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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 ガゼンランの塔
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(7)神狼の牙

 呆然としたままの考助を差し置いて、コウヒが現れたワーヒドに話しかけた。

「本部は大丈夫なのですか?」

 コウヒの問いにワーヒドが頷いた。

「多少離れても大丈夫です。部門長たちがいますしね。それに、私は数日で戻ります」

 そのワーヒドの言葉に、ようやく考助が反応した。

「数日?」

「はい。具体的には後々支部になりそうなギルドを作る場所を選んで帰ります。後の細々した手続きなどはエクに任せます」

 考助がエクに視線を向けると、彼女が小さく頷いた。

「そうなの?」

「はい。考助様たちは、今まで通り塔の攻略なり依頼を実行するなりしていてください。ある程度形になりましたら、改めてご相談いたします」

 考助は、特に表情を変えずそう言ったエクを見て「マジ有能」と考えていたのだが、そう思ったのは考助だけのようだった。

 コウヒやミツキは、ただ単に納得したように頷いているだけだ。

「ギルドの拠点が出来ましたら、クラウンからも何人か人員を送って本格的に稼働したいと思います」

 エクの言葉に補足するように、ワーヒドが付け加えた。

 その目的は、考助にも分かる。

 後々の事を考えると、考助達だけで活動するギルドではなく他にも活躍するメンバーがいた方が良い。

 何より、考助達はずっとセイチュンで活動していくわけではないのだ。

 転移門さえ設置できれば、ある程度の問題は緩和できるだろうが、その前にこの街で力を付けて行かなければならない。

 そのためには、どうしても数の力は必要になってくる。

 そうしたことを考えての人員なのだ。

「分かった。それは、僕も考えていたからね。人員の選出はそっちに任せるよ?」

 考助は、信頼できる人をなどと余計なことは言わなかった。

 そんなことはごく当たり前のことで、ワーヒドも同じことを考えているはずだ。

「はい。お任せください」

 ワーヒドがそう言って力強く頷くのであった。

 

 ある程度の打ち合わせを済ませてワーヒドとエクは、別の宿へと向かった。

 残念ながら同じ宿は部屋が空いてなかったのだ。

 もっとも、ワーヒドは数日でアマミヤの塔へ戻るし、エクは今考助達が泊まっている部屋に泊まることになる。

 考助達は、二日ほど休みを入れたらまた塔の攻略を進めることになっている。

 第二十一層まで進めたと言ってもようやく第一歩を踏み出したという所なのだ。

 セイチュンで発言力を上げるには、最低でも第四十層を攻略していないと駄目なのだ。

 欲を言えば第六十層も攻略してしまいたいが、そこまで行く前にある程度ギルドとしての体裁を整えておきたいというのが考助達の考えだ。

 そのためにも、まずは考助達が第四十層を攻略して第四十一層まで進めておく、という話になったのである。

 ただし、第二十一層を突破した時よりは、わざと速度を抑えるつもりだ。

 同じような速度で攻略を進めると、逆に変な疑いをもたれてしまう可能性がある。

 第二十層まで攻略したときも、一度疑われているのだ。

 出来るだけ同じようなことは繰り返さない方が良いという判断だ。

 

 セイチュンの街で色々な食事を楽しんで二日の休暇を取った考助達は、公的ギルドでいくつかの依頼を受けて再びガゼンランの塔へと向かった。

 今度は五層を一週間程かけて攻略する予定だ。

 受けている依頼をこなすというのもあるのだが、その他にも後続でこの層を攻略するメンバーのために、ある程度の詳細なマップ情報を取得する目的もある。

 ただ、調べるのが一日一層程度なので、そこまで細かくは調べられないのだが。

 そんな感じで考助達が第四十一層に到達する頃には、ギルドの拠点となる建物が完成したのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「こうやって完成した物を見ると、やっぱり大きく見えるね」

 考助が目の前にある建物を見ながらそう言った。

 ギルドの拠点となる建物を建てた場所は、結局ガゼンランの塔の麓になった。

 そのため使える土地が広かったというのもあるのだが、建物の大きさがかなり大きくなっている。

 セイチュンにあるどのギルドよりも一番大きな建物だろう。

 当然いきなりそんな建物が建ち始めたので、建設中は街の者達の注目も浴びていた。

 そんな考助の感想に、エクは涼しい顔で立っている。

「今は中に何も入っていないのでそう見えるかもしれませんが、何れは狭く感じると思いますよ?」

 エクとしてはさほど無茶な大きさにしたつもりではないのだ。

 何しろこの後、この拠点には転移門が出来てアマミヤの塔と繋がる予定になっている。

 アマミヤの塔から向かう人の流れと、ガゼンランの塔側から向かう人の流れを考えれば、どうしてもある程度の大きさは必要になるのだ。

 

 考助としてもそのことは分かっているので、今ある違和感には目をつぶって頷いた。

「まあ、そうなんだけれどね。それにしても、よくこの短期間でこれだけの建物を建てたよね」

「なんでも、久しぶりの大型受注という事で、この街の建築士が総動員されたようですから」

「え? それって大丈夫なの?」

 街の中には、当然のように人が住む建物がある。

 それらを維持するだけでも建築士は必要になるはずだ。

「勿論、維持に関わる人間はそちらに回っていたようです」

「それならいいんだけれどね」

 それにしても新規建築が他になかったのかは疑問がある。

 エクがこの建物を発注するのに一体どれだけの金額を出したのか、考えるだけでも恐ろしい物がある。

 もっとも、考助の個人的な懐は痛んでいないので、特に問題はないのだが。

 

 考助達が新しく作ろうとしているギルドの話題は、何も塔の麓に作ろうとしている大きな建物の事だけで広まっているわけではない。

 最初に半月ほどでギルド設立の条件を満たしてしまったことから始まって、その後も依頼をこなしつつ五階層ずつ攻略を進めたことも話に上がっていた。

 流石にここまでくれば、他のギルドからの注目も浴びるようになる。

 ただし、その大多数は出来たばかりのギルドでどこまで出来るのかという様子見をしているのがほとんどだ。

 何しろ、まともに活動している構成員が考助達しかいないのだからそう考えられてもおかしくはない。

 後残りは、作ったはいいがその後全く振るわないギルドのやっかみだった。

 そうしたギルドは簡単に第四十一層を突破してしまった考助達に手を出せるほどの実力もないので、実害はないだろうという話だ。

 こうした情報は、考助達が塔の攻略を進めている間に、エクが集めて来たものだ。

 もっとも、エクが走り回らなくても、冒険者の間では考助達が作ったギルドの話題で持ち切りだそうだ。

 それほどまでに考助達がやっていることは、最近のセイチュンにとっては話題性抜群だという事だろう。

 

 今後は一定の発言力を持つために、様子見をしている他のギルドを引きつける必要がある。

 別に吸収合併を目指しているわけではないが、いざというときに同調した意見を持ってくれるだけでも十分なのだ。

 勿論、そうはさせじと既存の勢力が動いてくることも考えられるが、それはその時の事だ。

 それに、セイチュンの街で発言力を強めるためには、塔の攻略を進める以外にも方法がある。

 そちらの方法も今後は進めていくつもりだった。

 何はともあれ、今はギルド拠点の完成を待って発表することがある。

 今まで具体的には広まっていなかったギルド名だ。

 ギルド名は、受付の際に決めていた<神狼の牙>で正式決定になった。

 ナナから取ったそのギルド名は、瞬く間にセイチュンの街に広まっていく事になるのだが、この時はまだ、ほとんど誰にも知られていないのであった。

実は<神狼の牙>という名前を考えるのに一時間ほどかかりました。

・・・・・・。

何をやっているんでしょうね、ホントに。

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