国の王子だったアレクには分かっていない。

 一つだけ確実なのは、国同士あるいは塔同士の争いで失われたわけではなく、引き継ぎが上手くいかなかったのではないかとも言われている。

 もっとも、その情報も不確かなもので、敢えてサント・エミンゴ王国側が流したのではないかという憶測もある。

 

 そうした話をアレクから聞いた考助は、なるほどと頷いた。

「最近では塔同士の争いは行われたことはないけれど、昔は頻繁にやっていた?」

「その認識で間違いないだろうね。当然、独自の戦い方も現在に伝わっていると思った方がいい」

「なるほど」

 宣戦布告の内容を見る限りでは、アレクの推測は当たっていると思った方が良いだろう。

 そうでなければ、あそこまで詳細な条件設定はしてこないはずだ。

 ついでに言えば、前もって送ってきていたメッセージで、こちら側がサント・エミンゴ王国側の戦い方の詳細を知っているのか探っていた形跡もあった。

 メッセージについては、まるっきり無視をしていたので、アマミヤの塔側の情報を詳細に知られたとは思っていない。

 しかしながら、ある程度推測できることもあるだろう、というのが皆の一致した見方だった。

 

 納得したように頷いている考助を見て、アレクが聞いてきた。

「大丈夫なのか?」

「うーん。よくわからない、というのが本音ですね。何しろ初めての戦いなので」

「初めて? 以前の時は?」

 アレクが言う以前というのは、ゲイツ王国の騒ぎの時のことを指している。

 そのアレクの問いかけに、考助は首を左右に振った。

「あの時とは、戦い方の条件が違っていますから」

 バッヘムの塔の時の戦いは「制圧戦」ではなく「攻略戦」だった。

 一言で言えば、コウヒ一人を送り込んで塔を第一層から順番に攻略していけばよかったのだ。

 今回の「制圧戦」とは全く条件が違うことを説明した。

 

「ふむ。なるほどな。どれ、私の方からも少し牽制しておこうか」

「牽制?」

 アレクが言った意味が分からずに、考助は首を傾げた。

「何。祖国を通して少しばかり警告をね」

「・・・・・・大丈夫なのですか?」

 考助の確認に、アレクは肩を竦めた。

「フロレス王国には多少の借りを作ることになるが、この程度であれば大したことではないさ。それに、いくら塔同士の争いとはいえ、秘密裏に終わってしまっては勿体ないからね」

 アレクの言葉は、敢えて国家間の争いにすることによって、他に得る物を増やそうという狙いがある。

 勿論、アレク自身はアマミヤの塔がサリタの塔に負けるなんてことは、欠片も考えていない。

 そうした意図が透けて見えた考助は、苦笑を返した。

「いや。まだ必ず勝てるとは限らないのですが? 何しろ、初めての戦いですし」

 そう言った考助に、アレクは無言で圧力をかけて来た。

 その圧力に負けた考助は、更に一言付け加える。

「・・・・・・まあ、負けるつもりはありませんが」

 当たり前といえば当たり前の答えに、アレクは笑顔を見せて頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 城に戻ったアレクは、トワの許可を取った上で、早速フロレス王国のマキシム国王へと連絡を取った。

 フロレス王国への直通の通信具は、元々はフローリアが持っていた者だが、今はトワがその権利を引き継いでいる。

 トワがフローリアから王位を引き継いだ時には、そうした権限の委譲が多く行われた。

 下手をすれば、国家の運営に支障をきたすような道具もあるので、一番最初に優先されたといってもいいだろう。

 今後、ラゼクアマミヤの王位に立つ者は、それらの魔道具を正常な状態で引き継いで行くのが一番の優先順位となりそうだった。

 

 フローリアから道具の類を引き継いだことを思い出していたトワは、それどころじゃないとアレクとマキシム国王の会話に集中することにした。

 といっても二人の会話は始まったばかりで、トワがトリップしていたのはほんの一瞬の事だった。

「久しぶりに連絡が来たかと思ったら、お主か」

「お言葉ですね、マキシム国王。折角面白い情報を持って来たのですが」

「ふむ。聞こうか」

 じゃれ合うような二人のやり取りは、トワにとっても新鮮だった。

 そもそもこの通信具をアレクが使う事はほとんどない。

 今回は、直接話を考助から聞いたのと、サント・エミンゴ王国の事を良く知っているという意味でアレクが話をすることになったのである。

 

 アレクから一通り説明をきいたマキシム国王は、顎を撫でながら考え込むような表情になった。

「それで? 私に何をしてほしいのだ?」

「特別に表だって動いてほしいという事ではないさ。ちょっとした会話で噂を流してほしいだけだ」

 アレクのその言葉を聞いて、マキシム国王はニヤリと笑った。

 マキシム国王にもアレクの目論見が分かったのだろう。

 今回はあくまでも塔同士の戦いであって、国には関係がない。

 だが、塔の支配権をめぐっての争いであるだけに、全くの無関係とはいえないのだ。

 当然、その影響は他国にも及ぶ。

 そうしたことを考えれば、サント・エミンゴ王国に対してちょっとした牽制をすることはできる。

 漁夫の利を得るほどの影響はないが、小さな利益を得ることは可能になる。

 それは別に、フロレス王国がラゼクアマミヤの側につかなくても実行できる。

 どちらの立場にも立たないように、微妙な立ち位置を維持する必要があるが、それこそそうしたことは国家を運営していく上で必須のスキルと言って良い。

 国王という立場についているマキシム国王にとっては、幾度となく行っている事だった。

 

 こうして宣戦布告で始まった塔の戦いは、塔の中だけではなく外でも繰り広げられることになるのであった。

アレクがちょっとした楔を打ち込んだ話でした。

フロレス王国が特に何かをするというわけではありませんが、完全に秘密裏にことが進むよりは後処理が楽になります。勝った場合も負けた場合も。

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