(前)設置物
シュレインは北の塔の制御室で、頭を傾げながら唸っていた。
「うーむ。・・・・・・全部試せることは試したと思うんだがの」
手元にある紙と制御盤に表示されている内容を見比べながら、シュレインは再度頭を捻った。
紙に書かれている内容は、これまで北の塔で召喚された眷属で行われた進化がすべて書かれている。
最初はメモなど取っていなかったのだが、四属性の塔の結果を受けてメモを取るようにしたのだ。
過去に進化した分は、思い出せる限り思い出して、思い出せないものはもう一度召喚からやり直した。
その内容を見る限りでは、現在北の塔で眷属にできるモンスターのほぼ全てを召喚していて、ついでに進化も行われている。
それでも塔のLVアップが起こっていないという事は、確実に他に何か条件があるという事だ。
そんな悩めるシュレインの元に、コレットがやって来た。
「どう?」
「駄目だの。もう一度見直してみたが、全くわからない」
「そう」
微妙な表情になって答えたシュレインに、コレットが頷いた。
その顔を見れば、同じような結果だったという事がわかる。
そもそも今回、眷属たちの進化の状態を確認しようという事になったのは、四属性の塔の結果を受けての事だった。
四属性の塔が、それぞれの属性に合わせた進化をした眷属が出てから相次いでレベルが上がったために、聖魔の塔も同じではないかと考えたのだ。
それからしばらくの間色々な条件で進化を試したが、結果としてはレベルアップは全く起こらなかったというわけである。
現在考助が支配している塔は、セントラル大陸にある七つの塔だ。
その内、アマミヤの塔はLV10で恐らく最高LVだと思われる。
残りの六つの塔の内、四属性の塔は既にLV7になっている。
対して聖魔の塔はLV6で若干低めだ。
塔LVが上がればそれだけ召喚できる眷属や設置物が増えるので、出来ることが増える。
そのためにも出来るだけLVを上げておきたいのである。
そんな悩める二人の元に考助がやって来た。
「あれ? 二人してどうしたの?」
「どうもこうも塔の事を話していたのだが、コウスケこそどうした? ここに来るのは珍しいと思うんだがの?」
今シュレインたちがいるのは北の塔の制御室で、考助自身がこの部屋に来ることは滅多にない。
北の塔に何か変化が起こったとか、特別な時だけなのだ。
それは別に避けているというわけではなく、特に制御室に来る用事が無いためである。
これは、北の塔の制御室に限らず、アマミヤの塔の制御室を除くすべての塔に共通している。
「いや、何となく? 偶々コレットが入っていくのが見えたから来てみた。邪魔だったら出ていくけど?」
女性同士の話ということもあるだろうから、そういうときは大抵考助は遠慮して出ていく。
別に邪険にしているわけではないというのがわかっているので、考助も当たり前のようにそう言った。
だが、そんなことを話していたわけではないので、シュレインが首を左右に振った。
「いや。丁度聖魔の塔について話をしていたからの。加わってくれれば参考になるだろう?」
「そうね」
言葉の最後に首を傾げたシュレインに、コレットも頷いた。
それを確認したシュレインが、手元にあった紙をそのまま考助へと手渡した。
「ん? なに、これ?」
「今まで北の塔で行った召喚と、進化の一覧だの」
シュレインの言葉に目を丸くした考助は、すぐにその一覧に目を通した。
「これはすごいなあ。よくもまあ、ここまでまとめたね」
「何を言っておる。そんなことを一々しなくとも、コウスケの場合はさっさとLVアップさせてしまったではないか」
「いや、そうなんだけれどね。あれは運もあると思うんだ」
何とも言えない表情で考助はそういった。
アマミヤの塔に関しては、ワンリとナナが順調に進化してくれたからこそあっさりとLVが上がった。
あの二匹がいなければ、間違いなく今でもとん挫したままだっただろう。
そんな考助の感想に、シュレインとコレットはため息を吐いた。
「そこで自分が現人神になったことが出てこないのが流石というべきかの」
「まあ、コウスケだし」
何やら二人だけで納得してしまい、考助は慌てて言った。
「え!? いや、今は眷属の話だよね?」
「いや、塔のLVアップの話だがの」
「LVアップよね?」
お互いに顔を見合わせてそう確認を取った二人を見て、考助はこれ以上この話題はまずいと判断してすぐに話を元に戻すことにした。
「と、とにかく、北の塔の進化は、一通り終わったという事かな? これを見る限り」
強引に話題を変えた考助だったが、シュレインとコレットは特に何も言わなかった。
代わりに二人同時に頷いている。
「南の塔でも同じような状況ね」
コレットがそう言うのを聞いた考助は、改めてその一覧を見た。
「うーん。確かに一通り進化は終わっているみたいだけど・・・・・・」
「なんだ? 何かあるのかの?」
言いよどんだ考助に、シュレインが首を傾げた。
「なんというか、『進化しているだけ』って感じるんだよね。上手く言えないけど」
その曖昧な言葉に、シュレインとコレットが疑問の顔になった。
「どういう事?」
「四属性の塔のときみたいに方向性が見えないというか、これと決まった進化の方向がないというか」
「聖獣やら魔獣に進化していないという事か?」
相変わらず首を傾げたままそう言ったシュレインに、考助は首を左右に振った。
「そもそもここに書かれている聖獣とか魔獣とかの括りは、ひとが勝手に決めたものだよね?」
考助がそう言うと、コレットが何かに気付いたような顔になった。
「塔が認識している聖獣とか魔獣に進化させないと駄目ってこと?」
「たぶん、だけどね」
考助が頷くと、シュレインが難し顔になって腕を組んだ。
「それはまた曖昧な条件だの。そもそも塔がどう認識されているか分からないと、進化のさせようがない」
「手探りで探すには、範囲が広すぎ?」
シュレインに続いてコレットがそう言った。
そんな二人に対して考助は首を振った。
「いや。そもそも聖魔の塔にはアマミヤの塔と四属性の塔とは違う点が一つだけあるよ」
「・・・・・・どういう事かの?」
「私も分からないわ」
シュレインに視線を向けられたコレットが首を振った。
それを見た考助も特に隠すこともなく、自分の考えを述べる。
「アマミヤの塔には<神石>、四属性の塔はそれぞれの属性の宝玉がある。それじゃあ、聖魔の塔は?」
二人のその言葉で考助が言いたいことがわかったといった顔になった。
「なるほどの。コウスケは聖魔の塔にもそれらに代わるものがあるはずだと言うんだな?」
「そうだと思うんだけどね。ただ、今まで言わなかった理由もあってね」
「理由?」
首を傾げたコレットに、考助が説明を追加した。
「四属性の塔みたいに、レベルアップでユニークアイテムが追加されるかもしれないじゃないか」
「だとすれば、聖魔の塔はこれ以上進化するのが不可能、という事になりかねないな」
塔のレベルアップに必要なアイテムが、そのレベルアップをしないと手に入らないとなると、どう考えてもこれ以上のレベルアップは出来ないということになる。
「まあ、流石にそんなことは無いと思うけれどね。だからまあ、取りあえず今設置できる物の中から探し出した方が良いかもね。それこそ、<神石>みたいに」
そもそもアマミヤの塔の<神石>はユニークアイテムではなく、いたるところに設置できている。
そのため、多くの眷属がその恩恵を受けて進化しているのだ。
聖魔の塔にも同じような物があってもおかしくはないと言うのが考助の考えだった。
「なるほどの。今度はそっちを探してみようかの」
「そうね。私もそうしてみるわ」
今すぐにその設置物が何かが分からないため、これも手探り状態で探していくことになる。
どうにも気が長い調査になりそうだったが、こればかりはやってみないと何とも言えない。
結果、二人共手当たり次第に設置物を設置していくことになるのであった。
なんかもうこの話を書いていて、アマミヤの塔以外の塔は今のままでいいような気がしてきました。
一応LVアップの条件はある程度考えてあるんですけれどね。




