(45)攻略者
第七十一層への調査は二週間ほどかけて行ったので、考助たちがクラウン支部に戻るころには当初の混乱からは多少落ち着いていた。
セイチュン支部で発行できるカードはあくまでも仮のカードなので、本部へ転移をして本物のカードへ変更しないといけないが、それはいつでもできる。
今はまだ仮カードを発行した者たちの半分くらいしか切り替えが出来ていないようだが、それもすぐに終わると見ている。
噂に聞くクラウンカードのステータスを見た冒険者たちが、その有用性に気付いているからだ。
ステータスが表示されない仮のカードをいつまでも持っていてもしかたないことは、それを見た者たち全員が気が付いている。
クラウンカードに関しての混乱はそんな感じで落ち着いてきているが、今は素材の買取カウンターでの混乱が起こっている。
これは主に、相場というものが理解できない冒険者が多いための混乱だった。
依頼でもない素材の買取は、値段が変わりやすいという事を理解していないのだ。
当然、以前買い取ってもらった時よりも値段が下がっている時に文句を言う冒険者がほとんどだった。
もっともそれに関しては、元々アマミヤの塔で活動していた冒険者が、ごく当たり前のこととして利用しているために、すぐに解消するだろうと見込んでいる。
それでも騒ぐ場合は、買取カウンターの利用停止措置や、最悪の場合クラウンカードの剥奪といった措置も取られるので、ほとんどのものはむやみに騒ぎを起こしたりはしないだろう。
クラウンカードの発行から買取カウンターの問題まで、クラウンの職員にとっては既に慣れた道だ。
考助が下手に意見するよりも任せてしまった方が確実である。
支部のカウンターが賑わうのを横目で見ながら、考助たちは転移門がある部屋へと向かうのであった。
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考助は、第七十層で見た神殿とそこに描かれている絵画については、まだ広めることをしないようにリリカには言ってある。
管理層に着くなりシルヴィアを呼び出して、それらの事について説明をしたので、大事にはならないだろう。
神殿と絵画の事について秘匿し続けるかは、まだ保留としてある。
それらの扱いに関しては、直接本人に聞いた方がいいと考えているためだ。
そして考助は、どうすべきか女神たちに聞いてくる、といって神域へと向かった。
「いらっしゃい」
直接館へと転移した考助を、アスラが今まで見たことが無いような笑みを浮かべて出迎えてくれた。
アスラの傍には、エリス、スピカ、ジャルの三姉妹も揃っている。
考助が訪ねてくるのを待っていた雰囲気だった。
「やあ。待たせた、のかな?」
軽く右手を上げてそういった考助に、アスラは相変わらず笑みを浮かべたまま答えた。
「どうかしら? 長かったとも言えるし、思ったよりも早かったとも感じるわね」
考助としては、ガゼンランの塔の第七十層に着いてから神域に来るまでの時間についてを聞きたかったのだが、アスラは別の意味で受け取っていた。
もっともそれは、いずれは聞こうと思っていたことなので、考助にとってもどちらでも構わない。
「そう」
短く頷いた考助は、一拍置いてから本題に入った。
「一応確認するけれど、あれはアスラで間違いないんだよね?」
「ええ、そうよ。あれだけのヒントがあって答えに辿りつけなかったら、ちょっとがっかりだったわよ?」
そう言ったアスラは、いつものように悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
<アエリスの水><ラスピカの水><スジャルの水>と三つの水の名前を見て、アースガルドの普通の者たちでも三大神に関わる水だというのは分かるだろう。
だが、三大神の名前を取って、順番を入れ替えると別の名前が隠れていると分かる者はまずいない。
何故ならその名前は、アースガルドの世界では完全に消え去っている名前だからだ。
その名前の持ち主は、言うまでもなく今考助の目の前にいるアスラの事である。
最初からアスラの事を知っている考助は、勿論すぐに気が付いた。
コウヒやミツキも気づいているだろう。
だが、他の者たちは考助の態度で何かあると分かっていても、それが何かまでは分からないようだった。
三つの水の名前に、まさか四番目の女神の名前が隠れているとは、その名前を知らない限りは思いつきもしないのだ。
アスラの言葉に、考助は肩を竦めた。
「いくらなんでも、気付かないなんてことはないよ」
「それもそうね」
嬉しそうに笑みを浮かべるアスラに、考助は神殿にあった絵画の事について聞くことにした。
「それで、あの神殿にあった絵画を見る限りでは、ガゼンランの塔を攻略したのはアスラというのは間違いないんだよね?」
考助の確認に、アスラは頷いた。
「ええ、そうよ。それにしても懐かしいわ。当時はエリスたちもいなかったもの。塔に出てくる魔物のレベルが全体的に低かったとはいえ、かなり無茶なことをしたわよ」
流石にそれには考助も驚いて目を丸くした。
「え? エリスたちはいなかったんだ」
「それはそうよ。エリスたちは、私が神族になってから眷属になったんだもの」
それを聞いた考助が思わずエリスたちに視線を向けると、彼女たちも頷いていた。
「はい。私たちは、当時この世界を治めていらっしゃった神に創られました」
代表してエリスがそう言った。
「当時の神? やっぱりいたんだ」
「それはそうよ。もっとも、今はどこで何をしているのか、さっぱりわからないけれどね」
思わぬ情報に考助が目を瞬いていると、アスラが頷きながらそう言った。
「それにしても、一人で塔を攻略って・・・・・・ずいぶんと無茶なことするね」
コウヒとミツキに頼りっぱなしで攻略した考助とは大違いだ。
若干呆れたようにそう言った考助に、ジャルが面白そうな表情になった。
「今でこそ丸くなっているけど、当時のアスラさまは、中々面白い二つ名で呼ばれたりしていたわよ?」
そんなことを言ったジャルを見て、エリスとスピカは考助から視線をそらした。
どうやら本当の事らしい。
何より、アスラの笑顔が怖かった。
「あら、ジャル。そんなことを言って良いのかしら?」
「あ、あれ? 私、よ、余計なこと言った?」
冷や汗を流しながらアスラを見たジャルだったが、「後で覚えておいてね」と言われて、ガックリと肩を落としていた。
それは置いておくとして、と言ってからアスラがさらに続けた。
「あとはまあ、考助の予想している通りよ。塔を攻略した後は、貴方と同じように神になったわけ。もっとも私の場合は、貴方と違って現人神ではなかったけれど」
「え? そうなの?」
「ええ、そうなのよ。それこそ当時の神が、いきなり世代交代を望んでね。私もそれを受けたというわけ」
アスラのその言葉に、考助は目を丸くした。
「それはまた。すぐに了承するってすごいね」
「ああ、いえ。勿論、多少の時間差はあったわよ? ただ、当時の神は、元々表に出ている存在ではなかったから。交代のときもそんなに混乱しなかったわ」
アスラが塔を攻略した時は、神というよりも世界の管理者という立場だったようだ。
そのため、管理者の名前が表に出てくるといったことはなった。
だが、アスラに世代交代した時に、もともと知られていた彼女の名前が神として知れ渡ったというわけだ。
中には反発する者もいたようだが、概ね神として世界に受け入れられていった、というのが当時の流れというわけだ。
ついでに言うと、神の代弁者としての存在が広まったのもこの時からだ。
当然その役割を担ったのが、エリスたちという事になる。
だが、しばらくはそれで世界を管理していたのだが、ある時その体制に変化が訪れることになったのである。
というわけで、アスラの過去でした。
アスラの過去話とこの世界の神の話はもう少しだけ続きます。
あと一話、かな?




