(26)例外対応
第五十二層で泉の調査をした考助たちだったが、それ以降は特に何も見つからなかったので一旦拠点へと戻ることにした。
今回は元々素材を集めるために塔に入っていたので、その素材を納めないといけない。
期限はまだ余裕があるのだが、早く渡したほうが喜ばれるのは間違いない。
しかも、今回は公的ギルドの依頼も合わせて行っているのでなおさらである。
拠点へと戻った考助は、素材を塔攻略ギルドに渡すものとそうでないものに分けた。
さらに塔攻略ギルドに渡すもの以外は、公的ギルドの依頼用かそれ以外に分けられる。
それ以外に分類された物で公的ギルドの掲示板に出ているものは、その場で処理することにした。
更に余ったものは、あとでクラウンの商業部門に売り払うのだ。
「そういえば、ロマン達も余った素材の処分に困っているんじゃない?」
素材の分別をしていた考助だったが、その様子を見ていたエクに問いかけた。
いつもの通りに襲いかかって来た魔物を限界ギリギリまで持ち帰っていると、その素材の処理に困っているはずだ。
この大陸でもセントラル大陸と違って、依頼分の素材しか持ち帰らない習慣になっているのだ。
冒険者自身が商人ギルドに売り払うという事は、ほとんど無いのである。
例外は、大手の冒険者ギルドが商人ギルドから直接依頼を受けたときくらいだ。
考助に問いかけられたエクは、首を上下に振って頷いた。
「はい。ですので、一度保管所で預かってのちほど担当者に確認してもらう事にしました。週に一度本部から人をよこしてもらうようになっています」
既にエクはその問題を把握していたようで、しっかりと対策が取られていた。
週に一度だけ拠点の部屋に転移門をつなぎ、そこから担当者を呼び寄せて買取を行わせるのだ。
勿論、転移門を繋げることは他には秘密だ。
「そっか、それなら心配ないか」
素材の買取価格はセントラル大陸での相場になってしまうが、それに関してはどうしようもない。
正式にクラウンの支部として活動が出来るようになれば、いずれは整合性が取れるようになっていくだろう。
そもそも転移門が設置されれば距離の問題が無くなってしまうので、地域間の格差が減少する傾向にある。
これまでの経験からそういったことも分かってきているのだった。
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素材の整理を終えた考助は、コウヒとピーチを伴って公的ギルドへと赴いた。
一度、受けていた依頼の処理をしてもらったあとに、掲示板を確認する。
持っている素材の中で処分出来る物があればしてしまうのだ。
予想通り、出ている依頼の中でいくつか処分の出来るものがあったので、それを纏めて受付へと持っていった。
考助が持って来た依頼を見て、受付嬢は一瞬怪訝な表情になったが、パラパラとめくって内容を確認したあとは、納得した様子ですぐに処理に入ってくれた。
それを見た考助は、中々優秀な受付だなと内心で感心していたが、これには理由がある。
本来、一パーティが受けられる依頼の数には限界があるのだが、考助はその限界を超えて持ってきていた。
それを指摘しようとして一瞬怪訝な表情になったのだが、ある条件を満たせばその限界を超えて依頼を受けることが出来るのだ。
考助が持って来た依頼を確認した受付嬢は、すべてその条件を満たしていると確認したので、何も言わずに処理を進めたのである。
だがそれはあくまでも例外対応で、それを知らない者も多かったりする。
そう。たった今考助に絡んできた一人の冒険者のように。
「おい。ちょっと待てよ」
その声に反応して振り向いた考助は、その先に納得いかないといった表情になっている冒険者がいるのを確認した。
「何か?」
「何か、じゃねーよ。なんで、お前が特別扱い受けているんだよ!」
「特別扱い?」
首を傾げて不思議がった考助に、その冒険者は苛立たしげな顔になった。
「とぼけてんじゃねーぞ! お前が限界数を超えて依頼を持って行ったのは、ちゃんと見ていたんだからな!」
考助は、冒険者がそういうのを聞いて内心で納得した。
ついでに、様子を見ていた他の冒険者たちがザワリとこちらに注目したのも確認できている。
「いえ。これは別に特別扱いじゃないですよ?」
「ふざけんな! 普通は限界数を越えて依頼は受けられないだろ!? それのどこが特別扱いじゃないってんだ!」
周囲の注目を浴びているのに気付いたその冒険者は、周りの冒険者達がその言葉を聞いて納得した表情になったのを見て気を良くしたのか、得意げな表情になった。
それを見た考助は、さてどうしたものか、と内心で考えた。
別に自分で言ってもいいのだが、納得してくれるかは微妙だったのだ。
そのとき、こちらを伺っている受付嬢に気が付いた。
それを見た考助は、説明を受付嬢に任せることにした。
自分が言うより、きちんとギルドの職員から説明してもらった方が、他の冒険者達も納得するだろうと考えたのだ。
「説明、お願いしても良いですか?」
突然自分を見てそんなことを言って来た考助に、受付嬢は一瞬目を丸くしたが、すぐに納得したのか一つ頷いてから考助に絡んできた冒険者に説明を始めた。
「イル、私が説明します」
どうやら受付嬢は、絡んできた冒険者と知り合いだったらしい。
お気に入りの受付嬢が考助を特別扱いしたことが気に入らなかったのか、あるいは考助に脅されたのかと勘違いしたのかは分からなかったが、妙に納得した考助だった。
「マイヤ、けど・・・・・・」
イルと呼ばれた冒険者は、チラリと考助を見てなにかを言おうとしたが、受付嬢のマイヤに遮られた。
「まず、私は別にコウさんに特別扱いなどしていません」
「だったら・・・・・・!」
「話は最後まで聞いてください」
恐らく知り合いであろう二人だが、あくまでも受付嬢としての態度を崩さないマイヤに、イルは言葉を止めた。
何となく普段の二人の力関係がわかるやり取りだ。
言葉を止めたイルを見たマイヤは、話を続けた。
「受けられる依頼には限界がありますが、それには例外があります」
「例外?」
初めて聞くというような表情になったイルに、マイヤはため息を吐いた。
「ちゃんと説明したのに・・・・・・」
何やらそう言いながらぶつぶつ呟いていたが、気を取り直して説明を続けることにしたようだ。
ちなみに、このやり取りに注目していた他の冒険者達も、イルと似たり寄ったりの顔になっている者もいる。
中には、その言葉だけで状況を把握した冒険者もいたようだったが、圧倒的に少数だった。
「依頼期限が過ぎている物で、すぐにその場で素材を渡せるものに限っては、依頼数の限界を超えて処理することが出来ます。勿論、依頼期限が過ぎているので、場合によっては依頼料が下がる場合もありますが」
「そ、そうなのか?!」
驚くイルに、マイヤはあからさまにため息をついた。
「そうなのです。勿論例外対応なので他にも色々とありますが、これだけ押えておけばまず大丈夫です。コウさんが持って来た依頼は全てその条件を満たしています」
そのマイヤの説明に、イルはばつが悪そうな顔になって考助を見て来た。
自分が的外れな絡み方をしたことに、ようやく気付いたのだ。
「すまなかった」
多少ぶっきらぼうには聞こえたが、しっかりと頭を下げたあと、イルは仲間たちがいる所へと戻って行った。
考助が、気にしていないと言う間もなかった。
余程、気まずかったのだろう。
声をかけそびれた考助がマイヤの方を見ると彼女も頭を下げて来た。
「すみませんでした。後で私から叱っておきます」
イルと知り合いであることを隠すつもりはないのか、マイヤがそう言った。
二人の態度で既にばれていることも分かっているのだろう。
「いや、まあ、ほどほどにね」
何となくマイヤの表情から後のイルの状況を予想できた考助は、何となくそう返事を返すのであった。
例外対応について書きたかったので書いた話ですが、マイヤとイルが思った以上に動いてくれましたw
(最初は名前を付ける予定もありませんでした)
もし、読者の皆様の希望があれば再登場もあるかも?




