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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4部 息子たち
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(1)デートの場所

 考助は、管理層を訪ねてきて複雑な表情をしたトワに出くわした。

「トワ? どうかした?」

 珍しいトワのその表情に、考助の方が驚いてそう聞いた。

 フローリアの血を濃く引いた(と考助は考えている)トワは、次代の王として順調に成長している。

 先日など、フローリアが「これでいつでも交代が出来る」と豪語していたほどだ。

 そんなトワが、困ったような切羽詰ったような、それでいてどこか恥ずかしげな表情をしていたのだから、考助が驚くも無理はないだろう。

「父上、少し頼みごとをしたいのですが、いいでしょうか?」

 何とも言いづらそうにそう言って来たトワに、考助はさらに目を丸くした。

 こんなことをトワから言われたのは、初めての事じゃないかというくらい珍しいことだ。

「・・・・・・なんだ?」

 内心の動揺を抑えて、考助は真面目な顔になる。

 その考助を見て、トワが一度言葉を飲み込むような仕草をみせてから遂に言葉を発した。

「・・・・・・ダニエラをここに連れて来ても良いでしょうか?」

 トワがそういった瞬間、考助は何を言われたのか分からずに、一瞬頭が真っ白になった。

「・・・・・・ハイ?」

 トワの態度とその内容の落差に、思わず考助は拍子抜けした表情になった。

 そんな考助に対して、トワが今まで以上に言いづらそうな顔になった。

「え~、ですから、ダニエラをここに連れてきたいんですが・・・・・・」

 もう一度そう言ったトワの顔を見て、改めて何かあると察した考助は詳しく話を聞くことにしたのだった。

 

 トワが、恥ずかしそうに説明するのを聞いて、考助は思わず同情する視線を向けてしまった。

 成程、確かに父親に相談する内容としては恥ずかしいだろうというものだった。

 余程切羽詰っていたのだというのがわかる。

 トワの相談というのは要するに、ダニエラとデートする時間が欲しいというものだったのだ。

 学園にいたときはまだよかった。

 協力してくれる仲間がいたし、何よりそれなりに時間も空いていたのだ。

 だが、学園を卒業した後は、お互いに時間が取れず、なんとか時間の都合が付いたとしても何かしらの妨害に合ってしまうという事だった。

 勿論、妨害と言っても露骨なものではない。

 そもそも女王であるフローリアが、ダニエラのことを認めているのだ。

 変に仲たがいさせるようなことをすれば、女王の機嫌を損ねてしまいかねない。

 だからこそ、婉曲に微妙な予定が入るような邪魔をしたりして来るのだ。

 何とも迂遠なやり方には、さすがのフローリアも呆れているのだが、やり方が絶妙すぎて止めることも出来ない。

 結果として、トワは父親である考助に相談をしに来た、という事なのだ。

 

「なるほどのう。また、トワは変な苦労をしょい込んでいるな」

 考助の横で一緒に話を聞いていたシュレインが、微妙な表情で頷いていた。

「なんというか・・・・・・。馬鹿馬鹿しいの一言なんだけど、そんなことってあるんだ」

「何を言っておる。トワの場合、直接的でない分、まだましだぞ?」

「そうなの?」

 シュレインの言葉に、考助は首を傾げた。

「トワとダニエラ嬢は、どう見ても身分差があるからな。他の大陸と違って王国としての爵位が無い分まだましなのだろう?」

 シュレインが視線をトワに向けると、そのトワも小さく頷きながらため息を吐いた。

「はい。お互いにそのことは分かっているんですが、でも出来れば、その・・・・・・」

「一緒にいる時間を作りたい、と」

 トワの言いたいことを察して考助がそう言うと、トワが頷いた。

 一緒にいたいという気持ちはよくわかる考助としては、何とかトワの想いをかなえさせてあげたいと思った。

 だが、その考助は腕を組んで顔をしかめた。

「あの・・・・・・難しいですか?」

 若干諦め気味な顔になったトワを見て、考助は慌てて首を左右に振った。

「いやいや、そうじゃないよ。管理層に連れてくること自体は問題ないんだけれどね」

「?」

 考助の微妙な言い方に、トワは首を傾げた。

「いや。今のままの管理層だと、二人きりになる事なんて、不可能だよね?」

「父上。そもそも私のような身分の者が、婚姻前に相手と二人きりになることなど、ほぼ不可能です」

 王太子ともなると、ほぼ確実に護衛が付くだろうし、何か間違いがおきないとも限らないため監視役は必ず付く。

 それでも、今のようにほとんどまともに会えない状況よりは遥かにましなのだ。

 ましてや、管理層に出入りしている者たちは、今こうしてトワが話をしていることで、事情を察してくれるだろう。

 そうしたトワの考えを見抜いた上で、考助がため息を吐いた。

 仕方がないとは言え、なんとも息苦しいことだと思ってしまったのである。

「まあ、トワがそう思っているんだったら別にいいや。管理層に連れてくる分には問題ないよ」

「ありがとうございます!」

 考助が許可を出すと、よほど今まで鬱憤(?)が溜まっていたのか、トワが嬉しそうな表情になるのであった。

 

 嬉しそうに管理層を去って行ったトワを見て、考助がため息を吐いた。

「うーん。何とかしてやりたいんだけどな」

 そういった考助を見て、シュレインが首を傾げた。

「すればいいんじゃないか?」

「そうしたいのは山々なんだけど、止めた方が良いだろうね」

「なぜ?」

 きっぱりと言い切った考助に、シュレインが首を傾げる。

「こういう事に親が口を挟むと、大抵碌な結果にならないから」

「ふむ。至言だな」

 考助の言葉に、思いっきり納得したように頷くシュレインなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 相変わらず自分を前にしてガチガチに緊張しているダニエラを見て、考助はすぐに奥に引っ込むことにした。

 わざわざ余計な声をかけて緊張させても意味がないのだ。

 一応様子を見に来ていたコレットやピーチも、そのことを察して考助を追いやった。

 考助としては、休みの日にゴロゴロしていて奥さんに邪険にされている気分になる。

 だがまあ、今回に関しては、あくまでもトワの希望を叶えるためだ。

 その程度の悪評(?)は喜んで被るつもりでいる。

 追い払われるようにくつろぎスペースから私室に移った考助は、腕を組みながらウーンと唸った。

「どうしたのよ?」

 その考助の様子を見て、一緒に付いてきたミツキが聞いてきた。

「なんというか、じれったいと言うか、可哀想というか・・・・・・」

 今日の二人の様子を見た考助の感想だった。

 別に二人の間に何か、亀裂のようなものが出てきているというわけではない。

 むしろ、以前と変わらないような感じを受けたからこそ、いまの状況が可哀想に思えて来たのだ。

「言いたいことはわかるけれど、それこそ前にも考助様が言ったように、変に口を挟むと碌な結果にならないわよ?」

「そうなんだよなあ。だからこそ、フローリアも手を出しあぐねているんだろうし」

 今日、ダニエラが管理層に来る前に、フローリアとも話をしたのだが、やはり彼女も考助と同じような思いを持っているようだった。

 それでもお互いに、現人神だったり女王だったり、余計な立場が付いて回るので、変に口出しが出来ないのである。

 いっそのこと、神託でも出してしまおうかと本気で考えた考助だったが、流石にそれは最終手段だと抑えた。

 余りに身内びいき過ぎて、そのあとの結果が予想できないのだ。

 考助の感覚としてもそれは無いだろうというものがある。

 結局見守ることしかできないのだが、それはどこの家庭でも同じなのかもしれないと思う考助なのであった。

気の毒なトワでした><

デートらしいデートも出来なくなっております。


・・・・・・いっそのこと、最後の手段として結婚してしまうという方法はありますし、トワもそのことは分かっています。

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