(7) ドリー
今回は第七十三層(エルフの里)のお話です。
管理層に珍しく客人が来ていた。
ケイドロイヤ大森林地帯のエルフの森にいた元世界樹の巫女のシェリルである。
本来であれば、管理者以外は管理層には来れないのだが、管理者の誰かがいれば、転移門を使って来ることが出来る。
最初シェリルは管理層へ来ることは遠慮していたのだが、考助がたまたま作業中だったので、この場所へ呼んだのだ。
ちなみに仲介したのは、当然ながらコレットだった。
最初コレットが、シェリルが呼んでいると管理層まで来たのだが、その時どうしても手を離せなかった考助が、シェリルをこちらに呼ぶように言ったのだ。
現在そのシェリルは、物珍しそうに管理層を観察していた。
「お呼び立てしてしまって、申し訳ありませんでした。・・・そんなに珍しい物でもないでしょう?」
管理層というのは、見た目はごく一般的な部屋になっている。
置いている家具なども管理室のモニターやクリスタルを除けば、そこまで珍しい物は置いてない、というのが考助の認識だった。
「そうなんでしょうか? 何分、私はエルフの森から出たことがないもので・・・」
シェリルは少し恥ずかしそうにしながらそう言った。
よくよく考えれば、第七十三層の里もエルフだけなので、そこの住居や家具も当然ながらエルフ仕様になっているのだ。
エルフの里に籠っていた者からすれば、管理層が物珍しいのもある意味当然なのかもしれない。
「ああ、いえ。こちらこそすみませんでした。・・・それで、今日はどういった用件でしたか?」
「はい。実は、私共のエルフの里から持ち込んだ枝に変化がありまして・・・」
「おねえちゃん、げんきになってきたー」
シェリルが、話し始めようとしたときに、突然エセナが出てきてそう言ってきた。
ちなみに最近のエセナは、以前よりもかなり流暢に話せるようになってきていた。
しがみついてきたエセナの頭を撫でてやりながら、考助は首を傾げた。
「・・・お姉ちゃん?」
「あの・・・世界樹の枝です。里の世界樹から分けてきた・・・」
「・・・ああ!」
シェリルの助け舟に、ようやく考助も思い出した。
以前、ケイドロイヤ大森林地帯のエルフの里から世界樹の枝を持ちこんだ際に、第七十三層にその枝を植えていた。
その枝に何か変化が起こったということなのだろう。
「元気になったということは、悪いことではないんでしょうが、何かありましたか?」
「ええ。どうやら枝の根付きが上手くいったようで、しっかりと根を張り始めて成長し始めました。それで、ぜひとも一度コウスケ様もご覧になっていただきたいと思いまして・・・」
「あたしも、みにきてー」
考助に頭を撫でられて嬉しそうにしていたエセナが、右手を挙げてそう主張した。
「そういや、しばらく行ってなかったな・・・。わかったよ。時間が出来たら行くから」
考助は、エセナに向かってそう言った。
「そういうわけですから、今度時間を作って、エルフのいる層に行きます」
「そうですか。わかりました。お待ちしておりますので、ぜひお越しください」
エセナから視線を移して、シェリルの方に視線を向けた考助に、シェリルも安心したように微笑んでから頭を下げた。
シェリルの用は、その件だけだったようで、すぐに管理層から退出していった。
今度もコレットが、付き添っている。
今すぐに行くことは、忙しくて出来なかった考助は、それを見送った後、再び作業に戻ったのである。
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シェリルが管理層を訪れてから二日後に、ようやく時間が作れた考助が、第七十三層に向かった。
第七十三層に向かうまでは、ミツキだけを連れてきていた。
コレットは、他にすることがあったようで、先に第七十三層に来ている。
そのコレットと合流したあとに、まず先に世界樹の様子を見に行った。
世界樹は既にかなりの大きさになっていて、転移門を出てすぐにその存在感を確認できるようになっていた。
だが、やはり遠くから見るのと、近づいて触れてみるのとでは、受ける感じが全く違っている。
周囲を漂う光(精霊)たちも健在で、その数もさらに増えているようだった。
近づいてきた考助とエセナ(考助が近づいてきたのを察して出てきたらしい)に気付いたのか、いつもよりも若干動きが激しいとコレットが言っていた。
ちなみに、この精霊たちをきちんと目視出来ているのは、今のところエルフたちの中では、コレットとシェリルくらいだそうだ。
他のエルフたちは、存在を感じることは出来ても見ることはできない、とのことである。
「はあ~。しばらく来なかっただけで、ここまで成長するのか」
世界樹の幹に触れながら、考助は世界樹を見上げた。
触れた時の感触は全然違うのに、どことなくエセナと同じような感じを受ける。
まあ、同じ存在なのだから当然と言えば当然なのかもしれないが。
そして、以前見た時と違っているところが、一点あった。
「・・・もしかして、ちゃんと神力もコントロールされてる?」
魔力や聖力とは違った、明らかに神力と思しき流れが確認できた。
「え・・・!? そうなの?」
考助の呟きを聞いていたコレットが、驚いたように見ている。
「そうなのー。すごい、すごい?」
「ああ、これは本当に、凄いね」
嬉しそうに確認してくるエセナに、考助はいつものように頭を撫でてあげた。
するとエセナは、まるで猫のように、嬉しそうに目を細めて撫でられている。
その様が可愛らしくて、いつもエセナを撫でてしまう考助だが、残念ながら(?)考助の周囲には、それを止める者がいないのだ。
むしろ微笑ましく見守るだけだったりするので、いつまでたっても撫で癖が治らない考助なのであった。
ちなみに、第七十三層の世界樹が神力を扱えているのは、全ての世界樹がそうであるわけではなく、世界樹の妖精であるエセナが、きちんと神力を使えるようになったからだ。
きっかけは偶然であったのだが、ナナ達と遊んだあの経験が、こんなところで生きたのだ。
神力を普通に目で目視できる考助が来て、初めて世界樹が神力を扱っていることに気付いたので、神力を見ることのできないエルフたちは、それには気付いていなかった。
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世界樹の様子を見終えた考助たちは、その足で元エルフの里にあった世界樹の枝の様子を見に行った。
世界樹から多少離れた場所に植えられたその木は、それでも元の世界樹であるせいか、周囲が荒れないように、きちんとエルフたちによって管理されていた。
こちらも既に、枝というレベルは超えていた。
普通に、日本にあった街路樹くらいの大きさになっている。
さすがに、世界樹そのものというわけにはいかないようで、完全に別の樹になっているとのことである。この樹がどういった存在になるかは、まだこれから成長してみないと分からないということだった。
そうシェリルから説明された考助は、以前世界樹にしたときと同じように、幹に手を触れた。
それからほんの少しだけ、この樹を傷付けないように、神力を流してやった。
すると世界樹の時と同じように、樹の周りから光が現れて、それが人型になった。
残念ながら半透明なのだが、それは紛れもなく、以前にエルフの里で会った世界樹の妖精であった。
傍でその様子を見ていたシェリルは、その姿を見て涙を浮かべていた。
「待たせてしまった?」
考助がそう妖精に話しかけた。
会話はできないのか、それでも意思を伝えるように、妖精は首を振った。
その時、エセナが考助に向かってこう言ってきた。
「おにいちゃん、おねえちゃんになまえつけてあげてー」
「名前?」
エセナが、こくんと頷く。
それを見た考助は、シェリルの方を見た。
見られたシェリルは、残念そうに首を振って答えた。
「すいません。そもそも世界樹は世界樹と呼んでいたので、特定の名前はありませんでした」
「そうなのか・・・うーん」
考助は腕を組んで、しばらく考える。
「それじゃあ、ドリーというのはどうかな?」
考助が妖精に名前を付けて、目の前の妖精が頷いた瞬間、妖精の姿に変化がおこった。それまで半透明だったのが、以前のように普通の姿に戻った。
その変化に、エセナ以外の皆が驚いていたが、いち早く立ち直った妖精改めドリーが、考助に向かって頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。おかげさまで、以前のような姿を取り戻せました」
「以前の・・・ということは、前の世界樹だった時の記憶もあるの?」
「はい。残っております。流石に力の方は、全く違ったものになっていますが」
「そうか、それはよかった」
ある程度の予想はしていたが、記憶まで残っているとは思っていなかった考助である。
ドリーが話すのを見ていたエセナが、彼女の手を取って、嬉しそうに周囲を回っている。
そんなエセナの様子を見て、他の三人は微笑ましそうにしばらくの間、見守っていた。
「というわけで、シェリル、彼女のことは任せていいかな?」
「はい。勿論です」
考助の言葉に、シェリルも力強く頷いた。
「ごめんなさいね。またお世話になるわ」
「そんなことをおっしゃらないでください。私は、以前のような姿を見せてもらえただけでも嬉しいんですから」
「・・・・・・ありがとう」
シェリルとドリーの様子を見た考助は、あとは任せても大丈夫だと確信した。
そもそも植物や樹に関しては、考助は全くの素人なのである。
逆に変に手を出さないほうがいいだろう。
そう結論付けて、考助は今回のエルフの里の訪問を終えたのである。
流石にそろそろ、活動している階層には名前を付けようかと思っている、今日この頃です。
読者の皆さんも読んでて分かりづらいだろうし、何より作者が、書いててわけわからなくなってきています><
2014/5/24 誤字修正
2014/6/11 誤字修正
 




