(4)子供たちの魔力
魔力の枯渇で倒れたルカだが、流石にずっと床の上にほおっておくのはかわいそうということで、コウヒの手によってベッドの上に移された。
動くのに問題ない程度に魔力が回復すれば自然と目を覚ますはずなので、大体二時間で起きてくるだろうというのがコウヒの見立てだった。
そして、ルカが魔法陣を発動するのを見ていた者たちは、会議室に集まっていた。
くつろぎスペースでもよかったのだが、これから先の真面目な話をするために会議室を使う事にしたのだ。
一番最初に口を開いたのは、トワだった。
ルカが作り出した氷を見て、とても感嘆していたのが気になっていたのだ。
「何故あそこまで感心されていたのですか?」
トワにしてみれば、たかが数センチ四方の氷を魔法で作ったという行為にしか見えない。
そのため、何故シュレインがあそこまで感心していたのかが分からなかったのだ。
そのトワの疑問に、シュレインは右手を顎に持って行った。
「ふむ。其方は気づいていなかったのか。なんだ、ミアもか」
ミアに視線を向けたシュレインは、その表情を見てトワと同じように気付いていないことを理解した。
そして、先ほどのルカの魔方陣の本質的な部分の説明を始めた。
「あの魔法陣はの。ただただ己の魔力だけを使って氷を作り出したのだ」
「・・・・・・え?」
トワは、一瞬シュレインが言った意味が分からずに首を傾げた。
だが、すぐにその意味を理解して、驚愕の表情になった。
「ま、まさか!?」
思わずそう声を上げてしまったトワだったが、その隣ではミアが声も無く驚きの顔になっている。
触媒になるような物も使わず、ただただ己の魔力だけを使って何かを生み出す。
それはまさしく魔法を使う者にとって夢のような技術と言えるだろう。
普通、氷の魔法を使う場合は、空気中にある水などを呼び水にして魔法の行使を行う。
そうした技術は、今まで多くの研究者によって研究されてきたが、あくまでも夢の技術とされているはずだ。
「せ、精霊は? 精霊の力を借りたとか?」
精霊に魔力を与えて、代わりに魔法を行使してもらうのが精霊術だ。
その場合でも術者は魔力だけを使って氷を生み出すことが出来る。
我に返ってそうに聞いてきたミアに、だがコレットは首を左右に振った。
「少なくとも私が見ていた限りでは、精霊が動いた気配は全く感じなかったわね」
ただでさえ普通のヒューマンよりも精霊に対する感応力が強いエルフであり、さらには世界樹の巫女という特殊な立場にあるコレットに言われて、ミアも精霊の関与は否定せざるを得なかった。
「し、神力を使ったというのは?」
これは無いだろうと思いつつ、それでもトワが一応確認のためにシルヴィアに聞いた。
だが、これもシルヴィアは首を左右に振った。
「それはあり得ませんわ。そもそも神力を使って何かを生み出せば、それこそ神の御業です。ね?」
シルヴィアの最後の「ね?」は、考助に向けてのものだ。
そのシルヴィアの視線に頷きつつ、考助はトワとミアに視線を向けて言った。
「そもそもルカが使った魔法陣は、間違いなく魔力だけを使って氷を生み出すようになっているからね。それに関しては僕が保証するよ」
考助がそう言うと、トワもミアも諦めて認めるしかなかった。
ルカは間違いなく、偉業と言える魔法の行使に成功したのだ。
「まあ、凄いと言えばすごいんだけれど、あの魔法陣には大きな問題があるからね。本人も起きたらすぐ気付くと思うけれど」
考助がそう言うと、今度は全員が理解したような顔になった。
考助が言いたいことは、今のルカの状態を見ればよくわかる。
「魔力、の問題ですか」
「そういう事だね」
トワの言葉に、考助が同意した。
「もともとルカが持っている魔力は、普通の人が持っている量よりもかなり大きいからね」
「なるほど。そうだったんですか」
考助が言った言葉に、トワが何気なく頷いたが、それをみたシュレインが首を振りながら言った。
「気付いていないようだから教えるが、コウスケがいう普通の人というのは、エルフや吾のようなヴァンパイアも含まれるからの?」
「「えっ!?」」
改めて聞かされたその事実に、トワもミアも目を丸くした。
魔力を多く持っていると予想はしていても、エルフやヴァンパイアを超えるとは思っていなかったのだ。
「なるほど。それは凄いですね」
ルカが普通のヒューマンかどうかは置いておくとしても、それだけの魔力を持っていると知られると、色々と面倒なことが起きかねない。
そのことに気付いて心配したように首を振ったトワだったが、それを見たシュレインがため息をついた。
「他人事のように言っておるが、考助の子供たちは皆、似たり寄ったりだぞ?」
シュレインがそう言うと、トワもミアも言葉を失った。
まさか自分が魔法が得意とされる種族を超える魔力を持っているとは思っていなかったのだ。
学園で魔法を習ったとはいっても、正確に自分が持つ魔力を計ったことがあるわけではない。
それに、子供たちがそれだけ大きな魔力を持っていると気づけなかったもう一つの理由がある。
「なんだ。言っておらんかったのか?」
シュレインがそう言ってシルヴィアに視線を向けると、シルヴィアは首を縦に振った。
「あると分かっていても特に意味がない物ですから」
「なるほどの」
その会話を聞いてトワとミアは意味が分からずに首を傾げたが、分かっていなかったのはその二人だけだった。
他の者たちは、納得したような顔になっている。
「どういう事でしょうか?」
分かっていないのが自分たちふたりだけだと気づいて、トワがそうシルヴィアに聞いた。
「簡単なことですよ。貴方たちの持つ魔力は、子供が持つには多すぎるので、普段はリミッターがかかっていたのです。一種の封印のようなものですわ」
さらりと語られた事実に、トワとミアが絶句している。
「体がその魔力に耐えられるくらいに成長すればその封印も解けると思うのですが、それがいつになるのかは・・・・・・どうなんでしょう?」
シルヴィアは、最後に考助へと視線を向けて聞いた。
視線を向けられた考助は、しばらくジッとトワを見たあとで首を左右に振った。
「さすがにまだそれがいつになるかは、正確には分からないね。トワもまだまだ成長しているみたいだし」
トワも成長期が過ぎたとはいえ、成長そのものがストップしたわけではない。
そのため、その封印がいつ解けるかは、考助にも分からないのだ。
「あの、まさか、その封印は、父上が?」
ミアの問いかけに、考助は再び首を振った。
「いや。生まれたときから元々付いてたものだね。一種の防衛本能だと考えていいと思うよ? 今回のルカの件は、封印の穴をついたことになるね」
「そうですか」
考助の言葉に、ミアはそう返事を返した。
思ってもみなかった自分の体質(?)を聞かされて、トワとミアは先の事を考えて疲れたような表情になるのであった。
トワとミアの二人の表情を見ながら、シュレインが顔を考助へと向けた。
「それで、話がそれたようだが、あの魔法陣は放置していていいのか?」
「構わないと思うよ? それこそ今のルカ以外に、あの魔法陣を発動できる人がいると思う?」
「むっ!? ・・・・・・それもそうか」
それで納得するのもどうかと思うが、シュレインはあっさりと考助の言葉に頷いた。
ルカがあの魔法陣を動かすために使った魔力は、それほどの大きさだったのである。
「多分、ルカは起きたらすぐに問題点に気付くんじゃないかな? 何しろ、倒れてしまったんだし。その後は多分、効率を高めるためにあの魔法陣の改良に励むと思うよ?」
その考助のありそうな推測に、集まった一同は納得したように頷いた。
ルカはまさにそういった性格をしている。
「まあ、ルカの事だからあっさり改良に成功するかもしれないけれど」
考助がそう付け加えると、一同は苦笑を返すのであった。
考助の子供たちの魔力は、かなりの量を持っています。
とはいっても、さすがにコウヒやミツキを超えたりはしないですがw




