(3)自然との闘い
前半説明回。
ミアの護衛としてミカゲが管理層に来るようになった。
今のところ、ミカゲには管理員としての権限は持たせていない。
もし他の階層に行きたければ、ミアの指示で行くことになるから必要ないと本人に固辞されたのだ。
ある程度自由に転移門が使えるようになって、何かおかしなことが起きた場合に、変な嫌疑を掛けられるのを避けるためだ。
考助自身は一度はそんなことはしないと言ったのだが、それ以上言うのは周囲に止められた。
人を疑わないのは考助の美徳だが、それは時には迷惑になることもあるのだと。
そう言ったのはフローリアであり、またミカゲと同じ一族のピーチだった。
はっきり言えば、ミカゲを自由に出入りさせるようにする方が、本人にとっては面倒が多くなる。
何故なら、疑われないように考助にも気を使わなければならなくなるから。
最初から余計な権限など持たずにミアと一緒に動いてさえいれば、そうしたわずらわしさもなくなる。
動きが不自由になってしまうというデメリットはあるのだが、そもそもミカゲはミアの護衛なのでほとんどつかず離れずの生活をすることになる。
個人で動くことがほとんどなくなるので、敢えてそうした権限は無い方が良いのだ。
身もふたもない言い方をすれば、ミカゲに転移門を自由に通れる権限を与えるのは大きなお世話、という事になってしまうのだ。
ミカゲがミアと一緒に管理層に出入りをするようになったので、それに合わせて改装を行う事にした。
これもまた女性陣に言われてのことだ。
どうにも考助は、以前は多少持っていた危機感が、現人神になってから欠落してしまっているようだった。
あるいは、妖精たちの力が使えるようになったことで、気が大きくなっているのかもしれない。
もっとも、考助がそんな状態になるのは管理層にいるときだけで、例えば先日まで行っていた旅の時はしっかりと警戒すべきところは警戒していた。
そのことから、身内と認めた者に対しては、警戒心が薄れるのかもしれないのかな、と考助は考えているのであった。
そんな考助の思いはともかくとして、女性陣主導の元で行なわれた管理層の改築では、これまでと大きな変更点があった。
今までは転移門とは正反対の位置にあった各塔の制御室への出入り口よりもさらに奥に、考助のプライベートルームが出来たのだ。
簡単に言えば、今までくつろぎスペースとしていた場所を、最奥に持って行ったのだ。
考助自身は自覚が薄いが、セントラル大陸では考助は現人神として認識が広がりつつある。
そのため、だらけた姿を不意に見られるのはいただけない、という女性陣の考えがあった。
自分達の前ではこれまで通りで構わないのだが、ミカゲのように、今後はそういうわけにもいかない場面が出てくる事を見越しての事だった。
なにより、その方が自分たちが動きやすいという事も一因としてある。
ラゼクアマミヤの女王となっているフローリアは勿論の事、他の者たちも一族の者たちを招いたりすることもあり得る。
そのための改築というわけである。
プライベートルームには、考助以外にはコウヒとミツキしか入ることが出来ない。
これもまた女性陣の助言でそうしたのだ。
考助としては子供たちはともかくとして、女性陣にまでそのような壁を作りたくは無かったのだが、皆におされて作ることになった。
確かに変に秘密が持てるような部屋を作ると、隠しごとが増えて行って関係が駄目になることもあり得るのだが、それに関しては女性陣は心配していなかった。
何しろコウヒとミツキが入れるようになっているのだ。
もし必要があれば、二人が女性陣に教えてくれるだろうと、判断しての事だった。
女性陣がなぜそこまで強固にプライベートルームを作るように押したのかというと、ガゼンランの塔での騒ぎがあったからだ。
クラウン支部の事に関してはともかく、それ以外の神々の関係する話は場合によっては、世界に重大な影響を与える。
今回は、特に大きなことにはならなかったが、このあと似たようなことが出てこないとは限らないのだ。
ましてや、現人神として、秘密にしなければならないことも出てくる可能性がある。
そうしたことを見越したうえでの、今回の提案なのだった。
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ミカゲの管理層への出入りが許可されたことで、ミアはさっそく第十五層の管理を開始した。
甘々な考助のおかげで、潤沢な資金(神力)があるので、前々から考えていたことを実行していた。
それが何かというと。
「・・・・・・さ、寒っ!!」
転移門を通って第十五層に着いたミアが、一番最初に言った言葉がこれだった。
「ミア様、大丈夫ですか?」
「まあ、万年雪が積もっている所だしねえ」
両手で自分の身体を擦り始めたミアをミカゲが気遣うような表情になり、一緒に付いてきた考助がのほほんとした顔でそういった。
ミアは、そんな考助を恨めし気な表情で見た。
「な、なぜ父上は、そんな平気そうな顔で立っているんですか?」
「ああ、ゴメン。サラのおかげ」
考助がそう言うと、その右肩に火の妖精が現れた。
「ず、ずるいです」
「ははっ。まあ、今回はサラがいるからいいけれど、次からは僕がいないときの対策を考えていた方が良いね」
「・・・・・・そうします」
張り切って第十五層に来たのは良いのだが、結果として考助の手を煩わせてしまったことに、ミアは若干落ち込んでしまったようだった。
勿論、考助としてはそうなることを見越して敢えて黙っていたのだ。
ミアが第十五層の管理を始めるにあたって、一番最初にやったのが環境の変化である。
考助は、ミアになにをするのか聞いたときにいわれてようやくそう言った機能があったことを思い出した。
そもそも考助は、塔の環境を大きく変えたことはほとんどない。
あえて言うとすれば世界樹のあった階層の階層合成をおこなったくらいで、環境そのものを大きく変えたことは無かった。
急激な環境の変化によって、その階層に住む生物が死滅するのが嫌だったとかそういう事ではなく、単純に忘れていただけだ。
最初のうちは、神力が足りなくて出来なかったのと、元々の環境で出来ることを探すのが楽しかったので、すっかり記憶の彼方に葬り去っていた。
そのため、今回ミアが環境を変えたことで、階層にどんなことが起こるのかを確認するため、ミアと一緒に付いてきたというわけだ。
当然のように考助の傍には、コウヒとミツキが控えている。
流石に寒すぎたのか、意地を張らずに素直に考助に助けを求めた。
考助も意地悪をするつもりはなかったので、すぐにサラに自分と同じ魔法をミアとミカゲに頼んだ。
そのおかげで寒さを感じなくなったのか、ミアは元気に辺りを散策し始めた。
とはいえ、それもすぐに阻まれてしまった。
新雪という大敵に。
「・・・・・・雪が深すぎて、進めません」
「あ~。これは駄目だね。根本的に対策を考えないと」
雪の上で無邪気に駆け回っているミハクとミクロを見ながら、考助はのんびりとそう言った。
勿論、コウヒとミツキに頼んで雪の上を歩けるようにすることもできるが、ミアが第十五層に来るたびに毎度毎度頼むわけにもいかない。
コウヒもミツキもミアから頼まれれば断りはしないだろうが、ミア自身が二人は考助(父上)のために存在していると考えている。
折角考助から階層の管理を任されたので、出来る限り自分の力だけでどうにか解決したかった。
いきなり出鼻を挫かれた自然という敵(雪)前に、ミアは多少落ち込みつつ管理層へと戻るのであった。
いきなり自然という敵に阻まれたミアでした。
もっというと、考助も深い雪では動くことすらままならないという事をすっかりと忘れていましたw
出来るだけ考助の手を借りたくないと考えているミアが、どう解決するかは、次話で。
こう前振りをするとすごいことを考えていそうですが、大したことではありませんので、あまり期待しないでお待ちくださいw




