(31)決着
『ああっとー! ついにジアーナの大技が決まったー! これは勝負あったのか!? というか、コリーは無事なんだろうか!』
ホスエのアナウンスがそう流れると、観客たちは固唾を飲んで会場を見守っていた。
ジアーナの放った爆炎灼風は、それほどまでに圧倒的な威力を見せたのだ。
普通に考えれば、戦闘続行よりも命の心配をしないといけない。
放たれた魔法で起こった爆風で、土埃が舞い上がってその中心部にいるコリーの様子はほとんど分からない状態だ。
観客たちは、その埃が収まるのをじっと待っているのであった。
ところが、そんな観客をよそに、一度舌打ちをしたジアーナが再び魔法の攻撃を繰り出し始めた。
「・・・・・・予想以上にタフね。あれを食らっても倒れないとは、ね」
そんなことをつぶやきながらも攻撃の手を止めることは無い。
ようやく会場の視界が状況を確認できるほどに改善した時には、きっちりとジアーナの攻撃を捌いているコウヒの姿が見えた。
先程の大技の影響はほとんど見えずに、相変わらず淡々とジアーナからの攻撃を捌いていた。
「まったく、タフにも程があるってんでしょう・・・・・・!?」
今までの攻撃よりも一段上の魔法を放っていたジアーナだったが、突然その手を止めた。
淡々と自分の攻撃を捌いていたコウヒに、変化が見られたのである。
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『ようやくこちらからも戦闘の様子が見えるようになりました。ここから確認する限りでは、コリーは深刻なダメージをおっているようには見えません!』
ホスエがそうアナウンスすると、コウヒの応援者からは安堵の絶叫が響いた。
一方、ジアーナに賭けている者たちからは、悔しげな声が上がった。
『それにしてもコリーはタフです! いや、タフというよりも先ほどの大技もしっかり防ぎ切ったのでしょうか? 全く変わった様子が見えません。
ジアーナとしては、多少でもダメージをおっていてほしいところでしょう。コリーには半端な攻撃は効かないと判断して、既に攻撃の段階を一段上げているように見えます』
これまでも普通では考えられない程の濃密な攻撃を繰り出していたジアーナだったが、コウヒへのダメージが見られないと判断してさらに上の攻撃をしていた。
まさしくセイチュンの闘技場のトップ5に入るほどの実力があるといえるだろう。
それほどまでの攻撃だった。
上級ランクの者はもとより、トップ20に入っている者たちでもこの攻撃を防ぐことはできなかったに違いない。
だが、相手のコウヒは相変わらず淡々と攻撃を防いでいた。
『それにしてもコリーは凄いです。防戦一方になっていますが、今のところダメージをおった様子は見られません。普通はこんな攻撃喰らったら無事に立ってはいられないんですがね』
ホスエは、若干呆れたように言った。
ジアーナが以前に他のトップ5と戦った時でさえ、いま目の前で起こっているような戦いにはならなかった。
完全に魔法の防御をしたうえで、力押しで行くか、合間を縫って魔法を繰り出して終わっていた。
コウヒのように、ジアーナの魔法をまともに食らい続けていた者はいないのである。
ホスエが呆れたのもある意味当然といえるだろう。
そんな中ジアーナが攻撃の手を止めたことにホスエが訝しげな声を上げた。
『おや、どうしたんだ? まさか息切れという事は無いだろうけれど、何かあったのだろうか?』
唐突に止んだ攻撃に、会場もただの熱狂とは違うざわめきに包まれた。
この時の会場もまた、これから何かが起こると予感していたのかもしれない。
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ジアーナが攻撃の手を止めたのにはわけがある。
これまで淡々と攻撃を捌いていたコウヒに、変化が見られたためだ。
具体的になにか、と問われると答えるのが難しいが、確かにジアーナは何かを感じ取っていた。
そしてその感覚が間違っていなかったかのように、これまでジアーナに対して無言だったコウヒが口を開いた。
「貴方には謝罪しないといけませんね」
「謝罪?」
唐突に何を言うのかと、ジアーナは思わず反応してしまった。
「はい。謝罪・・・・・・と感謝でしょうか」
「何が言いたいのよ?」
「確かに私は貴方の事を舐めていたようです。いえ。闘技者全体を、というべきでしょうか」
そのコウヒの言葉に、ジアーナはチッと舌打ちをした。
確かにコウヒの態度はそういうところがあった。
だからこそ、力で圧倒して思い知らせようと考えていたのだが、今のところ攻めあぐねているというのが本音だった。
こうしてコウヒの会話に付き合っているのも、この後の攻撃を考えているためだ。
だが、そんなジアーナの考えは、次のコウヒの言葉と行動で吹き飛んでしまった。
「お陰で、人同士の戦いにもしっかりと意味があると思わされました。感謝のしるしに私も私の戦い方を示そうと思います」
そんなことを言ったコウヒは、一度だけ目を閉じてすぐにジアーナを見据えた。
「っ・・・・・・!?」
たったそれだけの動作だったのだが、一変したコウヒの雰囲気に、ジアーナは息を飲むこととなった。
無意識の動作だったのだろう。
すぐ後にそのことに気付いて、今度は自分の行動に舌打ちをしていた。
「貴方は確かに相対する相手の力を読み取ることに長けているようです。でも言ってしまえばそれだけなんです」
「何だって?」
思ってもみなかったことをいわれたジアーナが、思わず聞き返した。
「貴方のその力は、闘技場での対戦を繰り返して培ったのでしょうが・・・・・・モンスターを相手に戦う事もおすすめいたします」
コウヒはそう言ってから、一度言葉を区切ってから続けた。
「・・・・・・そうすれば、こんな経験もするでしょうから」
そのコウヒの台詞を聞いたあと、ジアーナは一瞬で相手との距離を取った。
それまでコウヒから感じ取っていた力が、一気に増大したのを感じ取ったのだ。
いきなり距離を取ったジアーナに、会場が不思議なものを見ているような感じになっていた。
だが、そんな会場の様子は、対戦者にとっては全く関係が無い。
距離を置いて息をついたジアーナが、本人は認めないだろうが、多少震える声でコウヒに話しかけた。
「何なのよ。なんでそんなにいきなり変わるのよ!?」
「モンスターの中には、自らの実力を隠して相手に近づいていくものもいます。勿論人にも上手く気配を隠す者がいますが、それとはまったく別の方法が取られています」
淡々とそう語るコウヒに、ジアーナは目を見開いて見ていた。
既に今までのコウヒとは段違いの強さに、自分との実力差も分かっているのだ。
「では、行きます」
最後にコウヒはそれだけをいって、ジアーナへと向かって行った。
コウヒが行った攻撃自体は、最初に行ったのとまったく同じだった。
ただし、そのスピードは全く違っていた。
最初の時よりも距離を取っていたのにもかかわらず、その時よりも遥かに速いスピードで近づいて行った。
ジアーナは咄嗟に最初と同じように防御のための結界を張ったが、それも全く意味をなさなかった。
全く気にした様子も見せずに突っ込んできたコウヒは、持っていた剣でその結界を切り裂く動きを見せて、たったそれだけで結界をあっさりと破って見せたのだ。
「は、ははっ」
それを見たジアーナは諦めのため息をついた。
既にコウヒは結界を越えて凄まじい速さで近づいている。
今から魔法を出そうと思えば出せるが、全く意味をなさないことは分かっていた。
それでも意地を見せようと魔法を繰り出したが、コウヒはその予想通りあっさりと弾いてからジアーナの目では追いきれないほどのスピードで剣を動かした。
気付いたときには、コウヒが持つ剣はジアーナの首筋に当てられていた。
コウヒが止めなければ、その首はあっさりと上下に分かれていただろう。
まごうことなくジアーナの敗北だった。
素直に敗北宣言をしたジアーナは、ふと思ったことをコウヒに聞いた。
「一つ聞いていいかしら?」
「なんでしょうか?」
「その枷(?)みたいなものは、一体いくつあるのかしら?」
その問いに少しだけ返答に詰まったコウヒは、若干答えるのをためらった。
「・・・・・・数えたことが無いのでわかりません」
それだけを言ってコウヒは会場を去って行った。
そして、その場に残ったジアーナは、顔を押さえながら笑いをこらえるような様子を見せるのであった。
もう一話行くかと思いましたが、何とかこの話で収まりました。
まあ、次の話で会場の様子とかを書くのですが。
戦闘自体はこれで終わりになります。




