(4)上級者
活動報告にて書籍についての情報を公開しました。
是非ご確認下さい。
フレンドモンキーを予定数狩ったリクたちが本部に戻ろうとしたところで、ガゼランに止められた。
「おう。お疲れ様。クエストは完了という事で構わんから、ここからちょっと付き合ってくれんか?」
ガゼランがそう言うのを聞いて、リクは戸惑った。
「ですが、あまりのんびりしていると、依頼の期限が」
「おう。それはあまり気にするな。こっちで試験用に適当に設定したものだからな」
何ともぶっちゃけた話に、リクの仲間たちが微妙な顔になっている。
「ガゼランさん、いえ、部門長。そういう話はあまりぶっちゃけない方が良いのでは?」
「ガハハ。何を今更。どうせお前の仲間とは、今後色々とあるんだ。この程度で引かれたらそれまでという事だろ?」
色々ってなんだ、とリクは思ったが、突っ込むのはやめておいた。
変につつくと更に深みにはまりそうな気がしたのだ。
余計なことを聞くのは止めたリクは、本題を聞くことにした。
「それで、付き合うというのはどこにでしょうか?」
「何。ちょっと上の階層にな」
今彼らがいるのは第四十三層だ。
ガゼランはここからさらに上に行くと言っているのだ。
「まさか、上級層ですか?」
「それこそまさかだ。現役引退したロートルに何をさせるつもりなんだよ」
今のガゼランたちは、フルメンバーではない上に直接パーティを組んで戦闘を行うのも久しぶりの事だ。
幾らなんでもその状態で上級モンスターが出てくる上級層に行けば、悪い結果しか出ないだろう。
もっとも、そんな状態にも関わらず、中級層の中でも上の階層に行くということ自体が他とは全く基準がおかしいのだが。
当然のようにそのことに気付いているリクの仲間たちは、顔を引き攣らせていた。
ただし、ガゼランの実力はともかくとして、その傍で狼と戯れている考助やコウヒの実力をある程度知っているリクは、表情を変えることはなかった。
「それで、何処に行くのですか?」
「そうだなあ。第四十五層辺りが良いんじゃないか?」
「そうですか。わかりました」
リクがそう言って頷いたあと仲間たちの方を見た。
すると、彼らは完全に置いてきぼりの状態になっていた。
ようやくそのことに気付いたリクだったが、時すでに遅し。
仲間の一人が、恐る恐るリクに話しかけて来た。
「な、なあ? 二階層分上がるって言っていたか?」
そう言った仲間の肩をポンとたたいたリクは、首を振った。
「伝説になりかけているパーティなんだぞ? 常識で考えるのは止めた方が良い」
ため息を吐くように言ったリクの台詞を聞いた仲間たちは、ただ呆然とそのやり取りを見守るのであった。
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「だらっしゃあああ!!!!」
フィールド上に、ガゼランの雄叫びが響いた。
その声と共に、向かって来たモンスターを大剣の一刀を元に切り捨てた。
その隣では、ゾーヤが短縮呪文を唱えながら魔法を次々と放って向かって来るモンスターを牽制している。
他の二人もリクたちから見れば、一騎当千の活躍を見せていた。
「ほんとに引退しているんだよな?」
リクの隣にいた仲間の一人が、ガゼランたちの闘いを見ながら呆然とした表情でそう呟いた。
特定の誰かに言ったというよりも、思わず言葉が出てしまったというところだろう。
もっともそれを咎める者は他に誰もいなかった。
リクを除いた皆、同じような気持ちなのだ。
「まあ、部門長は元々普段から衰えないように鍛えているとは言っていたからな」
「だからって、中級モンスターをリハビリ相手にするか、普通?」
目の前で行われている戦闘を見る限りでは、とても現役から離れて何年も経っているとは思えない動きをしている。
だが、そんなことを考えていたのはリクたちだけで、実際に闘っているガゼランたちはまた別の感想を持っているようだった。
「マラート! 右だ!」
「!」
ガゼランの言葉に反応して、マラートが最後に襲い掛かって来たモンスターを切り伏せた。
それを確認したガゼランが、短く舌打ちをした。
「ちっ。やっぱり勘が衰えてるな」
リクたちには危なげなく倒しているように見えていても、ガゼランたちにとっては以前の状態とはやはり違っていた。
何度かで対処が遅れていたところがあったのだ。
正規パーティと比べて人数が少ないというのは言い訳にはならない。
そもそも今のメンバーで対処できると考えたからこそ、この階層に来ているのだ。
ため息を吐いたガゼランに、考助が近づいた。
「久しぶりの戦闘にしては上出来だと思うけど?」
「まあなあ。だが、出来ることならあいつらに良い所を見せたかった」
ガゼランはそう言って、視線をリクたちに向けた。
顔は笑っていたが、考助もガゼランの思惑がわかっているだけに、何とも言えない表情になった。
ガゼランは、リクたちに目標となるべく戦闘を見せたかったのだ。
そうすることによって、甘えることなく今以上に実力を伸ばしてくれることを願って。
もっとも、その目的の大部分は達成している。
ガゼランたちが気づいているミスに、リクたちは気づいていないのだからそれも当然だろう。
その後はさらに二、三度ガゼランたちが中級モンスターを相手に戦闘をすることになった。
そのたびに昔の感覚が甦って来たのか、更にスムーズな戦闘が行われたのは言うまでもないだろう。
それを見ていたリクたちは、既に過去の英雄の話を聞いている子供のような目になっていた。
速い話が目を輝かせてガゼランたちの戦闘を見ていた。
話でしか聞くことの無かった伝説のパーティの戦闘が目の前で行われているのだ。
参考にできることはいくらでもあるのだ。
その数度の戦闘でようやく満足がいく結果になったのか、ガゼランが笑顔になって考助を見た。
「いい感じになってきたから、そろそろお前さんのを見せてくれや」
「構いませんが、彼らの参考にはなりませんよ?」
考助はそう言いながら、リクたちを見た。
「ああ、それはそうだろうな。まあ構わんさ。これも経験の内のひとつだ」
そんなことを言ったガゼランに、考助は苦笑を返すしかなかった。
そんな二人の会話が聞こえたリクが、身を固くした。
今いる者たちの中では、リクが一番考助の事を知っている。
ついでに言えば、考助とコウヒとナナが戦闘している所を直接見たことがあるのもリクだけだ。
そんなリクの様子に気付いた仲間の一人が、首を傾げながら聞いてきた。
「どうしたんだ?」
「あ~。うん。・・・・・・まあ、見ていればわかるよ。タブン」
これから起こることを考えて頭が痛くなってきたリクは、そんなことを言う事しかできないのであった。
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普通ではありえないその光景に、リクの仲間たちは完全に固まっていた。
さらに、ガゼランは笑い転げ、その仲間たちも同じように声を出して笑っていたり、笑顔になっていた。
寡黙でほとんど表情を変えることが無いマラートでさえ表情を変えていたのだから、衝撃の度合いがわかるだろう。
普通に剣を持っているコウヒが攻撃をするのかと思えばそうではなく、常に傍にいた狼が近寄って来たモンスターを片づけてしまったのだからそれも当然だろう。
モンスターテイマーなど、モンスターを操って攻撃をする冒険者は多くいるが、ここまであっさりと中級モンスターを倒せる者など話にも聞いたことが無い。
仲間たちの視線が集まるのが分かったリクは、この後どうやって言い訳をしようかと本気で悩むことになるのであった。
考助成分はあっさりと終わりですw
これ以上続けてもびっくりするだけで終わってしまいますからね。
これでリクのランクアップに関わる話は終わりです。
ちなみに、この後きちんとランクアップは果たしています。




