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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4部 塔のあれこれ(その11)
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(2)姉と弟

 ココロはゆっくりと意識を覚醒させていった。

 神々との対話を行うための修業を行っていたのである。

 最初は苦労していた神々との対話だが、三柱の加護を得て、さらには考助の加護を得ているココロにはさほど難しいことではなくなっていた。

 今では、よほどのことが無い限り失敗はしない。

 ココロの修業を見守っているシルヴィアに言わせれば、自分よりも遥かに上回る才能、という事になる。

 もっとも、三柱の加護を得ているココロは、既に前例がない程の才知なのだが。

 ただし、遥か過去をさかのぼれば、複数の神々の加護を得ていた者もいないわけではない。

 ココロもまた、そうした者たちと同じ段階に並び立ったとも言えるのである。

 

 意識の覚醒を終えた後も、すぐに目を開けてしまえば事故の原因になる。

 ただ事故といっても、めまいが起きたり、貧血のような症状が起きたりするような軽い現象が肉体に起きるくらいの軽い物だ。

 普段はゆっくりと体調を整えて目を開いていくのだが、この日は思わず失敗してしまった。

「姉さま!」

 という、ルカの声に思わず反応してしまい、すぐに目を開けてしまったのだ。

 案の定、めまいを覚えてすぐに目を閉じ、こめかみに手を当てた。

 最近は少なくなったとはいえ、以前はよくやっていた失敗なので、対象方法も慣れている。

 めまいが起こったことにより具合が悪くなるが、これは完全に自業自得だ。

 何とか体調をいつものように整えて、ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに自分を覗き込むルカの姿があった。

 

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 ルカは普段からシルヴィアに、修行中のココロに不用意に話しかけてはいけないと言われている。

 それなのに、早く姉に聞きたいことがあってつい声をかけてしまった。

 神々と対話をしている最中であれば、精神集中しているためにルカの呼びかけにも答えることは無かっただろうが、タイミングが悪かったとも言える。

 相変わらず心配そうに見てくるルカに、ココロは心配するなと首を縦に振った。

「心配しなくても大丈夫です。声をかけられても普段通りにすべきだったのに、出来なかったのです。私の修業不足です」

 そう言ったココロは、一度大きく深呼吸をしたあとで、ゆっくりと立ち上がった。

 まだ多少ふらつくが、思ったよりは体に負担はかかっていなかった。

 立ち上がったココロは、ルカを安心させるようにニコリとほほ笑んだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ルカがココロに話があるという事で、場所を移して聞くことにした。

 先程までいた場所は、ココロにとっては神聖な場所だ。

 ついでに言えば、神々に見られているような感覚を覚えるので、落ち着いて話を聞くことなど出来ない。

 修行のために着ていた巫女服のまま、ココロはルカに視線を向けた。

「それで、どうしたのです?」

「姉さまに聞きたいことがあったのです」

 ルカが自分に何か聞きたいことがあるというのは、ココロも最初から分かっていた。

 視線だけで先を続けるようにルカに促した。

「これは、どうやったら使えるのでしょうか?」

 ルカはそう言って、ブレスレット状になった物を差し出して来た。

 

 それを一目見るなり、ココロは目を丸くした。

「何を言っているのですか。これは神具です。貴方が使えるわけないでしょう?」

 ルカが差し出して来たのは、シルヴィアが普段使っている神具の内の一つだ。

 正確に言えば、昔考助から渡されて使っていた物だった。

 今では新しい神具を考助から渡されていてほとんど使っていないとはいえ、ココロからすれば貴重な神具の一つであるには違いが無い。

 よくもまあ、実の息子とはいえ、そのような重要な道具を気軽に渡すものだと、内心で呆れた。

 だが、ルカが持っていた感想は、ココロが思っていたものとはまた別の物だったようだ。

 首を左右に振ってから、ココロに向かって言って来た。

「そんなことはありません。この道具に込められた魔法陣は私が使えるように全て書き換えました。・・・・・・でも、それでも使えないのです」

 その言葉で、ルカが何を言いたいのか分かり、ココロは内心でため息を吐いた。

 

 ルカが言いたいことは分かる。

 もしルカが持っている物が魔道具であれば、言っていることは全く正しい。

 重要な魔道具は通常、使える者が限定されるように制限がかけてある。

 だが、その制限もきちんと魔法陣を解析して書き換えてしまえば、使えるようにすることは出来る。

 もっともそれは、裏技に近い上に普通はそのようなことは出来ない。

 あくまでもルカの技術と才能があるからこそ出来ることだ。

 残念ながら、今ルカが手にしている神具はそれには当てはまらない。

 ココロにしてみれば、それはごく当たり前のことだったのだが、ルカにはそれが分からなかったようだ。

 さてどうしたものか、とココロは内心で悩んだ。

 今までのルカはそれでよかったのだろうが、あるいは今後は神具の本質も知らないといけないのかもしれない。

 そこまで考えたココロは、ふと疑問に思ったことをルカに聞いた。

「そう言えば、その神具はどうしたのですか?」

「母様に確認をして、父様からもらいました」

 そのルカの答えを聞いて、ココロは確信した。

 二人の父親である考助は、ルカに今よりさらに上を目指せと言っているのだと。

 

 どうしようかと少しだけ悩んだココロは、はっきりと事実を伝えることにした。

 今のルカは、魔法陣に関しては少しばかり天狗になっているようにも見える。

 事実、それだけの実力を持っているのだから、周りの人間も止めようがない。

 そのために考助が用意した壁だと思うことにした。

「魔法陣で制限された使用者をルカに変更すれば、その魔道具を自分の物として使う事が出来る。これはいいですね?」

 ココロの説明に、当然だろうという表情でルカが頷いた。

 だが、次のココロの言葉に、その表情は凍り付いた。

「ですが、それでは神具は使う事はできません」

「・・・・・・な、なぜですか!?」

 悲鳴のような声を上げたルカに、ココロは困ったような表情になった。

 ココロにとって当たり前のことだが、ルカにどのように説明すればいいのか、分からなかったのだ。

 

 困ったココロは、たとえ話をすることにした。

 魔道具を作れる者たちは、時に凄腕の魔法使い以上の道具を作り出すことが出来る。

 例えば、一流の魔法使いが修めた魔法を魔法陣に込めて道具として扱うといった具合に。

 効果としては全く同じなのだが、ここで魔道具職人が陥る落とし穴がある。

 まるで自分自身がその魔法を扱えるようになったかと錯覚してしまうのだ。

 確かに結果としては同じなのだが、そこには大きな差がある。

 魔法使いはその魔法を使うために、様々な修行を積んでいる。

 勿論、魔道具職人も道具を作るための技術や力を学んではいるが、それは魔法使いとは全く違うものなのだ。

 

 ココロのたとえ話に、ルカは納得したような出来ていないような微妙な顔になった。

 その話は魔道具職人を目指す者にはよく聞かされる話なので、ルカもよくわかっている。

 だが、その話と今回の件が微妙に結びつかない。

「・・・・・・魔道具と神具は全く違ったもの、というわけですか?」

「いいえ、そうではなく・・・・・・。そうですね。神具は神力を使っている魔道具の一種というのは分かりますよね?」

「はい」

「では、神力とはなんですか?」

 そのココロの問いかけに、ルカは虚を突かれたような表情になった。

 ココロから見て、今の今までそのことは全く考えていなかったという顔になっている。

 それを確認したココロはため息をはいて言った。

「まずはそこから考えないと駄目でしょうね」

 ルカは神力を扱っている道具であるからこそ神具と呼ばれるのに、そのことを全く理解しようとしていなかった。

 もっともこれは、神力という力が一般には全く知られているものではない、という事にも一因がある。

 とはいえ、神具の事を学ぼうと思うのであれば、当然神力の事を知っていないと話にならない。

 取り合えずはそこから始めようとルカに言うココロなのであった。

ルカが壁にぶち当たりました。

今更といえば今更な内容なのですが、乗り越えられるかどうかは本人次第です。

魔法陣だけに固執してしまえば、越えられない壁となります。

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