(後)まさかの結果
シュレインがそれに気づいたのは、ほんとに偶然のことだった。
色々と悩んでいるうちに魔が差したといってもいいだろう。
最初は「まさか、そんなわけは」と言って笑い飛ばしていたのだが、目の前に出てきた結果を見て、しばらくの間呆然としてしまった。
だが、間違いなく制御盤の画面上には<魔力石が発生しました>と表示されている。
その石が先日考助やコレットと話に出たアイテムかどうかは分からないが、ひょっとするとひょっとするかもしれない。
その結果とその石を作る過程に、普段のシュレインではありえない程に思考が停止してしまったのである。
取りあえず気持ちを落ち着かせたシュレインは、もう一度結果を確認して間違いなく<魔力石>が出来ているのを確認した。
「まさか、そんな理由とはの」
ポツリと呟いたが、今北の塔の制御室にはシュレインしかいないので、その言葉を聞く者は誰もいなかった。
一つ大きくため息を吐いたシュレインは、結果をコレットに報告するため南の塔の制御室に向かった。
「コレット、いるかの?」
ノックしてからそう声をかけたシュレインは、部屋の奥から返事が来たのを確認してドアを開けた。
「どうしたのよ?」
普段滅多に他の制御室に来ることは無いシュレインに、コレットが不思議そうな顔で聞いてきた。
それに加えて、珍しくシュレインの顔が疲れたような状態になっているのもある。
「いやなに。先日コウスケと話をしたアイテム、だと思うが作り方が分かった」
「ほんと!? ・・・・・・それで、どうしてそんな顔になっているのよ?」
「その作り方が、な。なんで今まで思いつかなかったというか、そんなことで、というか・・・・・・の」
「?」
何とも言えない顔でそういったシュレインに、コレットは首を傾げている。
そんなコレットに対してシュレインが説明を始めた。
そのシュレインの説明を聞いたコレットも微妙な顔になっている。
それもそのはずで、北の塔の階層で魔力が凝った場所にある泉に、<ただの石>を入れると<魔力石>が作れるというのが手順なのだ。
南の塔では聖力が凝っている場所、という事になる。
場所はともかくとして、使うのが<ただの石>というのが二人をこんな表情にさせている原因だった。
二人とも、というか考助以外の全員が、<ただの石>はただの石だと思っていたので、それも当然だろう。
説明を聞いたコレットがため息を吐いた。
「・・・・・・とにかく、こっちでもやってみましょう」
「そうだの。その方がいいだろう」
コレットの提案に、シュレインも頷いた。
まずは南の塔にある階層で、聖力が凝っている場所を探し出すことから始める。
もっともこれはさほど手間がかかるわけではない。
制御盤の画面上で、俯瞰した状態で探し出すことが出来るためだ。
そうして探しだした場所で、北の塔と同じようにさらに泉を探し出す。
入れるのは石なのでさほど大きくなくても良いため、適当な大きさの泉の中に<ただの石>を投下した。
すると、シュレインが実行した時と同じように、しばらくして制御盤に<聖なる石が発生しました>とメッセージが現れた。
「・・・・・・あ~。当たりみたいね」
「・・・・・・そのようだの」
二人揃って喜びよりも疲れの方が大きく見えるのは、やはり使っているのが<ただの石>だったという事からだ。
この結果を報告した時の考助の喜びようが予想が付くのもその一因だろう。
「ところで、この石が<神石>と同じようなものだっていうのは、きちんと確認した?」
「あ、しておらんな。過程が過程だっただけに」
「その気持ちは良くわかるわ。取りあえず、眷属たちのいる泉に<神石>と同じように放置してどうなるか、確認してから報告しましょう」
「うむ。そうだの。そうしようか」
コレットの提案に、シュレインも頷いて同意するのであった。
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結論から言えば、成功した。
<魔力石>を入れた泉は<魔力の凝った泉>に、<聖なる石>を入れた泉は<聖なる泉>に変化したのである。
その結果を持って、シュレインとコレットは考助に報告することにした。
「・・・・・・と、いう結果が出たぞ」
「へー。なるほどね」
報告を受けた考助は、二人の予想とは違って意外にも落ち着いていた。
「あれ? 意外にも騒がないのね」
思わずコレットがそういったが、考助は首を傾げて「ああ」という顔になった。
「<ただの石>の事?」
「そうよ」
「う~ん。まあ、あからさまに怪しかったからね。・・・・・・ああ、そうか。ひょっとしたら<神水>にいれたら<神石>になるのかな?」
「試してなかったの?」
そういった考助に、コレットが首を傾げた。
あれだけ考助が色々やっていたのを知っているコレットとしては、逆にそちらの方が不思議だったのだ。
「いや。色々試しすぎて、やったかやってなかったか忘れた」
そんなコレットに対して、考助は苦笑を返した。
勿論、試したことはメモに取ってあるのでそれを確認すればわかるが、そのメモは常に持ち歩いているわけではないのだ。
考助が<ただの石>を使って色々やっていることを知っているシュレインとコレットの二人は、納得したように頷いた。
「まあ、あれだけいろいろやっていれば、当然だの」
「そうよねえ」
どう見ても褒めているというよりも呆れているその二人の表情に、考助は苦笑を返すしかなかない。
「結果からすれば、アマミヤの塔の場合は最初から<神石>があったけど、他の塔にはそうした物が無いからひと手間必要になるってことだね」
あからさまな考助の話題転換だったが、シュレインは特に気にした風もなく頷いた。
「そういうことだの」
「と、言うことは、四属性の塔も似たようなことが出来るのかな?」
「かもしれないわね。試してみないと分からないけれど」
四属性の塔は、現状ではそれぞれの宝玉が存在しているために、属性に合わせた進化も出来ているが、今後は同じような物が必要になるかもしれない。
試してみる価値は十分にあるだろう。
「まあ、四属性の塔はともかくとして、聖魔の塔はちゃんと拠点に泉は用意してあるんだろう?」
「うむ。ちゃんとここと同じようにしておいた」
「南も同じね」
アマミヤの塔にある眷属たちの拠点に<神水>があるように、聖魔の塔も同じようにそれぞれの属性の泉を各所に用意してある。
その眷属が塔LVのアップに必要な進化を行うのかわかっていないので、複数の眷属たちの拠点に置いてある。
魔力や聖力が凝っている場所は多くあるので、それぞれの石を作るのにも置くのにもさほどコストはかからないのだ。
「そう。だったら後は結果を待つだけかな?」
「そうなるの。もっとも、そもそも今回のこれが正しいかどうかは分からんが」
「それはそうだろうね。まあ、やってみて駄目だったらまた他の方法を探せばいいさ」
シュレインの言葉に頷いた考助はあっさりとそう言った。
今までも散々色々試して失敗してきているのだ。
今更それが一つ増えたところでどうという事は無いのである。
今回の発見は、聖魔の塔の属性に関係のありそうなアイテムが発見されたことで、眷属たちの進化に期待できそうな感じがある。
結果は最後まで分からないが、一歩前進した感があるのは、アマミヤの塔という前例があるからだろう。
アマミヤの塔で上手くいったからとはいえ、全ての塔に適応されるわけではないが、それでもと期待するのは当然の感情なのであった。
<ただの石>がただの石ではなくなってしまいました><
ずっとそのままでも良かったんですけれどね。
まあ何となく、こっちの方が良いかなということで。
ただし、アマミヤの塔では相変わらず役立たずですw




