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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4部 ミアの挑戦
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(1)結婚相手

 セイチュンの街でやることを終えた考助たちは、アマミヤの塔の管理層で寛いでいた。

 西大陸で旅行を始めてから、既に一年以上が経っている。

 旅に出る前は、長男のトワが学園を卒業した後の事だったが、ミアも学園を卒業している。

 考助としては、子供たちの卒業式などにも出てみたいのだが、流石にそれはフローリアから止められている。

 実の親として出席すればとんでもない騒ぎになるのは間違いないので、考助としても涙を飲んであきらめていたりするのだ。

 トワとミア以外の子供たちも、順調に学園生活を過ごしているようだった。

 ただし、順調と言っても、いろんな意味で注目は浴びている。

 そもそもトワもミアも優秀すぎるほど優秀な成績で卒業しているのだ。

 そのほかの子供たちも、その兄弟姉妹らしく優秀な成績を修めているようだった。

 その辺は蛙の子は蛙、という事だろう。

 もっとも、考助に言わせれば、前の世界にいたときは決して優秀とは言えなかったので、母親のおかげだという事になる。

 とはいえ、それを考助が言うと、他の者たちから呆れたような視線を向けられるので、一度だけ言ってそれ以降は言わないようにしている。

 

 近況という事で、考助はピーチからそんな話を聞いていた。

 だが、くつろぎスペースのソファーで寝転がっていた考助は、自分が寝そべっているソファーとは別のソファーの方を見た。

 そこには、学園を卒業したミアが自分と同じように寝転がっていた。

 とても学園をトップで卒業した才色兼備と噂の王女とは思えない姿である。

 こんな所は似なくていいのに、と考助はため息を吐きながらミアの方を見た。

「ミア。城へは戻らなくてもいいの? ここ最近、ずっと入り浸っているだろう?」

 考助の言葉に、ミアが体を起こした。

 その辺りは、きちんと教育が染みついているのだろう。

 そのミアは、キョトンとした表情で考助を見ている。

「もしかして、お邪魔でしたか?」

「いや。そう言う事じゃなく、単に向こうで仕事をしなくていいのかと思っただけだよ」

 首を振ってそう言った考助に、ミアは肩を竦めてうんざりとした表情になった。

「あちらにいても、私に求められるのは、縁談のお話ばかりだもの。お兄様のお手伝いをしようにも、側近たちには止められますし」

「あ~。・・・・・・なるほど」

 何となく事情を察した考助は、曖昧に頷いた。

 

 今のミアの立場は、微妙な位置にいる。

 トワに何かがあれば、次代の女王という事になるのだが、王太子であるトワはいたって健康で能力的にも次の王として何の問題もない。

 問題が無いどころか、早くも周囲の期待が高まっているのだ。

 トワ自身もそれに応えられるだけの力があり、加えてそれを望んでいる。

 対して、ミア自身には女王になりたいという欲求はさほどないのだ。

 勿論、ミアに近づいて来る者の中には、そうした甘言を言って来る者もいる。

 だが、そうした者は、ミアの目から見ても単に甘い汁を吸いたいだけの、ミアをたやすく操れると考えている者しかいないのだ。

 そんなくだらない甘言に乗ってまで、トワを引き摺り下ろそうなんて気には、とてもではないがなれない。

 そもそもミアは、王女になるよりは、塔の管理をしている方が楽しい。

 この辺りは、母親ではなく父親の血を濃く引き継いでいるのだと、自分自身でも納得していた。

 そんな気質を持ったミアの為、彼女が城にいてもまともな仕事は与えられずに、むしろラゼクアマミヤの力を増すための婚姻の話を持って来られるのが常だった。

 そんな状況にうんざりしたミアは、考助が長い旅から戻って来たのを幸いに、管理層に籠っているというわけだった。

 

 その辺りの事情を察した考助は、ミアを見ながら何気なく言った。

「ミアは、結婚することは考えていないの?」

 トワは、ダニエラとの交際を順調に続けている。

 ダニエラの家柄から周囲から揶揄される場面もあるようだが、トワが上手くさばいているのだ。

 気の早い者の中には、結婚ももはや秒読みだろうという者までいる。

 対するミアは、結婚どころか、そのお相手すら姿形も見えない状態だった。

 お節介な側近だけではなく、有象無象が寄ってたかって婚姻話を持ってくるのもある意味当然といえるのだった。

 だが、その当人はというと。

「お相手がいません。城にいて勧められる縁談は、ほぼ間違いなくドラ息子かバカ息子ですもの」

 そうきっぱり言ったミアに、考助は苦笑を返すしかなかった。

 ただし、ミアの言葉はかなり誇張が入っている。

 勧められた縁談の中には、きちんとした男がいるのも確かだった。

 問題なのは、ミアの持つ基準の高さなのだが、それには考助はもとより本人も気づいていない。

 当然ながら、母親であるフローリアはその辺りはしっかりと気付いているが放置している。

 自分自身も元王女として、婚姻に関しては苦労(?)をしてきたので、敢えて何も言わないでいるのだ。

 

 くつろぎスペースで二人の話を聞いていたシュレインが、口を挟んできた。

「なんだ。ミアほどの器量があれば、街を歩けばいい男はいくらでも捕まえられるだろう?」

「外見だけに魅かれてくる男は、碌な方がいません」

「なるほどのう」

 ミアの言葉に一応納得して見せたシュレインだったが、問題点もなんとなく把握している。

 そもそもミアの身近にいる男が、スペックが高すぎるのだ。

 現人神である考助を父に、次代の王としてはっきりと他の者たちよりも高い能力を持っているトワを兄に持っているのだ。

 自然と基準が高くなるのも当然だろう。

 大体にして、管理層にいるメンバーは、こと恋愛に関しては誰も参考にすることは出来ない。

 何しろ、考助というこの世界で一番あり得ない存在が、対象になっているのだ。

 そんなものを基準にしてしまえば、いつまでたっても相手は出てこないだろう。

 もっとも、そこは寿命が長いシュレインの事だった。

「まあ、気長に相手が出てくるのを待つしかないのう」

 そんな結論を出してしまうのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 その日の夜、時間が出来たという事で、食事をとるためにフローリアが管理層に来ていた。

 その時の会話で、昼間に話した話題が出たのだが、ミアの母親であるフローリアも、

「まあ、のんびり考えればいいのではないか?」

 と言っていた。

 ラゼクアマミヤが、周辺諸国と婚姻関係を結んででもバランスを取らなければならないほど難しい立場にあれば、フローリアもそのようなことは言わなかっただろう。

 だが、現状ラゼクアマミヤは、そのような立場にはない。

 むしろ、変にミアが国外に出て結婚すれば、その大陸のパワーバランスがおかしいことになり兼ねないのだ。

 そんな微妙な立ち位置にいることをよくわかっているので、フローリアもミアの結婚を急いで決める必要が無いと考えているのだ。

 

 そんな何とも立ち位置にいるミアはというと、何故か考助の方を見てぷっくりと頬を膨らましていた。

「? どうしたの?」

「・・・・・・父上は、私に早く結婚してほしいのですか?」

 なぜミアがいきなりそんなことを聞いてきたのか分からずに、考助は少しだけ首を傾げて答えた。

「いや、どうだろう? 決まったら決まったで寂しくなるとは思うけれど?」

 素直にそう答えた考助だったが、その答えを聞いたミアはニコリと笑った。

「そうですか」

 考助はその笑顔の意味が分からずに首を傾げたが、食事を共にしていた他のメンバーたちは内心で大きくため息を吐くのであった。

第四部スタートです。


ただ、一応第四部としていますが、ミアがメインの話が続きそうなので、以前のように閑章扱いにするかもしれません。

ご了承ください。

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