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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4部 貴族
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(4)それぞれの結末

「ば、馬鹿な・・・・・・」

 先日、ミアと面会をしていた男は、目の前で起こっている光景に思わずそう呟いた。

 そこでは彼の仲間たちが、ラゼクアマミヤの兵士たちに追い立てられていた。

 突然の兵士の乱入に、彼らが混乱しながら逃げまどっているのがわかった。

 途中までは上手くいっていたはずなのだ。

 自分たちの行動を正当化するための旗頭になるべく、ミア王女の了承も取り付けることに成功した。

 そして、計画が進み全ての仲間が集まって、そのミア王女との話し合いを行おうとした矢先に、この騒ぎが起こったのである。

 

 呆然としている男に対して、すぐ傍にいたミアがつまらなそうに言った。

「何故そんなに驚いているのかしら? 既に証拠もそろっているのですから、こうなるのは当然でしょう?」

 そう言ったミアに、男が噛みついてきた。

「だ、だが、こうなってしまっては、お前もただでは済まないはずだ!」

 既に男もこの状況がミアによって導かれたという事は分かっている。

 ミアのすぐ隣に、トワがいることからもそれが裏付けられる。

 ただ、男がいまだにわからないのは、ミアのことだ。

 男がこうなるまでミアを信用していたのは、既にミア本人が処分を受ける所まで首を突っ込んでいたからだ。

 最初からそのつもりだったかは男には分からないが、いくらなんでもミアが身を犠牲にしてまで自分たちの計画を止めるとは考えていなかったのである。

 混乱する男に、ミアはにこりと笑って言った。

「そうねえ。それについては、貴方に感謝しなくてはね」

「・・・・・・なに?」

 予想外のその言葉に、男は首を傾げた。

 言っている意味が分からなかったのだ。

 そんな男に、ミアは肩を竦めて言った。

「だって、お陰でしばらくは政治なんて言う面倒事から離れることが出来るのですもの。・・・・・・そうですよね?」

 最後の確認の言葉は、トワに向けられていた。

 実妹の視線を向けられたトワは、苦々しい顔で頷いた。

「ああ。残念ながら処分としてはそうなるだろうな。・・・・・・有能な妹の手が借りられなくなるのは痛いが」

「あら。仕方ありませんよ。だって、私は悪辣非道な輩に手を貸してしまったのですもの」

 悲しそうな表情で言ったミアに、トワは苦笑を返した。

 勿論ミアのその表情が演技であることは見抜いている。

「まあ、この者らが悪辣非道かは置いておくとして、外患誘致罪が適応されるのは確実だな」

 トワはそう言いながら右手に持った書類をひらひらとさせた。

 それは、先ほどまで男とミアがやり取りをしていた書類の一部だった。

 そこには明らかに国外の勢力と手を組んでいるような内容が書かれているのだ。

 間違いなく決定的な証拠となる書類だった。

「そうですよね。それで? 私の罰はいかほどになるでしょうか?」

 そのミアの言葉に、トワは渋い顔をしながら答えた。

「そうだな。・・・・・・塔のとある(・・・)場所にしばらく引きこもってもらう事になるだろうな」

「まあ! それは残念ですね」

 表情自体は悲しそうな顔になっていたミアだったが、トワにはそれが全く残念そうには見えなかった。

 どう見ても内心では喜んでいるのがわかった。

 

 そんな二人の会話を聞いて、男はようやく状況を理解して顔を赤くした。

「まさか、最初から・・・・・・!?」

 どう見ても計画通りといった様子の二人の会話に、ミアが最初からこうするつもりで自分に接触してきたことがわかったのだ。

 憤然とした様子の男に、ミアはそちらの方を見て肩を竦めた。

「さあ? どうでしょうね?」

 最早男のことなどどうでもいいといったその態度に、男はさらに顔を赤くした。

「き、貴様!」

 持っていた剣に手を掛けた男だったが、それはすぐに周りに立っていた兵に止められた。

 王太子であるトワが出張ってきているのだ。

 当然、その親衛隊もついてきている。

「もういいよ。さっさと連れて行って」

 トワがそう言うと、親衛隊はすぐにその男を他の者たちを連れて行っている兵の元へと連れて行った。

 一応男がリーダーとして動いていたので、様子を見るために特別扱いしていたのだ。

 その必要も既に無くなったので、他の者たちと同じように引っ立てたというわけだ。

 それを見ていたミアが、ポソリといった。

「これで、残念ながら私は城に顔を出すことが出来なくなりましたね」

 そういったミアの顔を見ていたトワがため息を吐きながら言った。

「出来ることなら、言葉と表情を一致させて言ってほしかったな」

「あら嫌ですわ、お兄様。きっと気のせいですよ」

 ホホホ、とミアはわざとらしく口の前に手を当てるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 北の街での捕縛劇があった数日後。

「ば、馬鹿な」

 サラニ王国のエヴゲニー国王が、二通の封書を手にして振るえていた。

 その二通の手紙は別のところから届いたものだったが、内容はほとんど同じことが書かれていた。

 簡単に言えば、サラニ王国との取引を停止するというものだった。

 差出してきたのは、ラゼクアマミヤ王国とクラウンだ。

 クラウンは組織の対応として出してきているが、ラゼクアマミヤは国家としてサラニ王国との取引禁止措置をとるという外交的な連絡だった。

 北の街がラゼクアマミヤに取り込まれてからの間、クラウンとの取引で多くの利益を得て来たサラニ王国にとってはかなりの影響がある。

 正確な数字は部下に命じて計算させないと分からないが、相当な数字が出てくるのは頭の中の計算だけでもわかる。

 さらに追い打ちをかけているのが、取り引きの停止だけではなく、クラウンの支部を北大陸の別の国家に作ると書かれていることだ。

 このことによりラゼクアマミヤもクラウンも、今回の取引停止の影響が全くなくなることがわかる。

 今までは船で取引していた分、転移門という時間と距離の制約が無くなってそれ以上の成果が出るかもしれない。

 エヴゲニー国王にしてみれば、寝耳に水の事態だった。

 すぐにこの事態に対処するために動かなければならなかった。

 

 同じころ。

 青の教会では、教主がエヴゲニー国王と同じように手紙を持って打ち震えていた。

 こちらは、北の大陸に存在する他の教主たちからの連名の手紙だった。

「ば、馬鹿な」

 くしくも国王と同じセリフを吐いた青の教主だったが、衝撃の度合いは教主の方が大きかったかもしれない。

 その内容は、青の教主としての席を他に譲るか、もしくは青の教会が他の九教会から離別するかを迫る内容だったのだ。

 全く予想していなかった事態に、青の教主は頭が真っ白になった。

 ただ、そんな状態でも何故こんな事態になったかは予想が出来た。

「ラゼクアマミヤ・・・・・・。そして、クラウン・・・・・・か」

 個人として優れたものがいるのか、あるいは組織として優れているのかは分からない。

 だが、青の教会以外の九教会を一斉に動かすほどの影響力を持つことになるとは思っていなかった。

 何処で計算を間違えたのか、と青の教主は考えたが、いくら考えても分からなかった。

 どうしようもない所まで自分が追いつめられている、という事だけはわかった。

 こうして連名で書面を送って来たという事は、いずれは正式に発表されるだろう。

 例え教会内で情報を押えたとしても、いずれは噂となって教会内に入ってくることは分かる。

 そうなれば、例え青の教主が今の椅子にしがみついていても引き摺り下ろされるのは目に見えている。

 どちらにしても詰んでいるという状況に、青の教主はガックリと肩を落とすのであった。

あっさりと片づけてしまいました。

特に散々裏で色々やって来た青の教主がこれでいいのかと言われそうですが、これでいいんです!w

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