(2)旅は道連れ
リクのランクアップ試験の事を知ったガゼランは、すぐに動き出した。
今回の試験はEランクからDランクへの変更だったのだが、ガゼランの権限を使ってCランクへの試験へと変更したのだ。
勿論、ガゼランがそんな強引な変更を行ったことは今までほとんど無かったことなのだが、反対する職員は誰一人としていなかった。
ガゼランの権力(力)が強いという事もあるのだが、それ以上にリクの所属しているパーティがCランクの試験を受けるに十分すぎる実力があったためだ。
元々冒険者部門内でも飛び級の試験を受けさせるかどうかで議論があったのだ。
結局それは見送りすることになったのだが、ガゼランの要請(?)を受けて、これ幸いとばかりにCランク試験へと変更したというわけだった。
ちなみに、リクのパーティは全員が学園生なのだが、そんな若さでCランクの試験を受けるのは飛び切りの優秀者となる。
冒険者部門内では、久しぶりの大型新人の登場に沸いているのはまた別の話である。
ランクアップ試験の報告をリクが持ってきてから三日ほどが経った。
その日のリクは前の時と違って、頭を抱えるようにして考助へと愚痴を言っていた。
「・・・・・・何とか止められませんか、父上」
「うん、無理」
きっぱりとそう言った考助に、リクは恨めし気な視線を向ける。
「飛び級の介入もそうですが、たかがCランクの試験に部門長が付いてくるなんて、どう考えてもおかしいでしょう!?」
「うーん。まあ、その辺はガゼランが判断することだからねえ。僕は口出しできないかな?」
「では、せめて一緒に行くのを止めるとか!」
「それも無理だよねえ。ようやく約束が果たせるって、張り切っていたし。この機会を逃すと、次がいつになるか分からないしねえ」
相変わらずの表情のリクに対して、考助はそうのほほんと答えた。
ついでにとばかりに、気になっていたことを付け加えた。
「あと、その口調、ばれている人には逆効果だから止めた方が良いと思うよ? まあ、僕らは慣れているから何も言わないけれど」
冒険者を目標にひたすら進んできたリクは、同じように冒険者を目指す貴族や商家の三男や四男に囲まれて学園生活を過ごしている。
そのためか、普段の仲間達と話しているリクの口調は貴族たちが使うような丁寧な言い回しからすれば、荒い言い方になっている。
とはいえ、王族として育てられているので、いざとなれば丁寧な口調も使う事が出来るのだ。
考助やフローリアといった家族の前では、どちらの口調を使って良いのか分からずに時々こうして丁寧な口調も出たりするのだ。
考助にそう釘を刺されたリクは、ばつが悪そうな顔になった。
リクも別に意識して丁寧な口調で話しているわけではない。
子供のころからの習慣で、両親の前や王族主催のパーティなどでは普通にこの口調になってしまうのである。
「別に意識しているわけではないです・・・・・・ないけど」
わざわざ言い直したリクに、考助は小さく笑って言った。
「いや、ごめんごめん。別に困らせるつもりで言ったわけじゃないんだ。別に、普通に今まで通りで話してくれていいんだよ? ただ、そうは受け取れない人もいるから気を付けてね、といったつもり」
「うん。わかってる」
考助の忠告に、リクは神妙な顔でうなずく、ハッとした表情になった。
「いや、話をそらしてごまかさないでください! 試験の件は?」
「うん。もう諦めようか」
考助はそう言ってポンとリクの肩をたたき、その本人はというとガクリと肩を落とすのであった。
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そんな流れでリクたちはCランクへの試験を受けることになったのだ。保護者付きで。
いや、もともとランクアップの試験内容によっては、試験官となる先輩冒険者が付くことは普通にあり得る。
だが、その試験官が冒険者部門の部門長というのは、いったいどういう冗談だと言いたくなる。
ついでに、リクは仲間たちには言っていないが、のんびりと狼を撫でているのは、間違いなく彼の父なのだ。
これで気にするなという方が無理だろう。
そんなリクの苦悩を余所に、パーティは順調に試験をこなして行った。
リクたちが受けている試験の内容は、期間内に複数種類のモンスターの素材を集める、というものだった。
豪華すぎる試験官に気を取られてはいるものの、リクたちは順調に素材を集めていた。
既に三分の二以上の素材は集め終わっており、あとは三種類の素材を集めるだけだ。
だが、その残り三種類が大きな山場とも言える。
それら三種類は別の階層に出るモンスターを狩らないといけないため、道中でモンスターに会う可能性もある。
さらに言えば、最後の一つは中級クラスでも上位に位置するモンスターを狩らないと取れないのだ。
その辺りは流石にCランクの試験といえるだろう。
今までは余裕があったリクたちも、さすがのそこまで行くとよそ見をしている余裕などない。
次の狩場へと移動するリクたちを見ながら、考助たちも移動をしていた。
考助たちのパーティは六人と一匹で、その内三人は考助、コウヒ、ガゼランで、残りの三人はガゼランと昔パーティを組んでいた元仲間だ。
その内の一人が、リクたちの移動を見ながら言った。
「ホホ。中々順調に進んでいるようだねえ」
「そうだな。まあ、少なくともEランクでくすぶってていい奴らじゃないことだけは確かだな」
最初に発言したのがパーティ内で魔法を担当しているゾーヤで、後が遊撃・偵察担当のルキーチだ。
もう一人はマラートだが、彼は基本的に寡黙な性格なのでほとんど話をすることが無い。
最初にガゼランから紹介をされたときも、いきなりそのことが話題になっていたほどだった。
それはともかくとして、彼らの視線の先はリクたちのパーティに向いている。
考助たちにとってみれば、今いる階層はどうという事はないのだが、あくまでも試験官として同行しているので、リクたちの様子をきちんと見なければならない。
リクたちには試験内容として素材の採取を伝えてあるが、その間の事も評価対象になっているのだ。
「うーん。やっぱりこんなもんなんですねえ」
二人の話を聞いて、考助がそう返した。
その考助の感想を聞いたガゼランが笑って言った。
「お前さんは、最初から色々ぶっ飛んでたからな。そもそも参考にならんぞ」
「まあそれは分かっているけど」
ガゼランの言葉に、考助は苦笑しながら答える。
そんな二人の会話に興味を持ったのか、ゾーヤが聞いてきた。
「そういや、コウスケ様はこの塔をとんでもない速さで攻略したって聞いたことがあるけど、一体どうやって攻略したんだい?」
「おう。聞いて驚け。何と飛龍に乗って移動してたんだとよ」
ガゼランの答えを聞いた三人は、呆れたような顔になった。
「ついでに言っておくが、その頃は現人神様にはなっていなかったからな。最初に話を聞いたときは、何の冗談かと思ったぞ」
「それはそうだねえ」
「なんというか、ある意味で納得できるというべきなのかねえ」
ガゼランたち三人の会話を聞きながら、考助は視線をあらぬ方向へ向けるのであった。
ちなみに、ゾーヤたち三人は、既に考助がどういった人物であるかを聞いている。
考助も特に止めずに、普通の話し方で良いと断っているのだ。
だからこそ、気軽に話しかけてくれているのだが、普通だとこうはいかない。
この辺りは流石、当代最高のパーティと言われているメンバーということだろう。
そんな考助たちの様子を知ってか知らずか、リクたちは相変わらず順調に狩場へと歩を進めるのであった。
今更といえばいまさらですが、ガゼランのパーティメンバーが出てきました。
一連の話を考えた時に、是非とも出したいと考えていたので、これで安心(?)しました。
この後は、リクの試験に話の重点が移ります。・・・・・・タブン。




